原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 新規抽出剤・吸着剤によるTRU・FP分離の要素技術開発
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 新規抽出剤・吸着剤によるTRU・FP分離の要素技術開発

2.研究開発の実施者

機関名:独立行政法人日本原子力研究開発機構 代表者氏名:木村貴海
機関名:公立大学法人北九州市立大学 代表者氏名:吉塚和治
機関名:国立大学法人東京大学 代表者氏名:藤田豊久
(機関名:財団法人産業創造研究所 代表者氏名:倉岡悦周(平成17,18年度))

3.研究開発の概要

 FBR燃料に対応できる経済的で、長寿命核種の核変換及び廃棄物処分場の負担軽減も可能な分離プロセス構築を目指した技術開発を行う。具体的には、(1) 超ウラン元素(TRU)分離要素技術開発として、筆者らが開発を進めてきた抽出剤テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)をさらに高性能化し、全てのTRUを分離回収する。さらに、マイナーアクチノイド(MA)の処分法の1つである核変換に対応して、独自に開発してきた抽出剤であるピリジンアミド(PDA)などの配位子を含有する新規吸着剤によりMAを分離精製する。また、新規抽出剤の開発を支援するために計算化学的手法を改良する。(2)核分裂生成物(FP)分離要素技術開発として、近年開発されたCs・Srに対し高い選択性を有するカリックスクラウン誘導体やクラウンエーテルを含有する新規シリカ担持型吸着剤及び新規Fe・Pb系化合物吸着剤を用いるカラム分離法により、Cs、Sr、及びMoを効率よく分離回収する。最後に、(3)開発した各要素技術の性能を評価した後、それらで構成した分離システムを提示し、様々な再処理システムへの適合性、有用性等を総合評価する。

4.研究開発予算

平成17年度 68,122千円
平成18年度 226,008千円
平成19年度 213,377千円
平成20年度(予定) 207,000千円
平成21年度(予定) 183,100千円

5.研究開発期間

 平成17年12月 〜 平成22年3月 (5年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1】 TRU分離要素技術開発 ① 全TRU分離技術開発
抽出剤開発:合成技術調査として、DGA及び関連化合物の合成法に関する調査を行う。抽出剤開発として、新規DGA及び関連化合物の合成試験を行うとともに、合成した化合物の溶解度・融点・沸点の測定を行う。
分離基礎試験及び多段抽出試験:分離基礎試験として、合成した化合物について、TRUの抽出特性を測定評価する。多段抽出試験として、ミキサセトラの動作試験を行う。

【研究開発項目2】 TRU分離要素技術開発 ② MA/Ln分離技術開発
吸着剤開発:分離技術調査として、抽出クロマトグラフ法によるMa/Ln分離研究に関する調査を行う。吸着剤開発として、新規PDA化合物の合成試験を行うとともに、抽出クロマトグラフ用吸着剤を調製し、抽出剤の組成・溶解性の測定評価を行う。
分離基礎試験:分離基礎試験として、合成した化合物及び吸着剤について、Am(Ⅲ)とEu(Ⅲ)の分離性能試験を行う。

【研究開発項目3】 TRU分離要素技術開発 ③計算化学的評価
抽出剤設計:アクチノイド錯体の安定性評価のための解析法を調査する。抽出剤構造最適化として、各種DGA系抽出剤の電子状態をCAChe(量子化学計算)により求め、抽出特性との関連を評価する。パラメータ構築として、AmやNpの錯体構造及び量子化学計算結果をもとに、Direct Force Fieldを用いて分子力場パラメータ群を作成する。このパラメータを用いて、錯体の分子力学計算及び分子動力学計算(Materials Explorer)を行い、その計算精度の確認を行う。

【研究開発項目4】 FP分離要素技術開発 ①Cs・Sr分離技術開発
吸着剤開発:分離技術調査として、大環状化合物抽出剤・吸着剤によるCs・Sr分離研究に関する調査を行う。吸着剤開発として、Cs・Sr分離に用いる大環状化合物吸着剤の合成試験を行い、それらの溶解性・安定性を測定評価する。
分離基礎試験及び放射性元素影響評価試験:分離基礎試験として調製した吸着剤について、Cs、Sr、模擬FP元素(いずれも非放射性)及びUを用いて吸着特性の一部を測定評価する。放射性元素影響評価試験として、調製したCs・Sr分離用吸着剤を使用し、放射性元素にTRU及びTcを用いて、吸着特性の測定を行う。

【研究開発項目5】 FP分離要素技術開発 ②Mo分離技術開発
吸着剤開発:Mo分離用吸着剤開発として、新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤及びFe系水酸化物吸着剤を水熱合成し、合成した吸着剤の形状・組成・構造・溶解性を測定評価する。
分離基礎試験:分離基礎試験として調製した吸着剤について、Mo・FPやUの吸着特性の一部を測定評価する。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】 TRU分離要素技術開発 ① 全TRU分離技術開発
抽出剤開発:合成技術調査では、DGA及び関連化合物35種類について、合成文献の有無、合成の可否および合成ルートの調査・検討を行った。
 DGA化合物の合成試験においては、側鎖のアルキル基を系統的に変えてテトラプロピルジグリコールアミド(TPDGA) 、テトラブチルジグリコールアミド(TBDGA)、テトラアミルジグリコールアミド(TADGA)、テトラヘキシルジグリコールアミド(THDGA)、テトラオクチルジグリコールアミド(TODGA)及びテトラデシルグリコールアミド(TDDGA)の6種類のDGAを合成した。合成した化合物の溶解度・融点・沸点の測定では、合成したDGA(6種)と過去に入手したDGA(6種)について、融点、沸点及びn-ドデカンへの溶解性を測定評価した。その結果、側鎖のアルキル基の炭素数が8以上のTODGA、TDDGAに加え、テトラドデシルジグリコールアミド(TDdDGA)及びテトラ-2-エチルヘキシルジグリコールアミド(TEHDGA)が抽出剤候補となることを明らかにした。さらに、上記のジグリコールアミドに加え、関連化合物としてテトラオクチルメチルイミノジグリコールアミド(TOMIDGA)、テトラオクチルチアジグリコールアミド(TOTDGA)、ジメチルジオクチルオキサペンタデカンマロンアミド(DMDOOPDMA)、テトラオクチルマロンアミド(TOMA)などの6種類の化合物を合成した。関連化合物として合成した6種の化合物について、融点、沸点及びn-ドデカンへの溶解度を測定評価した。その結果、いずれの化合物も昇華などの反応がない事、無極性溶媒への溶解性について十分量の溶解が可能である事を確認した。
分離基礎試験及び多段抽出試験:分離基礎試験として、合成した化合物のTRUの抽出特性として0.1 M化合物/n−ドデカンの抽出溶媒を用いて、0.1 M及び3 M硝酸の条件でAm(Ⅲ), Pu(Ⅳ)及びU(Ⅵ)の抽出分配比を測定評価した。TODGA、TDDGA、及びTDdDGAについてはAm(Ⅲ), Pu(Ⅳ)及びU(Ⅵ)の分配比が非常に高いこと、また、TOMIDGA、DMDOOPDMA及びTOMAではPu(Ⅳ)の分配比が3 M 硝酸で高いことなどを見出した。さらに、当初の目標であるDGAの抽出容量についてNd(Ⅲ)を用いて調べた結果、TDdDGAやTODGAにモノアミドを添加した系ではTODGA単独よりも約5倍の抽出容量を持ち、第3相の生成も見られないことから大幅な改善がみられた。
 多段抽出試験のための3種類の抽出系としては、上記の結果から0.1 M TODGA、0.1 M TDdDGA及び0.1 M TODGA -1 M DHOA(ジヘキシルオクタアミド)を選定し、TRU(Np, Pu, Am, Cm) 及びUの抽出分配比を測定評価した。上記3種類の0.1 M DGA/n−ドデカン抽出溶媒を用いて、硝酸濃度 3 M以上の条件でU以外の元素は分配比100以上であり、いずれの抽出溶媒においても全TRUを一括抽出可能であることを明らかにした。
 多段抽出試験用に整備したミキサセトラ3基(容量:約200 cm3、抽出バンク:アクリル製)について、水とn-ドデカンを用いて正常に動作すること(液漏れ無し、攪拌状態良好、界面調整可能等)を確認した。

(当初想定していなかったが副次的に(あるいは発展的に)得られた成果)
 FPの分離基礎試験において、新規化合物であるテトラオクチルメチルイミノジグリコールアミド(TOMIDGA)はTcに高い抽出性能を持つことを見出した。これは当初予想していなかった結果であり、その抽出メカニズムの検討を進めるとともに、この特異な抽出性能について特許出願の手続き中である。

【研究開発項目2】(1)TRU分離要素技術開発 ② MA/Ln分離技術開発
吸着剤開発:分離技術調査では、PDAの合成法、抽出クロマトグラフ用樹脂の合成及び抽出クロマトグラフ法によるMA/Ln分離について調査した。合成法の調査結果をPDA及びクロマト樹脂の合成試験に利用した。また、抽出クロマトグラフ法によるMA/Ln分離ではビストリアジルピリジン化合物以外は用いられていなかった。
 新規PDA化合物の合成試験では、合成法調査に基づいて、ピリジン環と二つのカルボニル酸素からなるPDAの主骨格をそのままに、側鎖に長さの異なる炭素鎖(ブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基)を導入した4種類のPDAを合成した。抽出クロマトグラフ用吸着剤の調製では、市販の窒素ドナー系候補試薬23種とXAD樹脂6種を用いて吸着剤の調製条件を検討した結果、メタノールを用いて調製すると含浸率が高くなることを明らかにした。
 アルキル鎖の短いメチル基と枝分かれを持つアルキル鎖であるイソプロピル基を導入した2種の新規PDAも合成した。合成した6種類のPDAとXAD樹脂(担体)を用いた抽出クロマトグラフ用吸着剤を調製するとともに、抽出剤PDA及び1,10-フェナントロリンを担体のシリカゲルやポリスチレンに直接結合させた吸着剤を合成した。組成・溶解性の測定評価の結果、XAD4樹脂へのPDAの含浸量はほぼ1 mM/g(XAD4)であり、PDAに結合するアルキル鎖が長いほど(炭素鎖が8以上)疎水性が向上し、溶出するPDAを抑制できることから、実用的な分離システムが構築可能であることを示すことができた。
分離基礎試験:分離基礎試験として、合成した抽出剤及び吸着剤を用いてAm(Ⅲ)とEu(Ⅲ)の分離性能について測定評価した。これまでに合成した6種のPDAについての溶媒抽出における分配比Dを測定した結果、3 M硝酸からニトロベンゼン溶媒への抽出では、分離係数SF(=D(Am)/D(Eu))はPDAのアルキル鎖によらず、5から6程度であることを明らかにした。合成した吸着剤によるAm(Ⅲ)とEu(Ⅲ)の分離性能を分配係数Kdの測定により評価した結果、XAD4を担体とする吸着剤では、PDAのアルキル鎖の炭素数が10より大きいものでは、分離性能の低下が見られたものの、炭素数8、10のものでは、分離係数として7から8程度を示し、Am(Ⅲ)の分離に充分な性能を有することを確認した。

【研究開発項目3】(1)TRU分離要素技術開発 ③計算化学的評価
抽出剤設計:アクチノイドイオン分離のための新規抽出剤開発に計算化学的手法を応用するため、国内外の計算化学的研究を総合的に調査した。アクチノイド錯体等の電子状態を求めるための相対論的分子軌道法(量子化学計算法)、分子を構成する原子の挙動を取り扱うための分子力学法及び対象とする錯体の溶媒中での動的な挙動を解析して安定構造を探索するための分子動力学法に関する技術調査を行い、現状と問題点を明らかにした。この結果は、精密な分子軌道法及び実験的に得られたアクチノイド錯体の構造情報をもとに分子力場パラメータを決定し、分子動力学法による溶媒中での抽出錯体の安定性予測に基づいて、アクチノイドイオン分離のための新規抽出剤開発に役立つものであった。
 抽出剤構造最適化では、各種DGA系抽出剤及び新規ジアミド系抽出剤のドナー酸素原子上の電荷密度をCACheに含まれる半経験的分子軌道法(MNDO-AM1法)により求め、抽出挙動との相関を調べた。その結果、マロンアミド系抽出剤と比較してDGA系抽出剤のカルボニル酸素の電荷密度が大きく、配位能力が高くなることを明らかにした。
 アクチノイド錯体の分子力場(MM)用のパラメータ構築と精密化では、はじめにDGA及びPDA系抽出剤の分子力学計算を行い、Direct Force Field法により結合伸縮、変角、ねじれ角、及び非結合性相互作用パラメータなどを構築し、抽出剤の分子力場パラメータを決定した。
 TRU−抽出剤(ドナー酸素原子)間の結合に関しては、結晶構造データベースに収蔵されているTRUのアセチルアセトン錯体の構造データに基づいて量子化学計算を行い、Am錯体に関して分子力場構築用のデータの取得に成功した。得られたデータをもとに、Am-抽出剤間の結合伸縮、変角、ねじれ角及び非結合性相互作用パラメータなどのパラメータを構築した。得られたパラメータについて、分子動力学計算に導入して基礎的な力場パラメータ評価を行った結果、優れた解析精度を示すことを明らかにした。

(当初想定していなかったが副次的に(あるいは発展的に)得られた成果)
 分子力場パラメータの作成に関して、我々がこれまでに培ってきた金属イオン周りの分子力場パラメータ作成手法が、アクチノイド錯体だけでなくランタノイド錯体をはじめ、他のFPに対しても発展的に応用できることがわかった。

【研究開発項目4】(2)FP分離要素技術開発 ①Cs・Sr分離技術開発
吸着剤開発:分離技術調査では、カリックスクラウン誘導体やクラウンエーテル化合物などの大環状化合物によるCs・Srの分離技術を調べ、CsについてはCalix-crown R14が、SrについてはDtBuCH18C6が抽出剤として優れていることを明らかにした。
 大環状有機化合物吸着剤の調製では、Calix-crown R14をモノアミド化合物とともに多孔性シリカ/ポリマー複合担体(SiO2-P)に担持したCs分離用吸着剤(c-1) 及びDtBuCH18C6抽出剤を1-オクタノールとともにSiO2-Pに担持したSr分離用吸着剤(D-1)をそれぞれ合成した。また、基礎特性の測定では、合成した吸着剤の組成分析をCHNS元素分析及び熱重量分析で調べ、抽出剤の担持量を測定し、各々の吸着剤からの抽出剤の溶出量は硝酸濃度の増加とともに増大することを明らかにした。
 Cs吸着剤については、Calix-crown R14とモノアミドを担持した吸着剤(c-1)の他に、モノアミドの代わりに1-ドデカノールや1-オクタノールを使用した吸着剤(それぞれc-6, c-7)も合成した。Sr吸着剤については、DtBuCH18C6と1-オクタノールを担持した吸着剤(D-1)の他に、1-ドデカノールを使用した吸着剤(D-2)を調製した。さらに、DtBuCH18C6の代わりにアルキル基の構造を代えたDtHxCH18C6と1-オクタノールを担持した吸着剤も調製した(D(H)-1)。また、Cs・Sr共吸着剤としてCalix-crown R14とDtBuCH18C6を一緒に担持した吸着剤(c/D)を調製した。
 溶解性試験として、上記吸着剤について硝酸中での溶解挙動を調べ、Cs吸着剤ではCalix-crown R14と1-ドデカノールの組み合わせた吸着剤(c-6)が、溶解性も低く耐溶出性に優れていた。また、Sr吸着剤では、DtBuCH18C6と1-ドデカノールの組み合わせた吸着剤(D-2)が優れていた。Cs・Sr共吸着剤(c/D)では、DtBuCH18C6の溶解が抑制できた。
 安定性試験では、c-1吸着剤及びD-1吸着剤について硝酸中でガンマ線照射試験を行い、分解溶出挙動及び吸着性能を調べた。いずれの吸着剤も照射とともに分解溶出量は増大し、Cs吸着量やSr吸着量も減少した。
分離基礎試験及び放射性元素影響評価試験:分離基礎試験の結果、Cs分離用吸着剤(c-1)はCsに対し高い選択性を示すとともに、RbとUが吸着した。Sr分離用吸着剤(D-1)はSrに対し高い選択性を示すとともに、BaとUが吸着した。また、放射性元素影響評価試験では、TRU及びTcの吸着試験を実施した結果、どちらの吸着剤にも硝酸溶液中でPuが強く吸着した。一方、Np、Am及びTcは吸着しなかった。
 Cs吸着剤では、改質剤をモノアミドからアルコール系に変更したc-6やc-7吸着剤が、当初の予想通りCs吸着能及びCs選択性に優れる結果となった。Sr吸着剤では、Sr吸着能ではD-1やD-2吸着剤が優れていたが、Sr選択性では抽出剤のアルキル基部分の構造を1,1-ジメチルブチル基に変更したDtHxCH18C6と1-オクタノールを担持した吸着剤(D(H)-1)が優れていた。Cs・Sr吸着剤(c/D)のCs吸着量は、低Cs濃度域ではCs吸着剤より低かったが、平衡吸着量はほぼ同等であった。一方、Sr吸着量はSr吸着剤と比較して低かった。
 放射性元素影響評価試験の結果、低硝酸濃度(1または2M以下)の場合で、Cs吸着剤のc-6、c-7、Sr吸着剤のD(H)-1についてPu吸着の抑制が認められた。Cs・Sr吸着剤のc/Dは、より高い硝酸濃度(3〜5 M)でのPu吸着抑制は認められたが、低硝酸濃度(2 M以下)であってもPu吸着性が他の吸着剤より高かった。Np、Am及びTcは、非吸着性ないしは微吸着性であった。

【研究開発項目5】(2)FP分離要素技術開発 ②Mo分離技術開発
吸着剤開発:吸着剤開発の合成試験では、新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤及びFe系水酸化物吸着剤を水熱合成した。
 基礎特性試験では、合成した吸着剤の組成測定及びマイクロスコープによるミクロ構造観察を行うとともに、熱重量/示差熱分析、及びX線回折により結晶構造の変化を調べ、それらの形状・組成・構造を測定評価し、吸着剤の焼結温度と粒径、結晶構造などの関係を明らかにした。Fe・Pb系吸着剤の溶解性実験を硝酸溶液で行い、500℃で焼結した場合にPbとFeの溶出量がそれぞれ27.49mg/g及び14.74mg/gと最も少ないことを明らかにした。さらに、新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤及びFe系水酸化物吸着剤の溶解性実験を硝酸溶液で行い、新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤ではPbの量を減らすことで溶出を抑制することができた。Fe系水酸化物吸着剤では焼成温度を400℃以上とすることで、溶解量を1 %程度にまで低減できた。
分離基礎試験:新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤は、硝酸濃度3M付近でCs、Uがわずかに吸着するもののMoに対する高い選択性を有することを確認した。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
  • 実用工程として核種の分離が可能であるのか否かを判断することを強く意識し、「分離システムの開発」という視点を持って研究を進めていくことが重要である。

【研究開発項目1】 TRU分離要素技術開発 ① 全TRU分離技術開発
  • 抽出剤の安定性と核種相互分離の可能性について慎重に検討するとともに、実用工程において多成分系からのTRUの分離が可能であるのか否かという「分離」に焦点を当てた研究として進めることが必要である。

【研究開発項目2】 TRU分離要素技術開発 ② MA/Ln分離技術開発
  • 分離システムの開発という視点で研究を進めていくことが必要である。

【研究開発項目3】 TRU分離要素技術開発 ③計算化学的評価
  • 計算化学的検討については、他の研究の成果を広くサーベイしてその結果を効果的にリンクさせ、計算を実施する効果が得られる具体的な適用箇所はどこなのかを慎重に検討し、優先順位を付けて実施してもらいたい。
  • 分離性能や分離特性が評価できるような、実用的な計算の実現を目指してもらいたい。特に、分子に係る計算結果を抽出平行の熱力学的特性にリンクできるような取り組みを期待する。すなわち、計算化学的手法により評価する分子の特性が、溶媒抽出特性とどのような関係にあるのかの関連性を明確にする視点を強化してもらいたい。

【研究開発項目4】 FP分離要素技術開発 ①Cs・Sr分離技術開発
  • クラウン化合物の抽出性能に関するデータを取得しておくことは必要である。ただし、クラウン化合物による分離の実用性を良く見極めて、工学的な実用性や実用に際しての課題の明確化も念頭に置いてもらいたい。
  • また、Cs・Sr分離の必要性及び工学的実現性を判断できるような研究とする必要がある。

【研究開発項目5】 FP分離要素技術開発 ②Mo分離技術開発
  • 吸着剤のデータを取得する際、鉄系吸着剤以外にも視野を広げて、他の材料の可能性も探ることが必要である。
  • Moの吸着性能と実用性を早く見極め、実用目標を明確にしてもらいたい。

9.中間評価結果

 抽出に関する成果は得られていることから継続すべきであるが、多成分系からのTRUを分離する「分離システムの開発」という実用化を目指す視点をもって研究を進めていくことが重要である。
このため、今後の試験計画の一部について調整の必要がある。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室