原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 次世代再処理機器用耐硝酸性材料技術の研究開発
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 次世代再処理機器用耐硝酸性材料技術の研究開発

2.研究開発の実施者

機関名:株式会社神戸製鋼所 代表者氏名:中山準平
機関名:独立行政法人日本原子力研究開発機構 代表者氏名:井岡郁夫
機関名:国立大学法人大阪大学 代表者氏名:西本和俊
機関名:日本原燃株式会社 代表者氏名:高奥芳伸

3.研究開発の概要

 本事業は、超高純度UHP(Ultra High Purity)仕様合金の複合溶製技術や共材及び異材の溶接・接合技術を開発し、実用環境での適応評価試験等を実施して、原子力用構造材としての基準化に必要な材料特性データを整備することにより、次世代再処理機器用の耐硝酸性合金を開発することを目的としている。

4.研究開発予算

平成17年度 141,007千円
平成18年度 768,475千円
平成19年度 310,332千円
平成20年度(予定) 232,700千円

5.研究開発期間

 平成17年 12月 〜 平成21年 3月 (4年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1】(1) UHP合金設計と材料特性データの整備
① UHP合金設計
 無粒界腐食型ステンレス鋼については、Fe/Cr/Niの主要合金成分及び粒界腐食抑制のための不純物元素やMn等の有害元素の制御条件を選定する。
  高Cr-W-Si系Ni基合金については、主要合金元素W、Si等の組成範囲、構造材製造技術に必要な凝固・加工工程での高温割れ抑制の不純物制御条件を選定する。
 Nb系合金については、機械的性質に有害なC、O、N等不純物制御条件を選定する。
②材料特性データ整備
 再処理硝酸系での粒界腐食発生要因の微視的解析を含めて、耐食性、機械的性質及びクリープや疲労の耐久性試験データを取得し、原子炉規制法に基づく原子力用構造材の基準化に必要な材料特性データを整備する。

【研究開発項目2】(2) 複合溶製法等のUHP中間製品製造技術開発
① 複合溶製技術の開発
 ステンレス鋼、Ni基合金及びNb系合金等のUHP仕様構造材の製造技術として、低品位溶解原料を用いて主要不純物(目標:C+O+N+P+S≦100ppm)やアルカリ金属等の有害元素を低減出来る真空磁気浮上誘導溶解方式のCaハライド還元精錬[CCIM-CaF]法とコールドハース(CHR 水冷銅製堰)方式の電子ビーム[EB-CHR]法を組合せた複合溶製技術を開発するため、以下を実施する。
1) CCIM-CaF溶製実験装置の開発
 CCIM-CaF溶製実験装置を設計、製作する。また、CCIM-CaF還元精錬法によりP、S、Pb、Bi等の非揮発性不純物を効率的に除去する技術を開発する。
2) EB-CHR溶製実験装置の開発
 EB-CHR溶製実験装置を設計、製作する。また、EB-CHR溶製条件を最適化して前段のCCIM-CaF法で除去困難なC、O、Nやアルカリ金属Na等の揮発性不純物及び還元精錬による残留不純物Caの除去技術を開発する。
3) 複合溶製法の不純物除去能の評価
 複合溶製法による不純物の除去能を実験及び性能評価モデルによる解析によって評価する。
② 中間製品製造技術開発
 UHP仕様のEB-CHR鋳塊の形状や材料特性等と次世代湿式再処理機器用構造材の仕様や要求特性を考慮した熱間・冷間加工や熱処理及び製品形状に対応した溶接・接合継手に最適な製造工程を開発する。

【研究開発項目3】(3) UUHP仕様合金の溶接・接合継手技術の開発
① 無粒界腐食型ステンレス鋼の溶接・接合継手技術の開発
 高Ni化に伴う溶接割れや高温割れ発生等の抑制に必要な溶接材料中のP+S等不純物の制御条件及びTIG溶接施工条件を溶接継手の金属組織や成分偏析の微視的解析により明確にする。
② 高Cr-W-Si系Ni基合金の溶接・接合継手技術の開発
 不純物による溶接割れ等に加えて、当該合金特有の金属間化合物生成に伴う溶接継手性能低下を抑制するため、溶接材料成分設計及び施工法を含めたTIG溶接技術を最適化する。
③ Nb系合金の溶接・接合継手技術の開発
 高融点金属として現行再処理機器材料のTi合金やZr等と同程度の溶接施工条件を設定し、規格化に必要な溶接施工法を検討する。
④ 異材接合技術の開発
 ステンレス鋼配管とNi基合金やNb系合金の異材接合法として、金属間化合物の生成抑制等を考慮した最適な接合法を開発する。

【研究開発項目4】(4) UHP仕様合金の硝酸環境適応性検討
① 次世代湿式再処理機器用材料仕様の検討
 高速増殖炉MOX使用済燃料等の次世代湿式再処理における硝酸プロセス機器の仕様を調査し、UHP仕様合金への要求仕様や適応範囲等を検討する。
② UHP合金の実用材料特性評価
 閉じ込め機能や発火・爆発防止が要求される再処理用耐硝酸性機器の設計検討に必要なUHP仕様合金の適応性を実用環境模擬評価試験等により評価する。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】(1) UHP合金設計と材料特性データの整備
① UHP合金設計
 「無粒界腐食型ステンレス鋼」の主要合金成分に関して、実験データの解析、さらに多元系合金の熱力学解析コード等を改良したUHP仕様高Cr-Ni鋼の組織解析コードを用いて、金属組織、耐食性及び機械的性質等の観点からCr-Ni量の上・下限等を設定した。不純物元素に関しては、ppbレベルの極微量の定量分析能を有するGD-MS法により得られた分析値と腐食試験結果との関係を統計的に解析し、粒界腐食抑制に係わる重要因子を確認した。これにより、超高純度化によれば、一般的な加工熱処理法である溶体化処理法を用いても無粒界腐食化が可能である目途が得られた。
 「高Cr-W-Si系Ni基合金」については、耐食性等の観点からは基本成分系(30%Cr-10%W-3%Si)が適切であるが、熱間加工性及び溶接継手性能に課題があり、熱力学解析コードを用いて組織構成の観点からこれらの原因及び改善のための成分系を解析した。基本成分系ではオーステナイト単相域は存在しないことが判り、これが熱間加工性の劣化の原因となると推定された。
② 材料特性データ整備
 粒界腐食抑制機構を明らかにするため、表面分析装置を用いて主要合金や不純物元素の分布・偏析状態等の分析を実施した。粒界腐食を発生した高CrのSUS310Ti系においてδフェライト相を生成し、当該領域においてCrの濃縮域が認められ、全般的にC、Si等がやや多く検出される傾向が認められた。一方、粒界腐食の発生場所である結晶粒界近傍については、αフィッショントラックエッチング法によって1ppm以下の一部の不純物元素の極僅かな分布状態を把握することができた。これにより、粒界腐食の発生有無の予測を、一部の不純物の極微量分析により行う手法が確立できた。

【研究開発項目2】(2) 複合溶製法等のUHP中間製品製造技術開発
① 複合溶製技術の開発
1) CCIM-CaF溶製実験装置の開発
 平成17年度にCCIM-CaF溶製装置の基本設計を実施した。平成18年度にこれらに基づき製作・設置・整備し、投入電力、溶湯プール重量、鋳塊引抜速度等をパラメータとする基本性能評価試験を実施した。さらに、当該装置の主たる目的である不純物除去精錬に必要な精錬フラックスの供給方式等に関する溶製試験を行い、還元精錬操業試験が可能であることを確認した。また、SUS310Sステンレス鋼及び高Cr-W-Si系Ni基合金について、溶解・鋳造試験を実施して鋳塊を製造し、得られた鋳塊が次工程のEB-CHR溶製実験装置の溶解原料として使用できることを確認した。
2) EB-CHR溶製実験装置の開発
 平成17年度にEB-CHR溶製装置の基本設計を実施した。平成18年度に基本設計に基づき製作・設置・整備し、さらに炭素鋼材を用いて、EBガンの電力、溶解原料の供給速度、EB照射パターン、鋳塊引抜速度等をパラメータとする基本性能確認試験を実施した。さらに、CCIM-CaF装置で溶製した炭素鋼鋳塊を原料として、EB-CHR溶解を行った結果、フラックスの蒸発・浮上分離が可能なことを確認した。同様に、SUS310Sステンレス鋼及び高Cr-W-Si系Ni基合金についてもCCIM-CaF+EB-CHR溶解を実施した。
3) 複合溶製法の不純物除去能の評価
 平成17年度に事前検討として、既存のCCIM溶解装置及び小型EB溶解装置を用いて、精錬法の小型試験を実施し、不純物元素の移行挙動及び精錬添加物の移行挙動を評価した。その結果、P量は10 ppm以下、S量は10ppm以下、O量は5 ppm以下、N量は5 ppm以下まで低減可能であり、さらに通常除去が困難な微量金属元素であるPbやSnも1 ppm以下まで除去でき、目標レベルが達成できる見通しを得た。
  また、得られた鋳塊を用いて板材の製造試作を行い、もっとも熱間加工性が懸念された高Cr-W-Si系Ni基合金についても所望の板材を得ることが出来た。得られた板材はCoriou腐食試験では粒界腐食は認められず、良好な耐食性を示した。
  Nb-W系合金については、W成分を均一固溶させるため、EB溶解時のNbへの完全溶解と均質化について基礎的検討を実施した結果、コールドハース内で数kgレベルのNb-W合金を溶解させ、出湯口からオーバフローさせることにより均質な溶湯を鋳型に注入できることを確認した。
  さらに、平成17年度に作成した解析モデルを活用して、EB-CHR法におけるマクロ偏析予測するモデルを構築した。EB-CHRプロセス全体のCr等の合金成分挙動を計算することにより、ステンレス鋼鋳塊中のマクロ偏析が算出できるようになった。
② 中間製品製造技術開発
 UHP仕様合金の構造材製造に必要な熱間加工条件を把握するため、熱間加工性に関するデータの採取及び現在までの研究事例を調査した。高Niの安定オーステナイト系ステンレス鋼やNi基合金の熱間加工性の改善には、組織構成の最適化やUHP化による不純物元素の低減、Caや希土類元素(REM)等の添加が有効である。さらに、個々の合金組成特有の熱間変形挙動に対応する温度領域で熱間鍛造・圧延を実施することが不可欠である。

【研究開発項目3】(3) UUHP仕様合金の溶接・接合継手技術の開発
① 無粒界腐食型ステンレス鋼の溶接・接合継手技術の開発
 SUS310Ti系ステンレス鋼(UHP仕様)に対して耐溶接割れ性評価試験を実施し、溶接割れ感受性をSUS310鋼やSUS310S鋼及びSUS310ULC鋼の一般仕様材と比較検討した結果、高純度化により溶接割れ感受性が大幅に改善されることを確認した。また、溶接割れの組織解析の結果、高純度化により凝固割れから延性低下割れに変化し、UHP仕様材では溶接割れ感受性を支配する凝固割れが認められないことが判った。SUS310Ti系ステンレス鋼については、耐粒界腐食性に加えて、塩化物割れ等の応力腐食割れや水素脆性に対する抵抗性に優れており、汎用工業分野を含む適用ニーズが非常に高いが、溶接施工性が劣るため、適用が忌避される状況にあった。UHP仕様溶接材料の使用により耐食性を損なうことなく、溶接施工性能を改善できる知見が得られ、構造材料としての実用化の見通しが大きく前進した。また、25Cr-35Ni-Ti UHP系ステンレス鋼についても同様な評価試験を実施した結果、SUS310Ti系ステンレス鋼より割れ感受性が劣るが、NCF690系Ni基合金の延性低下防止対策材であるLa添加690合金と同等以上であった。
② 高Cr-W-Si系Ni基合金の溶接・接合継手技術の開発
 高Cr-W-Si系Ni基合金に対して耐溶接割れ性評価試験を実施し、溶接割れ感受性をステンレス鋼や従来合金と比較検討した結果、C量を増加すると溶接割れ感受性がやや改善される傾向を示すものの、SUS310系ステンレス鋼に比べて5〜10倍高い割れ感受性を示すことが判った。さらに、溶接金属の凝固挙動・凝固組織解析、高温延性評価試験及び高温変形解析を実施し、本合金の溶接割れ機構が高Si化に伴う固-液共存温度幅の拡大による凝固割れであることを明らかにした。
③ Nb系合金の溶接・接合継手技術の開発
 Nb系合金の溶接・接合継手技術に関する予備調査として、現在までの研究事例をもとに適用可能な溶接法及びその問題点の抽出を行った。活性金属であるNb系合金に適用しうる溶接・接合法として、TIG溶接法が適切であることが判った。
④ 異材接合技術の開発
 現在までの研究事例をもとにNb系合金と各種耐食合金の異材接合に適用可能な接合法と問題点の抽出を行った結果、異材接合法として拡散接合、熱間圧延、摩擦圧延、爆発接合及びろう付法等があり、Nb系合金とステンレス鋼の接合には拡散接合及び爆発接合法が適している可能性が高いことが判った。

【研究開発項目4】(4) UHP仕様合金の硝酸環境適応性検討
① 次世代湿式再処理機器用材料仕様の検討
 高速増殖炉MOX使用済燃料を対象とした次世代湿式再処理技術の候補のうち、腐食環境が厳しくなると推定されるプロセスとして簡素化溶媒抽出法(処理量200tU/y、平均燃焼度15万MWd/t、2年冷却)を選定した。そして、腐食環境の厳しいと想定されるプロセス機器として、腐食性イオンの濃度を考慮し、溶解槽、Pu・U濃縮缶及び高レベル廃液濃縮缶の3機器を選定した。
 また、得られたプロセス条件に基づき、次世代再処理機器用材料に求められる材料特性を調査するため、U精製系の機器について模擬液腐食試験を実施した。軽水炉再処理工場で幅広く用いられている耐硝酸性ステンレス鋼であるR-SUS304ULC鋼では溶解槽条件での定常腐食速度が2o/y以上、Pu・U濃縮缶条件での定常腐食速度がは1o/y以上と、現行の湿式再処理機器に比べて厳しい腐食環境であり、R-SUS304ULC鋼の数倍以上の耐食性が求められるケースがあることが判った。また、その腐食形態は粒界腐食優先型の全面腐食であった。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】総合評価
  • 再処理の溶解槽は金属材料にとっても最も過酷な環境の一つであるので、無粒界腐食型の合金の開発は言わば王道であり、ステンレス鋼は強度も期待できる材料である。製造技術として完成されつつあるので、本研究成果が確実に実用に供するためのステップとして、実際の環境を使っての耐環境試験も、予算の制約はあるが、本研究の中に組み込まれることを期待する。

【研究開発項目1】UHP合金設計と材料特性データの整備
  • 製造技術開発として進めている研究であり、また、次世代再処理機器への適用が最終目的であることから、研究項目「UHP仕様合金の硝酸環境適応性検討」で得られた結果を、必要に応じて合金設計へ反映するように配慮されたい。

【研究開発項目2】複合溶製法等のUHP中間製品製造技術開発
  • 中間製品の製造技術のついては、今後の発展のために、板材の仕様等を定めて着実に進めることを期待する。

【研究開発項目3】UHP仕様合金の溶接・接合継手技術の開発
  • 溶接に関して、指摘されていた問題点は本研究開発において実用上問題ないレベルに解決する成果を得ているが、さらに改善する余地のある部分については、より高度なものを目指して研究に取り込むことを期待する。

【研究開発項目4】UHP仕様合金の硝酸環境適応性検討
  • 次世代再処理施設への適用を目指していることから、本研究で計画している加速試験に加えて、実環境での一定期間の耐環境試験が実施できるようにしておくことは、実用化を確実に進めるためにも有用である。

9.中間評価結果

 強酸化性硝酸環境下にある次世代再処理施設において必要となる材料開発であることから、データを充実させて、実機設計に使えるまでに進展することが期待される。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

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