原子力システム研究開発事業
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(資料5)中間・事後評価の結果 原子力システム高効率化に向けた高耐食性スーパーODS鋼の開発
原子力システム研究開発事業における平成17年度採択課題中間・事後評価の結果について

原子力システム研究開発事業−基盤研究開発分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 原子力システム高効率化に向けた高耐食性スーパーODS鋼の開発

2.研究開発の実施者

機関名:国立大学法人京都大学  代表者氏名:木村晃彦
機関名:(独)日本原子力研究開発機構  代表者氏名:井上賢紀
機関名:(株)コベルコ科研  代表者氏名:奥田隆成
機関名:(独)物質・材料研究機構  代表者氏名:阿部冨士雄
機関名:国立大学法人北海道大学  代表者氏名:大貫惣明
機関名:国立大学法人名古屋大学  代表者氏名:藤澤敏治

3.研究開発の概要

 鉛ビスマス冷却高速炉(LBE-FR)や超臨界圧水冷却高速炉(SCW-FR)などの次世代原子力システムには、耐食性に優れた高燃焼度対応型の燃料被覆管材料を開発することが不可欠である。そのため、ナノ・メゾ組織制御を可能にする成分設計と製造プロセス法の技術革新により、高温強度特性と耐照射性能に加え、これらの冷却材に対する耐食性をも兼ね備えた革新的な燃料被覆管材料「スーパーODS鋼」を開発し、次世代原子力システムへの適用性を評価する。

4.研究開発予算

平成17年度  75,287千円
平成18年度  657,290千円
平成19年度  298,546千円
平成20年度(予定)  251,100千円
平成21年度(予定)  234,500千円

5.研究開発期間

 平成17年 12月 〜 平成22年 3月(5年計画)

6.H18年度までの目標

【研究開発項目1】スーパーODS鋼の成分設計・製造プロセス改良・製造
①スーパーODS鋼の成分設計及び粉末混合条件の調査
a)微量元素および雰囲気影響の実験的評価
 最も代表的な組成の候補材粉末を雰囲気制御型粉体破砕機(遊星型ボールミル)により混合し、微細組織観察装置(リアルサーフェスビュー顕微鏡)を用いて、粉体表面性状および粉体のサイズ分布評価を行う。また、断面試料作製装置(クロスセクションポリッシャ)を用いて粉末の断面構造や組成分析を実施する。
 これらの結果に基づいて合金設計(16種類)を行い,ボールミルを用いて材料性能に及ぼす粉末混合の時の雰囲気影響を調査する。試料表面保護皮膜形成装置を用いて非導電性の粉末の性状評価を行う。多目的高温炉を用いて混合粉末に高温加圧処理を施し,加圧下における熱処理の影響を調査する。また,高温変態異相構造解析装置を用いて,酸化物粒子や高クロム化に伴い析出する第2相の高温製造プロセス下における組織・構造変化を調査する。
b)熱力学的評価(再委託先:原子力機構)
 試作材の評価結果をデータベース化する。次期作製材料の材料設計のため,熱力学的評価を行う。
②スーパーODS鋼候補材料の製造
 従来の研究成果で得られた知見をもとに,8種類の候補材をアトライターにより製造し、成分等を評価する。
 粉体表面性状および粉体のサイズ分布評価ならびに粉末の断面構造や組成分析の結果から得られた合金設計指針に基づき,11種類の追加候補材をアトライターで製造し、成分等を評価する。
③常温・低温強度特性評価
 製造した候補材料の引張・衝撃・破壊靱性特性評価試験を主に室温にて実施する。スーパーODS鋼の破壊挙動支配因子となる粒界強度を強化するための組織制御技術開発のため,粒界強度特性評価分析装置にてナノ粒子の粒子界面ケミストリーを調査し,高靭性のスーパーODS鋼開発のための粒界制御の方針を得る。 熱時効脆化評価用熱処理炉を用いてスーパーODS鋼の熱時効脆化挙動を調査する。
④アトライターの開発設計
 既存のアトライターと比較し,エネルギー投入密度が高く,高性能である密封型・大型・成分均一型のアトライターの概念設計、製作を実施し,材料性能を評価する。
⑤高温強度特性(クリープ・疲労)の改良・評価
 ナノ・メゾ組織制御によるスーパーODS鋼の高温強度特性向上に向けた成分決定のために不可欠な状態図を作成するためのソフトウェアを整備し、スーパーODS鋼製造プロセスの開発に有用な熱力学的情報を得る。
 製造した候補材料の高温強度特性(引張,クリープ,疲労)を高温引張試験装置などで調べ,ナノ・メゾ組織制御の効能評価を実施する。試験後の試料は真空デシケータに保管する。
⑥スーパーODS鋼の組織調査
 製造した材料のクリープ試験およびクリープ変形後のナノサイズ酸化物粒子の形状変化などの局所領域組織観察を実施する。
⑦ナノ・メゾ組織制御評価
 製造した材料の微細組織を高温TEM観察用加熱ホルダーおよび高精度電解研磨装置を用いて調べ、常温・低温強度特性評価および高温大気中強度特性改良・評価の結果と併せて検討することにより、ナノ・メゾ組織評価を行う。

【研究開発項目2】超臨界圧水(SCW)中における耐食性評価
①停留および流動SCW浸漬・腐食試験
 超臨界環境中腐食試験装置を用いて,(1)②で製造した材料に対して500℃×100h以上の腐食試験および500℃SCWでの腐食強度試験を実施する。超臨界環境中酸化皮膜分析装置を用いて,耐食性向上のための安定皮膜形成に及ぼす酸化物粒子ならびに添加元素の影響を調査する。酸化皮膜分析用試料作製装置と腐食表面保護皮膜形成装置は超臨界環境中酸化皮膜分析装置用試料の作製に用いる。耐食性評価用精密天秤を用いて腐食量を精密に測定する。
②流動SCW応力腐食割れ感受性評価、構造解析・組成分析及び粒界・界面ケミストリー分析評価
 製造した候補材料に対して超臨界環境中における応力腐食割れ感受性評価を実施する。腐食生成物や粒界・界面の構造および化学成分を調べ,腐食環境での耐性に優れた皮膜形成のための材料因子の調査を行う。

【研究開発項目3】鉛ビスマス(LBE)中における腐食試験及び腐食機構の解明
①腐食機構評価
 腐食試験の終了した比較材料(従来材)における耐食性に及ぼすアルミニウムの影響評価を行う。また、製造した候補材料の腐食保護層のLBE中安定性(溶解性)を評価する。
②腐食試験
 製造した候補材料のLBE中浸漬試験を行い,スーパーODS鋼のLBEに対する共存性を評価する。

【研究開発項目4】スーパーODS鋼候補材料のイオン・中性子・電子線照射下挙動評価
①イオン・中性子照射影響評価
 製造した候補材料に対して、照射温度が最高700℃、照射量が最大60dpaまでの範囲で酸化物粒子のイオン照射下における相安定性を評価する。京大イオン加速器システムを用いて照射する。
②電子線照射下挙動評価(再委託先:北海道大学)
 製造した候補材料に対して、電子線照射の影響を調べる。また,ボールミル製造の混合粉末に対して耐照射性能の向上に寄与するナノ・メゾ組織制御に及ぼす微量添加元素の影響をスーパーODS鋼の薄膜試料作製装置を利用して調べる。

【研究開発項目5】燃料との共存性評価(再委託先:原子力機構)
 模擬核分裂生成物腐食試験およびU-Zr合金共晶反応試験を実施し燃料との共存性を調べる。

【研究開発項目6】革新的原子力システムへの適用性評価
 スーパーODS鋼の革新的原子力システムへの適用性の評価(年次総括)を行う。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】スーパーODS鋼の成分設計・製造プロセス改良・製造
①スーパーODS鋼の成分設計及び粉末混合条件の調査
  • 試験材料の成分設計:参画機関共同検討のもと、スーパーODSフェライト鋼第二期試作材の候補成分を定めた。H17年度試験材の耐食性評価結果から、Fe-15.5Cr-2W-4Al-0.35Y2O3フェライト系ODS鋼を基本組成として選定した。基本組成に対して主に高温強度向上を目的に、押出温度、二段加熱、ハイブリッド、Y2O3増量、及び活性金属元素添加の影響を調査した結果、活性金属添加がAl含有ODS鋼の高温強度の増大に効果的である事を確認した。
  • 混合プロセス:処理時間を制御してボールミル混合したメカニカルアロイング(以下、MAという)粉末の組織性状に関する基礎的知見が得られ、本研究の合金成分範囲においてMA処理時間を最適化(48hr)できた。ボールミルプロセスにおいては、高温強度・靭性向上に有効な過剰酸素の制御(低減)が不可欠となることが判明した。
  • 押し出し温度:今後計画されている多目的高温炉を用いた固化体製造において、高温加圧処理条件として熱処理温度の上昇に伴う気孔率の低下が判明したことから,今後の詳細な調査のための指標が明確となった。
  • 微量不純物:ボールミルで粉末調整した場合,アトライター粉末から製造した固化体よりもガス成分であるO, N量は高い値を示すことがわかった。過剰酸素量増大の原因としては、原料粉末への不純物混入、粉末秤量及びMA処理時の気密漏洩、カプセルへの粉末充填時の状態、カプセル脱気不良、熱間押出時の気密漏洩等があげられる。これにより、今後のボールミルプロセス技術の確立に反映させていく。
  • 雰囲気制御: H2ガスを雰囲気としたMA処理は、金属水素化合物が生成し脆化しやすくなることが推測され、Arガスを雰囲気とした処理より混合粉末の微細化に極めて有効であると考えられる。ボールミルプロセスでH2ガスを雰囲気として製造したAl無添加SOC-5-BK-H(水素環境下MA)材が最も高い硬さをもつことが確認された。他の鋼種の約2倍程度N量が高く、N含有量が多くなると硬さが高くなる傾向を示した。
  • 酸化物粒子形状シミュレーション:モンテカルロ法によるナノクラスター形成シミュレーションを実施した結果,Alの添加/無添加や希土類元素(Hf,Ce)添加に伴うクラスター密度変化を概ね再現する結果が得られた。熱力学モデルに基づくミクロ組織予測を目指して、予備計算を実施し,スーパーODS鋼のミクロ組織に及ぼすAlの影響を熱力学的な見地から検討するためには適切な入力パラメータ等の検討を要することを確認した。
  • データベース構築:データバンクの基本構造を組み上げ、データを電子化し、HTML形式でコンテンツの簡便な閲覧を可能とした。
②スーパーODS鋼候補材料の製造
  • スーパーODS鋼候補材料の製造:活性金属元素粉末は市販されていないため、金属単体より安定なFe-活性金属元素二元合金を真空溶解、鋳塊の粉砕工程による製作を試みた。Nd合金は粉砕不能で製作できなかったが、Y,Hf,Ce合金粉末は製造できた。組成によってMA状態が若干異なり、鋼製ボールからのCやFeの混入による添加元素量の低減が生じる試験材もあったが、概ね目標組成の試験材が製作できた。Al量は全体に添加量より低い分析値となった。プレミックス法におけるAl添加法の検討、プレアロイ原料粉末適用検討の必要性が示唆された。
③常温・低温強度特性評価
  • 第二期材の特徴:18年度に新しく製造したスーパーODS鋼候補材の常温及び低温における引張強度特性、シャルピー衝撃特性や破壊靭性に及ぼす活性金属添加の影響、ハイブリッド化の影響(条件設定変更による向上の可能性)が明らかになった。
  • 熱時効脆化:Cr量の増加、或いはW添加により時効脆化が促進されることが確認された。一方、Ce添加やAl量の低減は時効脆化を抑制する傾向にあった。700℃、1440時間までの時効では、強度特性に顕著な変化は見られなかった。今後、より長時間側の時効実験を行う必要がある。
  • 異方性:ODS鋼の強度特性の異方性の主要な原因と考えられる集合組織をXRD法やEBSD法により確認した。また、オージェ分析の結果から、異方性には旧粉末境界上の不純物も寄与している可能性の有ることがわかった。
④アトライターの開発設計
  • 新型アトライター:既存のアトライターに比較して、充分な真空度(45Pa)が得られ、これまで不明だったMA処理時の内部状況を間接的にモニタリングできる装置となった。新型アトライターでは既存アトライターと比較し、大気主成分である窒素量は大幅に低減することができた。酸素量については、既存アトライターを使用した9Cr-ODS鋼の実績における下限側で安定となったが、作業手順やMA処理条件等の適正化で更なる低減の可能性がある。
  • 新型アトライターによるMA処理条件:処理過程の粉末性状と固化後の品質(組織及び強度特性)を考慮した上で、原料粉末初期状況、MA処理時間、回転数等の影響を調べ、最適MA条件の設定についての検討が必要である。既存アトライターでの経験やボールミル実験で判明した事実に基づき,効率的・効果的な条件探索を行っていく。
  • 雰囲気制御粉末処理装置:MA粉末分級から押出カプセル充填までの作業を連続的に実施可能で、酸素濃度も10ppm以下の雰囲気制御が可能な雰囲気制御粉末処理装置を製作できた。熱間押出固化した棒材の評価結果から、導入装置は高精度でガス成分量が制御でき、今後の開発に有用な装置であることが確認された。
⑤高温強度特性(クリープ・疲労)の改良・評価
  • 添加元素の影響:Al添加,W添加およびCr増量は高温強度に影響を及ぼす場合があるが,クリープ強度への影響は大きくない可能性が示唆された。この点については19年度のデータ拡充により、継続した検討が必要である。第3元素添加による高温強度向上(Y-Al酸化物形成の抑制効果)については、その可能性を強く示唆するデータが得られつつある。また、Y2O3余剰添加およびAl無添加ODS粉末を混合したハイブリッド材についても、さらなる高温強度向上の可能性を示した。Al添加による高温強度特性の劣化を改善する方法がほぼ確立されたといってよい。
  • 押し出し温度の影響:熱間押出温度を低くしたほうが、高温引張強さが向上する結果が得られた。短時間クリープ強度についても、同様の傾向が示唆された。一方、2段熱処理による強度向上は確認されなかった。
  • 熱時効脆化:450℃×1440h時効により、いずれの鋼種でも明確な時効脆化が認められたが、 700℃×1440h熱時効による衝撃特性の劣化は見られなかった。Crの増量およびWの添加により、熱時効後のDBTT上昇量が増加した。Al添加量をゼロとする、もしくはCeを添加した場合、時効後の靭性が改善した。AlとCeの効果にはLaves相やAl2O3の形成が関わっていると考えられるが、これらの要因を明らかにするためには破面および組織の詳細な観察が必要である。
⑥スーパーODS鋼の組織調査
  • 酸化物粒子の同定:フェライト単相鋼ではY-Al-OとAl-Oの二種類の酸化物が存在し、平均的な組成はそれぞれY30Al20O50およびAl33O66であった。フェライト+マルテンサイト二相鋼(#8)でもY-Al-OとAl-Oの二種類の酸化物が存在しており、その平均的な組成はそれぞれY10Al20O70,Al30O70であった。
  • クリープ材料の組織観察:クリープ試験機を用いて、一定の温度および荷重下で単一の試験片について時間に伴う伸びの変化を測定しつつ、破断(あるいは指定時間で中断)まで連続的に試験を行った後に組織観察するためのクリープ試験を開始した。
⑦ナノ・メゾ組織制御評価
  • 押し出し温度の影響:押し出し温度を上昇させると、酸化物粒子のサイズを減少させ、数密度を増大させるが,結晶粒形状(アスペクト比)の観点からは,押し出し温度の影響はほとんど認められない。Al無添加材は最小の結晶粒径を示したが,最大のアスペクト比を示したことから,強度特性に顕著な異方性が生じることが懸念される。高温強度特性の改善のためのプロセス改良(押し出し温度の選定)に関する重要な知見が得られた。
  • TEM内加熱ホルダー:加熱ホルダーを用いて高温域における酸化物の安定性を調査した結果、1000℃での観察において酸化物粒子は安定であることを確認した。また、高温TEM観察用加熱ホルダーを用いたその場観察法は、19年度に実施予定の再結晶化条件探索に効果的であることを確認した。

【研究開発項目2】超臨界圧水(SCW)中における耐食性評価
①停留およびSCW浸漬・腐食試験
  • 腐食挙動:スーパーODS鋼候補材料(SOC)の超臨界圧水中における耐食性評価を1000時間まで実施した結果、SOC-6を除く全てのSOCの酸化増量は、溶解法で作製した19Crフェライト鋼に比べはるかに小さな値にとどまることを確認した。Cr量の増加により超臨界圧水中における耐食性は向上する。Al量の増大による顕著な向上は見られない。
  • 酸化皮膜の性状:超臨界圧水中腐食試験後の酸化皮膜の化学分析を行った結果,16Cr-4Al-ODS鋼の酸化皮膜はCr2O3およびAl2O3で形成され,Cr2O3の下部にAl2O3が形成されていることが判明した。この結果は超臨界圧水中での耐食性にはAl2O3よりもCr2O3の形成が効果的であることを直接的に支持している。
  • 腐食速度:実験結果に基づき,腐食速度の理論的導出を行った結果,Cr拡散が粒界拡散と体拡散で支配されると仮定することで,実験値とほぼ一致する傾向にあることが判明した。
  • 流動水・定流水:流動水中と停留水中での腐食増量を比較すると,流動水中の場合が小さくなった。これはエロージョンが関与するか装置の水中酸素量制御能の差によると推測される。
②流動SCW応力腐食割れ感受性評価、構造解析・組成分析及び粒界・界面ケミストリー分析評価
  • 粒界型応力腐食割れ感受性:スーパーODS鋼候補材に対して超臨界圧水流動下におけるSCC感受性を調査した結果、SCC感受性は非常に低く、応力腐食割れは観察されなかった。腐食挙動を調べた結果、粒界腐食はほとんど観察されず、粒内の加工集合組織に関連したいわゆる全面(均一)腐食が優先されることが確認された。

【研究開発項目3】鉛ビスマス(LBE)中における腐食試験及び腐食機構の解明
①腐食機構評価
  • 一般的挙動:鉄鋼材料の主要合金元素のLBE中への溶解に対して,アルミニウム添加やODSにすることが効果的に作用することが示唆されたが,現段階では基礎データ蓄積の途上にあるため,今後さらに多種の条件にて溶解実験を行い,データ数を増やすことで,鉄鋼材料中のクロム濃度およびアルミニウム濃度,さらにはODSにすることが,鉄やクロムのLBEへの溶解に及ぼす影響や界面酸化物相に及ぼす影響を低酸素分圧側について調べていく必要がある。
②腐食試験
  • Al添加効果:スーパーODS鋼第1期候補材について、温度550℃および650℃、LBE中溶存酸素濃度10-8 wt%、10-6 wt%の条件で停留LBE中浸漬試験を実施した。その結果、第1期試作材の中では、Al、Crともに最も添加量が高いODS鋼が、最も優れた耐食性を示した。Al添加により、今回実施した全ての条件で耐食性の向上が認められた。3.5 mass%程度Alが添加されたODS鋼については、いずれの条件についてもLBE腐食は認められなかった。
  • Crの影響:Cr添加については、Al無添加の場合、16Cr-ODS鋼と従来の9Cr-ODS鋼の結果を比較したところ、温度650℃、LBE中溶存酸素濃度10-6 wt%の条件については耐食性の向上が確認できたが、温度650℃、LBE中溶存酸素濃度10-8 wt%の条件については逆により早い時間でのLBE腐食が認められ、高Cr化の耐食性の向上への効果は限定的であった。一方、Al添加材については、Cr添加量の増加による内部酸化層形成の抑制が確認されるなど、耐食性の向上に効果的であることが示された。

【研究開発項目4】スーパーODS鋼候補材料のイオン・中性子・電子線照射下挙動評価
①イオン・中性子照射影響評価
  • 相安定性:イオン照射実験と透過電子顕微鏡観察およびナノインデンターを使った相安定性研究を行い,650℃、60dpa程度までの損傷レベルにおけるスーパーODSの照射後微細組織観察からは結晶粒の粗大化や析出物の発生などの不安定挙動は認められなかった。また,酸化物分散粒子の高分解能透過電子顕微鏡観察から平均的なY−Al複合酸化物分散粒子が部分整合の析出物である可能性および650℃、60dpa程度までのイオン照射環境下で安定であることが示された。以上の結果650℃、60dpa程度のイオン照射環境でのスーパーODS鋼の優れた相安定性が示された。
②電子線照射下挙動評価(再委託先:北海道大学)
  • 酸化物粒子の微細化:照射前のナノ分散の状態を検討した結果、Al添加無、Zr添加、Hf添加が有効であり、特にHfにおいて微細化効果が顕著であった。粒子は数ナノから数十ナノサイズの複合酸化物であり、その構造を明らかにした。
  • 損傷組織:超高圧電子顕微鏡により500℃で約5dpaまでの連続観察を実施した結果、転位ループが形成するが、通常型のフェライト鋼に比べてその成長は遅く、特に高密度のナノ酸化物が存在する場合は、ループはほとんど成長せず、耐照射性を有することが確認された。これは非整合、半整合の微粒子界面が点欠陥の有効なシンクサイトとして働くこと示している。以上の結果は耐照射性能向上のための合金設計に対する有効な指針である。

【研究開発項目5】燃料との共存性評価(再委託先:原子力機構)
  • 模擬核分裂生成物(CsOH/CsI混合物)雰囲気下で700℃×100時間の長期加熱試験を行った結果,模擬FP雰囲気試験後の各試験片断面の腐食層の厚さより、本試験に用いた組成範囲内ではCrが多いほど、またAlが少ないほど耐食性が向上する傾向のあることが分かった。Cr濃度の増量による耐模擬FP反応性の改善は、熱力学的に安定な緻密なCr-O系皮膜の形成によるものと考えられる。一方、Alの添加により耐反応性は劣化するが、これには模擬FP中へのAlの溶出が関与していると考えられる。
  • Al+Cr影響:800℃×90minの熱処理条件において、Al添加およびCr濃度の増量がU-Zr合金との反応抑制に有効であることがわかった。
  • 状態図評価:多元系計算状態図によると、反応層IIおよびII'で液相が生じている可能性がある。反応層IIはAlを添加していない12Cr-ODS鋼と16Cr-ODS鋼のみに形成していた。反応層II'は鋼種(11Cr-1.5Al)を除くすべての試料に観察されたが、Alを添加した鋼種では微小な領域のみでの形成であり、Alの添加は耐共晶反応性の抑制に有効であることがわかる。このAlの効果が表面皮膜の安定性によるものか、拡散係数や平衡状態図で説明できるものか明確にすることは重要である。
  • スーパーODS鋼とU-Zr 合金の反応性に及ぼすCrとAlの影響を明確にするためには、より長時間の試験等のデータ拡充が必要である。

【研究開発項目6】革新的原子力システムへの適用性評価
  • スーパーODS鋼の各種特性の目標値に関する実験的実証において、長時間特性の実験に関しては計画通り進捗している。現時点での材料性能の総合評価としては、第3元素の微量添加により、高Cr化やAl添加による耐食性能の向上に伴う高温クリープ強度特性の劣化を防ぐことができることを確認しつつある(クリープ試験中)。
  • スーパーODS鋼の高性能発現のメカニズム調査研究が進み、発現支配因子と考えられる酸化物粒子のサイズおよび密度制御のための指針として、ODS鋼の化学成分、粉末調整における酸素制御、熱間押し出し温度に関する重要な知見が得られ、暫定目標を達成する革新的原子炉燃料被覆管材料ができる見通しを確認した。
  • 平成19年度予定の製管技術開発に向けて、合金設計、プロセス開発および再結晶処理技術開発研究指針が得られた。

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
  • 高耐食性スーパーODS鋼は高温強度、耐食性など長時間特性に優れた炉心材料として期待でき、この開発ができれば、革新的なブレークスルーとなる。このためには、より一層、データを蓄積し評価することが重要となる。試験データの蓄積とともに、今後、機構論的な解明に注力してもらいたい。

【研究開発項目1】スーパーODS鋼の成分設計・製造プロセス改良・製造
  • 試験結果の物理的な内容の検討に、より一層注力してもらいたい。
  • 管材を加工する時は、熱処理の影響等、製造プロセスの整理が大切となるので、製造プロセスを十分に評価しながら進めることが重要である。

【研究開発項目2】超臨界水(SCW)中における耐食性評価
  • 超臨界水中における機械的特性について、さらに目標を明確にして研究を進めてもらいたい。
  • Cr量が増大したことによる耐食性の向上と熱時効後の脆化とのバランスをよく考えながら評価を進めてもらいたい。

【研究開発項目3】鉛ビスマス中における腐食試験及び腐食機構の解明
  • 鉛ビスマス中における機械的特性について、さらに目標を明確にして研究を進めてもらいたい。
  • 材料組成の試験結果に対する機構論的な解明をさらに進めることが重要である。

【研究開発項目4】スーパーODS鋼候補材料のイオン・中性子・電子線照射下挙動評価
  • これまでのところ、良好な結果が得られている。ただし、照射環境と熱時効との相乗効果に関する検討を加えることが望ましい。

【研究開発項目5】燃料との共存性評価
  • さらにデータを蓄積し、試験結果を評価することが重要である。試験法の妥当性や再現性の確認にも注力して検討・評価を進めてもらいたい。

【研究開発項目6】革新的原子力システムへの適用性評価
  • 超臨界水炉、鉛ビスマス炉での適用性については、システム部門と連携して目標とする指標をさらに明確にして、効率的に研究を進めてもらいたい。

9.中間評価結果

  • 高温強度、耐食性など長時間特性に優れた炉心材料の開発ができれば、革新的なブレークスルーとなる。
  • 材料の開発では、試験データを十分に蓄積して評価することが重要となるので、試験データをより一層蓄積して機構論的な解明をさらに進めることが重要である。

10.総合評価

(期待以上の成果が見込め継続すべき)
(ほぼ期待通りの成果が見込め継続すべきだが、計画について一部調整の必要がある)
(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
(継続すべきではない)

Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室