原子力システム研究開発事業

原子力システム研究開発事業における平成18年度採択課題中間評価の結果について

原子力システム研究開発事業−特別推進分野−中間評価 総合所見公表用

1.研究開発課題名

 セル内遠隔設備の開発

2.研究開発の実施者

機関名:独立行政法人日本原子力開発機構代表者氏名:滑川卓志
機関名:国立大学法人筑波大学代表者氏名:山海嘉之

3.研究開発の概要

 高速増殖炉サイクル実用化研究(FaCT)で想定するFBR 実用化時代の燃料製造施設では、低除染TRU 燃料を取扱う。この燃料は、ネプツニウム、アメリシウム及びキュリウムのマイナーアクチニド元素及び核分裂生成物を含むことを想定しているため、放射線が強く、発熱を伴うことから、従来のグローブボックス方式では対応できず、燃料製造機器設備は全てセル内に設置することとなる。そのため、遠隔による運転性と保守補修性を有するシステム技術の開発が必要である。更に、FBR 実用化時代の燃料製造施設は、年産200tHMの大型プラントを目指しているため、量産性の追及が必要となる。
 本事業では、セル内遠隔設備に係る設備開発として、ペレット成型設備のセル内遠隔保守対応モジュールの開発及びそれに整合する遠隔ハンドリング設備の開発、ペレットの検査技術の開発、及びTRU 燃料粉末の分析技術の開発を実施し、将来のFBR 燃料製造システムの開発に資する。

4.研究開発予算

平成18年度231,616 千円
平成19年度517,897 千円
平成20年度310,061 千円
平成21年度(予定)202,000 千円

5.研究開発期間

 平成18年10月 〜 平成22年3月 ( 4年計画 )

6.平成19年度までの目標

【研究開発項目1】 ペレット成型設備のセル内遠隔保守対応モジュールの開発
① ペレット成型設備の遠隔保守補修要件の整理
 ペレット成型設備の遠隔保守補修対応に必要な要件を明確化するため、FSフェーズII概念設計研究における当該設備の運転、保守及びシステム設計条件を整理する。
② ペレット成型設備保守交換用モジュール概念の検討
 原子力機構が実施している高除染MOXペレットを対象としたペレット成型設備の使用実績を参考に、低除染TRU燃料用のペレット成型設備の各部構成機器の保守方法を検討する。これらの保守対象に対し保守交換用モジュール化のための分割細分化、コネクション方法の検討を行う。
 ペレット成型設備の各部構成機器の保守方法とモジュール化検討結果に基づき、モジュール化したペレット成型設備の概念設計を行う。
 代表的なモジュール箇所について、平成20年度に総合試験を実施するために必要なモジュール組込みモックアップ試験機の設計を行う。

【研究開発項目2】 セル内遠隔ハンドリング設備の開発
① 遠隔保守マニプレータ・システムの開発
 マニプレータ・アームと遠隔保守移動装置を組合せ、遠隔保守マニプレータ・システムの基本機能の確認を行う。
 マニプレータ・アーム・コントローラの試作・試験を実施するとともに、マニプレータ・アーム操縦システムの改良設計及び遠隔保守移動装置の制御の改良検討を実施する。
② 遠隔保守ロボットアーム・システムの開発
 ペレットの転倒修復保守を行う遠隔保守ロボットアーム・システムを構築するため、ペレット姿勢修復動作における指、腕、関節の動きを検討し、ペレットの転倒修復保守試験用の試作ロボットアームを各部位ごとに組み立て、その動作確認を行う。
 ペレット姿勢修復用遠隔保守ロボットアームの改良・試験を実施するとともに、環境認識システムの試作・試験を実施する。
③ 自律制御技術の開発
 モジュールの着脱操作やクレーンのフッキング操作における遠隔保守マニプレータ・システムに対し、これらの作業の力制御機能の組み込みを行い、モックアップ用治具を用いた試験を行いながら自律制御機能の改良を行う。
④ MMI技術の開発
 MMI評価解析装置とMMI試験体及び遠隔保守マニプレータ・システムを組み合わせたMMI評価試験を実施するとともに、この試験結果を基に、MMI評価解析システムの改良を実施する。

【研究開発項目3】 ペレット検査技術の開発
① 合理的測定手法の選定及び検査システム概念設計
 原子力機構の高除染MOXペレットの検査設備をモデルに、低除染TRU燃料ペレットの検査仕様、環境条件、運転保守条件に合致する要素技術の検討、絞込みを行い、ペレット検査システムの概念設計を実施する。
② 試験装置の製作
 ペレット検査システム試験装置の設計及び検査モジュールの試作を実施する。また、試作した検査モジュールの性能試験を実施する。

【研究開発項目4】 TRU燃料粉末の分析技術の開発
① 遠隔操作及び保守機能の付加に関する調査及び分析装置概念の検討
 水分含有率、粒度分布、粉末流動性測定について、調査・検討結果およびインライン化するための改造方法の検討結果をもとに、TRU燃料粉末をセル内インラインで分析するための分析設備の概念設計を行う。
 O/M比測定装置について、分析性能の実現の可能性を調査、検討し、セル内遠隔設備のための測定装置の選定及びそのセル内への設置可能性を検討する。さらに、グローブボックス設備として使用実績のある差動型示差熱天秤を選定し、セル内設備化に際しての遠隔操作性及び遠隔保守性を付加するための検討を行う。その検討結果をもとに、改造必要性の検討、測定部と制御部の分離方法やセル内でのメンテナンス方法などの検討により、セル内設備の概念設計を行う。
② 試料のセル内移送・返送設備概念の構築
 セル内の粉末配管から顆粒MOX粉末をインラインでサンプリングし、それを各分析装置に必要量を分配するとともに、分析が終了した粉末の回収および粉末配管への返却を自動的に実施する設備の概念設計を行う。
③ 試験装置の製作
 水分含有率、粒度分布、粉末流動性およびO/M比測定装置、並びに顆粒MOX粉末のセル内移送・返送設備について、試験計画を策定するとともにTRU粉末分析装置試験装置を設計する。さらに、O/M比測定装置の試料取扱機構を試作し、動作確認を行う。

7.これまでに得られた成果

【研究開発項目1】 ペレット成型設備のセル内遠隔保守対応モジュールの開発
 MOX燃料製造設備は、細かなペレット(FaCT仕様:直径約8.7 mm、高さ約10mm)を取扱い、基本的にバッチ処理の機械装置群で構成されるため、保守項目が多い。一旦、セル内に設置した機器設備は、保守のために作業員が容易に近づくことが出来ないため、遮へい壁を隔てた遠隔操作による保守・補修システムの開発が必要となる。FaCT燃料製造設備の保守概念は、図1に示すように、工程セル内保守−除染セル内保守−グローブボックス保守の3つのステップで構成される。このシステムの中で、キーとなる技術がモジュール化設備技術である。そこで、成型設備(ペレット整列部を含む)を開発設備の代表として、モジュール化設備技術の開発を行っている。成型設備は、同一工程設備内で粉末とペレット成型体を取扱う2種類の工程が存在するため、開発の代表設備として選定した。
 FaCT燃料製造設備における成型設備の基本構成は、現在日本原子力研究開発機構が運転しているグローブボックス内に設置したMOX燃料製造設備と大きな差がないため、開発設備の保守・補修項目の洗い出しを既存のグローブボックス設備をベースに実施した。結果は、約70件の保守項目を抽出し、これに対応する保守交換用モジュールとするために、対象部位の細分化及び集約、モジュール着脱方法の検討を実施し、図2に例示したようにモジュール構成数を37個とした設備の概念を設計した。モジュール構造の基本的な概念の例と交換方法の例を図3及び図4に示す。モジュール化構造の設計に当たっては、設備構造強度等への影響に配慮しながら、遠隔着脱の実現性が確保できるように工夫をした。

図1 セル内モジュール化設備の保守概念
図1 セル内モジュール化設備の保守概念

図2 セル内成型設備のモジュール構成
図2 セル内成型設備のモジュール構成

図3 モジュール構造の基本概念
図3 モジュール構造の基本概念
図3 モジュール構造の基本概念

図4 大型モジュールの交換例
図4 大型モジュールの交換例

【研究開発項目2】 セル内遠隔ハンドリング設備の開発
 上記(1)のモジュール化設備の遠隔保守を実現するため、並行してマニプレータ等のセル内ハンドリング設備の開発を行い、モジュール化設備との最適な組合せとなるシステム技術を開発する。セル内マニプレータとしては、再処理プラント用設備として両腕型サーボマニプレータが日本原子力研究開発機構において既に開発され、実用に供されているが、燃料製造設備に特有な細かな保守・補修作業に適用すべく、なるべく操作者への負担を軽減するような半自動機能(自律制御機能)を具備するマニプレータの開発を目指している。図5に示すように、現在まで、市販の汎用ロボットアームと遠隔保守移動装置を組み合わせ、セル内設備を模擬したモジュール交換用遠隔保守マニプレータ・システム開発試験に供する基本システムを製作した。モジュールの着脱操作やクレーンのフッキング操作を半自動で実施できるようにするため、マニプレータ・アームに組み込む自律制御技術の開発試験を実施している。
 また、セル内で発生するちょっとした工程設備の停止(いわゆる、チョコ停)に対応するセル内設備として、転倒したペレットあるいは移送過程で詰まりを起こしたペレットの姿勢修復を行う遠隔保守ロボットアーム・システムを構築するため、図6に示す試作ロボットアームを製作し、平成19年度は、位置情報把握機能の整備、ペレット把持動作の制御技術の確認試験等を実施し、自律制御を組込み基本技術を整備した。
 さらに、モジュール交換用遠隔保守マニプレータ・システムの運転操作における作業信頼性の向上を図るためマン・マシン・インターフェース(MMI)技術を開発している。移動や把持作業等のマニプレータ操作の模擬試験実施時に心電図等のオペレータの身体情報を採取し、作業負荷(メンタル・ワーク・ロード)を評価しながら、操作者への負荷の少ないMMI設備構成の検討を実施している。その結果、操作環境の表示方法として、レーザーレンジファインダ等の情報が有効活用できることを確認した。

図5 遠隔保守マニプレータ・システム試験機
図5 遠隔保守マニプレータ・システム試験機

図6 ペレット姿勢修復用ロボットアーム試作機
図6 ペレット姿勢修復用ロボットアーム試作機

【研究開発項目3】 ペレット検査技術の開発
 日産7万個規模で、中空タイプの焼結済ペレットの外観、寸法及び重量測定をセル内で実施し、かつ遠隔保守が可能な検査技術を開発する。FaCT燃料製造設備で扱う低除染TRU燃料ペレットの検査仕様、環境条件、運転保守条件に合致する市販の測定技術を調査・検討した結果、検査方式としては、外観検査及び中空内径測定には画像処理、ペレット外径・高さ測定には画像処理による形状測定、ペレット重量測定には電磁平衡方式天秤を選定した。平成19年度、これらの技術を組み合わせた検査システムの概念設計を実施し、検査モジュールの開発用試験機の製作設計を実施した。図7に、外観検査モジュールの概念を示す。

図7 ペレット外観検査モジュールの概念
図7 ペレット外観検査モジュールの概念

【研究開発項目4】 TRU燃料粉末の分析技術の開発
 FaCT燃料製造設備では、プラント量産性を向上するため燃料粉末に水分を添加し造粒することにより、粉末流動性を改善する設計としているが、乾燥系の臨界管理とするため5%以下の水分含有率とする必要がある。また、プラントの安定操業の観点からも粉末特性の異常を早い段階で検知する必要がある。
 これらの要求を満たすため、インラインで、燃料粉末の移送を妨げることなく迅速に水分含有率、粒度分布、粉末流動性を測定できる技術を開発する。併せて、工程内の燃料粉末の酸素/金属比(O/M比)の管理を行うため、セル内O/M比測定技術を開発する。インライン分析設備候補装置の開発にあたり市販の分析装置を調査し、開発要件に合致し技術的実現性が高い技術として、水分含有率測定には赤外線吸光法、粒度分布測定には乾式レーザー回折法、粉末流動性測定にはかさ・タップ密度及び安息角測定を選定した。これらの装置をベースに、セル内インライン化するための遠隔取扱機構、分割モジュール化、遠隔調整方法など遠隔操作及び保守機能を付加した分析装置概念設計を実施した。図8に設備概念を示す。また、遠隔O/M比測定設備には、グローブボックス設備として実績のある差動型示差熱天秤を選定し、試験装置の概念設計、O/M試料取扱機構の試作を実施した。

インライン分析装置概念図
インライン分析装置概念図

O/M比測定設備
O/M比測定設備

図8 TRU燃料粉末分析装置

8.中間評価の過程における主な指摘事項

【全体】
・低除染燃料を扱う加工施設では、セル内の遠隔保守は必須であり、それを容易にするためのモジュール方式による保守の考え方は当を得ている。本研究開発においては、それを具現化できる道筋があることを示したところに最大の意味がある。
・実用化においては、今後予定される、試作・性能試験、総合試験が重要であり、着実に進められることを期待する。

【研究開発項目1】ペレット成型設備のセル内遠隔保守対応モジュールの開発
・セル内でペレット成型設備を安定的に動かせる技術は、今のところ世界のどこにも見当たらない。それ故、第一歩としてのアプローチは妥当である。特に最も難しい成型部分について見通しを得ていることは心強い。

【研究開発項目2】セル内遠隔ハンドリング設備の開発
・セル内の遠隔保守を行う第一歩として、これまで基礎技術のあるマニプレータやロボットを適用することは適切である。

【研究開発項目3】ペレット検査技術の開発
・セル内で作動可能な検査システムを目指した本研究の内容は妥当である。
・検査技術について、今後計画されている試験における性能確認が重要であることから、着実に展開されることを期待する。

【研究開発項目4】TRU燃料粉末の分析技術の開発
・セル内インライン分析法として、ここで選定された方法がベストであるとは限らないが、燃料加工には欠かせない工程として、その一つの実現可能性を提示したことが重要である。
・性能試験において、所定の検査精度、検査時間等が得られるよう取り組んでもらいたい。

9.中間評価結果

・マイナーアクチニドのリサイクルを実施するには、燃料製造工程の遠隔運転、遠隔保守技術が不可欠であり、その成否はエンジニアリング開発が鍵を握っている。本研究開発において、その第一歩を踏み出したことは、大きな意義があることと評価できる。

10.総合評価

a(継続すべき)
b(継続すべきだが、計画について調整の必要がある)
c(継続すべきだが、計画の一部見直しの必要がある)
d(継続するためには、計画の大幅な見直しの必要がある)
e(継続すべきではない)

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