原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 先進複合材コンパクト中間熱交換器の技術開発
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 先進複合材コンパクト中間熱交換器の技術開発

2.研究開発の実施者

機関名:国立大学法人京都大学  代表者氏名: 小西哲之
機関名:日本原子力研究開発機構  代表者氏名: 稲垣嘉之
機関名:三菱重工業株式会社  代表者氏名: 樋口暢浩

3.研究開発の概要

 900℃超の高温域で二次流体にヘリウム、液体金属、超臨界水、超臨界炭酸ガス等の異なる冷却材の使用を可能とする高強度、高気密性、高耐食性の熱交換器を先進セラミック複合材を用いて開発することが本研究の目的である。このような熱交換器の技術的可能性と、スケールアップ可能な設計データベースを確立し、革新的原子力のエネルギー利用可能性を高めることが、本事業による研究開発の目標である。最終的に目標とする技術は、従来金属材料では不可能であった600℃以上、最高900℃超域で使用可能なコンパクト熱交換器をSiC先進複合材で製造するための基礎的な技術である。

4.研究開発予算

平成17年度 35,348千円
平成18年度 172,629千円
平成19年度 285,503千円
平成20年度(予定) 81,000千円
平成21年度(予定) 80,000千円

5.研究開発期間

 平成 17年 12月 〜 平成 22年 3月(5年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1】:要素部材試作試験
①要素部材ループ試験
 既存のループに熱交換器の要素部材となるSiC複合材の試験のための熱交換要素試験セクションを製作し、ここに供試体を設置し、液体金属流にさらして重量変化、減肉、表面損傷の測定を行う。また、分岐部分は600℃以上に加熱するとともに真空置換してガスを流通し、漏洩、透過特性を測定する。
 上記の予備的な試験をもとに、本格的に設計データを取得するための熱交換試験セクションの設置を行い、i)SiC複合材における熱伝達特性の測定、ii)水素透過特性の測定、iii)材料共存性と腐食挙動の測定、の3つの実験を並行して行えるような設備を整備する。i)では、流動状態でのSiC複合材における熱伝達をレイノルズ数とヌッセルト数の関数で測定する。ii)では、高温領域での漏洩、水素透過係数を温度と分圧差の関数で測定することを試みる。サンプル内側の水素分圧を規定値とし、外側も機密容器として不活性ガスをパージしてそこに透過漏洩する水素量を評価する。iii)は、多数のサンプルを用いて、SiCや耐熱合金の高温における腐食挙動を、水素分圧、流量、温度をパラメータとして測定し、使用可能環境と、寿命の情報を得る。耐熱合金はフェライト系鉄鋼材料あるいはニッケル系合金で本熱交換器とともに用いられる可能性の高い高温用配管材料を用い、液体金属や酸素含有ヘリウムによりSiCより早く進行すると思われる腐食挙動を、減肉測定や組織観察により評価する。
②供試体材料試作
 単純な繊維配向の標準的なNITE-SiC/SiC複合材料に対する熱、組織、強度の基本的な特性の評価を行う。この試料を①要素部材ループ試験に供するとともに、原料となる繊維やSiCナノ粉末、試作した材料等の分析を行い、システム設計で要求される材料特性のテイラリングのための基礎データを得る。
 単純形状のNITE-SiC/SiC複合材料部材を数種試作し、本研究開発の目的に最適な組成、製法を検討する。得られた直管は、①要素部材ループ試験に供する。さらに、熱交換器ユニットの基本構造となるプレートフィンの要素部材を試作し、溝切加工、接着など試料を製作、加工して本研究でのシステム設計、材料設計に必要な熱、組織、強度の基本的な特性の評価を行う。

【研究開発項目2】:システム設計・スケールモデル試験
①システム設計
 高温ガス炉の二次系にヘリウムを用いる間接サイクル発電システムの温度、圧力、流量等の熱物質収支、発電効率について、熱流動解析コードを用いた概念検討を行う。また、原子力発電プラントの機器構成と放射性物質規制の調査を行い、それにより原子力プラントの二次系を非管理区域とするための検討を行う。
 さらに中間熱交換器の構造について検討を行い、中間熱交換器の構造、サイズ等の概念を明らかにする。この検討結果を基に、トリチウム移行評価コードの整備を行い、1次系から2次系へ移行するトリチウム量の予備評価を実施する。
②スケールモデル設計製作
 熱交換器ユニットの構造設計に着手し、流路構成、熱応力、圧力損失、伝熱特性などの検討を行う。

【研究開発項目3】:供用中検査手法の開発
①評価法検討
i) 熱交換器供用中検査法検討
 超音波等の弾性波を利用した非破壊検査手法について、実用材料における技術の現状を調査し、先進複合材についての適用可能性を評価する。
ii) 強度健全性評価試験
 水圧試験装置を用いて、試作供試体内部に内圧を付与して破壊させる試験を実施して、強度健全性に関する一次評価を行う。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】:要素部材試作試験
①要素部材ループ試験
 熱交換器の要素部材としてこれまではNITE-SiC/SiC複合材の管材をもちいて、それぞれ熱伝達、水素透過、共存性の測定を主な目的とする3種の熱交換要素試験セクションに設置し、またそれらを500℃から最高900℃まで昇温して試験を実施している。ループの最高到達温度900℃を予定通り達成しており、これは鉛系の液体金属として現在のところ世界最高レベルである。しかし、付随する金属部品の寿命に限度があるため、試験は主として700℃を中心に1週間連続を単位として行っている。
 本格的な熱交換器要素の試験体の模擬実証試験に向けての整備と運転技術の確立も本試験の目的であり、本事業の目的としている900℃以上までの温度範囲での熱交換要素の試験方法、手順はほぼ確立された。
 試作した300mm長さのNITE-SiC/SiC複合材管を用いた高温環境試験を実施した。試験後の試料は組織観察、組成分析、表面粗さの解析を行い、NITE-SiC/SiC複合材管や、対照用とした金属管の健全性の評価を行った。NITE-SiC/SiC複合材そのものには腐食の兆候は見られていない。また、液体金属とSiC間の付着がほとんど見られないことから、NITE-SiC/SiC複合材が液体金属に濡れ性を持たないことが現在までの試験の結果からは結論される。ただし、試料表面のごく一部の、複合材を構成する繊維の露出した部分において液体金属の付着がみられた。これは、NITE-SiC/SiC複合材においてはマトリックスが濡れ性を示さないのに対し、繊維が液体金属と接着する傾向があるといえる。一方、オーステナイト鋼には顕著な腐食が見られた。
 なお、目標ではフェライト系鉄鋼材料またはニッケル系合金の腐食挙動を求めることにしていたが、以下の理由により浸漬試験を継続しているため、現時点では腐食データが得られていない。
・鉛系液体金属に対してはニッケルが強い感受性を示すことが知られているため、ニッケルを含まないフェライト系鉄鋼材料が候補となるが、腐食の発生には少なくとも数ヶ月の運転を要すると判断した。なお、ヘリウム中においては、温度条件を考慮しても鉛系液体金属に対するよりも条件は緩やかであるため、腐食試験を実施していない。
   熱交換器としての熱的な基本性能の評価を、上記ループのテストセクションを用いた熱伝達試験と数値解析により行った。熱伝達試験においては、流動状態でのNITE-SiC/SiC複合材熱交換要素サンプルを用いて、熱通過率をレイノルズ数、ヌセルト数により無次元パラメータで評価する一方、計算モデルと比較した。一方、計算機シミュレーションにおいては、低温流体流量が10から100[L/min]、すなわちレイノルズ数が384から3842の範囲について解析を行い、いずれの条件においても特定のレイノルズ数におけるヌセルト数の値は伝熱面全域において各々ほぼ一定値を示しており、外部円環流路における強制対流熱伝達は、内部の高温流体の流速や発熱量によらず円環流路内の流れの挙動により定まることを確認した。熱移動の分布と比較し、パラメータサーベイを行い、数値解析で得られた熱伝達係数をもとに、熱通過率を求めることで性能を評価した。その結果、本実験範囲において得られた熱流束と熱通過率の最大値はそれぞれ2.5[kW/m2]および33.5[W/m2/K]であった。この熱通過率は、コンパクト熱交換器としての性能を得るには十分な値であり、NITE-SiC/SiC複合材管熱交換要素が基本的に金属材料による熱交換器と遜色のない特性を持つことを確認した。
 試験ループのテストセクションで水素透過を測定したところ、現在の測定装置では透過量がきわめて少なく、定量評価が困難なレベルであることが判明したため、試験ループとは独立の水素透過実験装置を用いてその定量評価を開始した。
 NITE-SiC/SiC複合材の水素透過は、ヘリウムに対しても極めて少ないながら重水素と同レベルの透過が観測され、しかもその透過量は圧力の1乗に比例する結果が得られた。複合材におけるヘリウム透過挙動は、気密性と温度依存性があることから、Henry則による溶解と拡散によるものと判明した。現在のところ、この特性が本試験で使用したNITE-SiC/SiC複合材に含まれる微量のSiO2などがヘリウムや重水素などの透過経路となる可能性を示唆する結果が得られている。
②供試体材料試作
 単純形状のNITE-SiC/SiC複合材料熱交換要素部材として、管材、平板試料を試作し、ループ試験に供した。また最適な組成、製法を検討するために、繊維体積率、繊維/マトリックス界面に対する特性への影響を評価した。理論的には、繊維体積率が高い方が強度は高くなるが、実際に作製を行った場合、50%を超えると繊維束間へのマトリックスの緻密性が低下し、結果的に強度も低下することが明らかになった。材料設計に必要な1000℃を超える高温を含む、熱、強度特性や微細組織の基本的な特性の評価を行った。強度特性に関しては、材料の信頼性の評価を行い、大型部材、熱交換器作製のための材料設計データベースの充実を行った。異方性を含む強度特性においては、セラミックスSiCでは、高温での熱伝導度の顕著な低下がこれまでに報告されているが、本研究で用いたNITE-SiC/SiC複合材料では、熱拡散率に関しては、セラミックスSiCと同様に温度の上昇とともに顕著に低下した。比熱容量に関しては上昇し、熱伝導度としては、温度の上昇に対して、わずかの低下にとどまり、1000℃においても、22.8W/mKという高い値を示した。これらの結果、これまでに考えられていた以上に、1000℃を超える高温領域までの基本特性の優位性が、Ni基超合金等の他の材料に比べて高いことが明らかになった。
 製造技術開発では、熱交換ユニットで必要となる、流路を含む部材を形成するために、NITE-SiC/SiC複合材料の加工性評価、流路加工後の接合技術開発を行った。流路加工材に関しては、流路が変形しない接合条件の最適化を行うとともに、流路を含む板材を多段に接合するために、実用化を考慮し、ハンドリング性を著しく向上するとともに、接合部の収縮等による寸法変化の影響を軽減し、接合原料の接合部の端から流路へはみ出しを無くすこと等が可能な二段階での接合方法を新たに開発した。これらの技術を基に、熱交換器ユニットの基本構造となるプレートフィンの要素部材を試作し、設計で要求される寸法と構造の流路を持つ構造の製作性を確認した。

【研究開発項目2】:システム設計・スケールモデル試験
①システム設計
 本事業による中間熱交換器を用いた高温ガス炉(熱出力600MW)の間接サイクル発電システムについて、熱流動解析コードの整備を行い、二次系にヘリウムタービンを設置した発電システムの温度、圧力、流量等の熱物質収支、発電効率の検討を行った。評価の結果、原子炉出口のヘリウム温度が950℃では50.7%、1100℃では53.9%の高い発電効率が得られた。また、耐食性に優れたNITE-SiC/SiC複合材の特性を活用し、二次系に液体金属(LiPb)を使用し、3次系に蒸気タービン発電システムを設置した間接サイクル発電システムの熱物質収支、発電効率の検討を行った。評価の結果、原子炉出口のヘリウム温度が950℃の条件で42.2%の発電効率を得た。
 原子炉出口のヘリウム温度が950℃、二次系にヘリウムタービンを設置した発電システムの中間熱交換器の機能要求項目を基に、熱交換量600MWの中間熱交換器構造の概念検討を行った。後述するように熱交換量100MWのプレートフィン型熱交換器ユニットを圧力容器内に平面上に6個配置することとし、圧力容器内における熱交換器ユニットとの配置、配管との取り合い等、圧力容器構造を含む中間熱交換器全体の構造案を得た。NITE-SiC/SiC複合材で製作された熱交換器ユニットと配管の接続はフランジ構造とし、圧力容器内には6個の熱交換器ユニットのほか、一次及び二次のヘリウムを熱交換器ユニットへ分配並びに集合するための一次入口集合管、二次入口集合管、二次出口集合管等の金属構造物を配置した。
 ヘリウムタービンを設置した二次系を非管理区域とする検討として、放射性物質等の規制の調査を行うとともに、HTTRのトリチウムデータを参考にして、二次系を非管理区域とするための検討を行い、トリチウム移行評価コードを整備して、中間熱交換器を介して一次系から二次系へ移行するトリチウム量の予備評価を実施した。その結果、当初、想定したように純化設備循環量が一次系及び二次系のトリチウム濃度の低減に大きく寄与することが明らかになった。一方、中間熱交換器熱交換部の透過係数が減少するにしたがって、一時的に二次系のトリチウム濃度が上昇するなど、当初想定していなかった挙動も得られており、さらに詳細な検討を進めている。
②スケールモデル設計製作
 原子炉出口のヘリウム温度が950℃、二次系にヘリウムタービンを設置した発電システムの中間熱交換器の機能要求項目を基に、一次系と二次系のヘリウム間で熱交換を行う熱交換器ユニットの構造検討を行った。一次系と二次系の圧力差に起因する熱交換部プレートの発生応力を低減するため、流路に側壁を設けてプレートを補強する構造を考案した。
 熱交換部の伝熱面積を小型化するためには、流路を流れるヘリウムの伝熱を促進することが必要であることから、伝熱促進法としてオフセットフィンを用いた構造について、流路構成、圧力損失、伝熱特性の検討を行った。流路構成並びに圧力容器内における熱交換部の配置については、圧力容器内で周方向に6個の熱交換器ユニットに分割して配置する構造とした。
 この構造について熱交換部の温度分布の解析を行うとともに、熱応力の評価を実施し、減圧事故においても一次ヘリウムの圧力境界を確保できる見通しを得た。
 一方、本事業内で試作する熱交換器ユニットの構造設計を行い、流路構造を設計し熱応力、圧力損失、伝熱特性などの検討をするとともに、スケールモデルのための詳細設計を行った。温度および応力分布を計算し、目標とする性能が本事業で開発した材料および製法によって製作できる見通しを得た。

【研究開発項目3】:供用中検査手法の開発
①評価法検討
 音速測定法、共振法、非線形超音波法の3種類の弾性波を利用した非破壊検査手法について、実用材料における技術の現状を調査し、引張試験及び衝撃試験により損傷を導入した材料を用いて、先進複合材についての適用可能性を評価した。
 少なくとも非線形超音波法においては、信号対雑音比が十分ではないものの、損傷と思われる信号が得られてた。
 一方、水圧試験装置によるNITE-SiC/SiC合材角管の破壊試験を実施し、破面観察と破壊挙動の解析を行って、開発した熱交換器で使用する接合構造の破壊データを得た。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
  • 高温ガス炉の中間熱交換器として有用な開発である。しかしながら、成立性に係わるSiC熱交換器と配管の接合部の検討、基本的な破壊モードの検討、漏洩に対するSiC複合材の非均質性の影響評価など実用化に向けての課題があり、これらに対する検討も重要である。
  • 要素部材試作試験、供用中検査手法の開発に計画の遅れが見られる。
  • 本研究を次の段階に進めるに当たっては、要素部材試作試験、供用期間中検査手法の開発における計画の遅れの対応策について、中間評価委員会委員長による事前の確認を受けてから、進めることが適当である。

【研究開発項目1】要素部材試作試験
  • 要素部材試作試験に遅れが見られる。対応策を提示すること。
  • 水素透過試験で重水素、ヘリウムの透過性について従来とは異なった結果が得られている。SiO2濃度、気孔等、複合材の構成に関する検討を行うことが重要である。
    また、水素透過に対するSiC複合材非均質性の影響についても検討結果をきちんと示すこと。

【研究開発項目2】システム設計・スケールモデル試験
  • トリチウム漏洩の視点より、SiC熱交換器と配管との接合方法、接合部構造、組み立て方法の設計指針を示すこと。

【研究開発項目3】供用中検査手法の開発
  • 検査方法の見通しはあるものの、定量的に可能かどうかの判断ができるレベルには到達していない。非線形超音波法の定量的な評価を実施のこと。
  • 供用期間中検査法の開発に際してはSiC複合材料の基本的な破壊モードを検討し、これに基づいた検出手法を確立すること。
  • また、SiC熱交換器と配管との接合部を考慮した検査手法の開発も検討すること。

9.中間評価結果

  • 高温ガス炉の中間熱交換器として有用な開発であり、成果が期待できるが、熱交換器として、実用化に向けての課題があり、これらに対する検討も重要である。
  • 要素部材試作試験、供用中検査手法の確立に計画の遅れが見られる。
  • 本研究を次の段階に進めるに当たっては、要素部材試作試験、供用中検査手法の確立に対する計画の遅れの対応策について、中間評価委員会委員長による事前の確認を受けてから、進めることが適当である。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

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