原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

原子力システム高効率化に向けた高耐食性スーパーODS 鋼の開発

(受託者)国立大学法人京都大学
(研究代表者)木村晃彦 エネルギー理工学研究所
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、株式会社コベルコ科研、
独立行政法人物質・材料研究機構、国立大学法人北海道大学、国立大学法人名古屋大学

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、代表的な次世代原子力システムとされている超臨界圧水(SCW)冷却高速炉および鉛ビスマス(LBE) 冷却高速炉の高効率化に不可欠な高燃焼度化対応型の革新的な燃料被覆管材料を開発することを目的とする。従来のステンレス鋼は、高燃焼度化を達成する上で照射下寸法安定性、照射脆化、ヘリウム脆化及び耐食性等に深刻な課題を抱えている。また、申請者等によって、ナトリウム冷却高速炉(SFR)用に開発された高性能な酸化物分散強化型(Oxide Dispersion Strengthened : ODS)9Cr鋼は、高温強度と耐照射性能の要件を満たしているが、LBEやSCWに対する耐食性が十分ではない。そこで本研究開発においては、Cr濃度が13%以上の高Cr-ODSフェライト鋼製造技術をベースにして、従来に無い合金設計と製造プロセス法を考案することにより、高温強度特性、耐照射性能および耐食性の全てを兼ね備えた革新的な燃料被覆管材料として「スーパーODS鋼」を開発し、次世代原子力システムの高効率化・高燃焼度化の実現に貢献する。

2.研究開発成果

 本事業の最終目的である「スーパーODS 鋼」の開発に向けて実施した平成17年度から21年度中期までの研究成果を課題ごとにまとめると以下のようになる。

(1)スーパーODS鋼の成分設計・製造プロセス改良・製造

①スーパーODS鋼の成分設計及び粉末混合条件の調査
 成分設計に関しては、微細な酸化物粒子を高密度に分散制御するためには、Fe-16Cr-4Al基本鋼にZrないしHfを添加することが効果的であることを見出した。粉末混合条件に関しては、混合処理(Mechanical Alloying:MA) 時間、混合回転速度、粉砕鉄球体積比等の影響を調査し、優れた特性を得るための条件を求めた。

②スーパーODS鋼候補材料の製造
 16Cr-4Al-0.35Y2O3を基本組成として、Cr量とAl量を変化させた鋼種およびW、Ti、Zr、Hf、Ceを添加した鋼種ならびに過剰酸素量を調整した鋼種の合計25鋼種の試験材を製造した。各種試験による材料性能の評価の結果に基づき,最終的には「スーパーODS鋼」として、15.5Cr-2W-4Al-0.3Zr-0.35Y2O3合金鋼を選定し、被覆管用の素材を製造した。

図1
図1:第3元素添加によるクリープ特性の向上
図2
図2:ZrおよびHf添加材において観察された炭化物および酸化物の粒界析出

③常温・低温強度特性評価
 本研究項目においては高Cr添加に伴う脆化の評価と被覆管の長期使用による時効脆化促進の影響を評価した。3.3mm角材にて評価した衝撃試験の結果、スーパーODS鋼の延性脆性遷移温度(DBTT)は約‐30℃であり、素管の成形を行う室温においても完全な延性破壊を示した。1.5mm角材の熱時効(450℃)脆化は、概ね1500時間までに飽和する傾向が見られた。被覆管と同じ厚さの試料を用いて行った延性脆性遷移挙動の評価では、450℃、1万時間時効後においてもDBTTはAl添加材で約‐50℃であり、Al無添加材では77K以下と十分に低いことを確認した。

④高精度制御型アトライターの製作
 本研究項目では、酸化物粒子径が過剰酸素量(Y2O3以外の酸化物を形成するための酸素量)に依存することに着目してMA処理工程において大気と接触しない構造のアトライター設備や回収したMA粉末を不活性雰囲気中で処理するためのグローブボックスならびに新型押出カプセルを製作した。これにより過剰酸素量を高精度に制御することが可能となった。

⑤高温大気中強度特性改良・評価
 本研究項目では、高温クリープ・疲労特性および高温での組織変化に伴う靭性変化を評価した。Al添加は耐食性確保の面で不可欠であるものの酸化物粒子が粗大化し、高温引張強度およびクリープ強度を低下させる。そこで粒子径制御元素としてZrあるいはHfを添加した結果、高温引張強度のみならず、クリープ強度が顕著に増大し、本事業の目的の達成の目処がついた(図1)。衝撃特性に及ぼすZrやHf添加の影響を調べた結果、靭性低下を招かないことを確認した。

⑥スーパーODS鋼の組織調査
 スーパーODS鋼候補材では、最小クリープ速度が低下し、破断寿命が大幅に伸びたが、加速クリープが急激に進行していることから、不均一変形を抑制することで加速クリープ域を延長すれば、さらにクリープ強度の増大が期待できることを確認した。また,1μmを超える粗大な介在物の数を減らすことは,強度特性の向上に効果的であることがわかった。

⑦ナノ・メゾ組織制御評価
 スーパーODS鋼のナノ・メゾ組織を評価した結果、ZrあるいはHfの炭化物や酸化物が粒内のみならず粒界上に多量に析出していることが判明した(図2)。また、ZrあるいはHf添加材の酸化物粒子のサイズ(約3-5nm)が無添加鋼のサイズ(約7nm)に比べて小さく数密度が高い(約5倍)。これらのナノスケール(酸化物粒子)およびメゾスケール(結晶粒)の組織制御によりクリープ強度が増大したと考えられる。

(2)超臨界圧水(SCW)中における耐食性評価
図3
図3:超臨界圧水中(600℃、25MPa、溶存酸素8ppm)での腐食増量(SOCP-1、SOC14共にAl添加材)

①停留及び流動SCW浸漬・腐食試験
 本研究項目では、超臨界水環境中腐食試験装置を用いて、開発されたスーパーODS鋼の耐食性評価を実施した。図3は、超臨界圧水(600℃、25MPa)中での各種既存材料とスーパーODS鋼(SOC-14)の耐食性を評価した結果を示すもので、スーパーODS鋼の腐食増量が少なく、優れた耐食性を示していることがわかる。腐食試験後の化学分析の結果、Alの添加は、材料表面に薄い(約200nm)アルミナ層を形成することにより耐食性を向上させていることが判明した。400℃、500℃および600℃での実験結果に基づき、スーパーODS鋼の腐食増量予測式をCurve fittingにより求めて、腐食深さを見積もった結果、600℃の超臨界圧水中での10年間における腐食深さは約10μmであり、目標値の10分の1に抑えることが可能であることを確認した。

②流動SCW応力腐食割れ感受性評価、構造解析・組成分析及び粒界・界面ケミストリー分析評価
 超臨界水環境中における応力腐食割れ感受性評価を実施した結果、スーパーODS鋼候補材の試料表面の極浅い領域においてのみ、小さなき裂が認められたが、試料全体の破壊様式は延性破壊であり、応力腐食割れ感受性を示さないことがわかった。

(3)鉛ビスマス(LBE)中における腐食試験及び腐食機構の解明
図4
図4:LBE中での腐食試験後の試料断面
(650℃、10-8wt%O2):Al無添加材(SOC-5)では腐食が認められるが、スーパーODS鋼(SOC-14)では5000時間後においても認められない。

①腐食機構評価
 溶存酸素量を変えたLBE中溶解実験を700℃において実施し,溶解量測定および界面観察を行った結果、酸素分圧の高い条件では比較的緻密な酸化物層が形成され、特に,Alを含有し,かつ高Cr濃度の条件では界面にアルミナのごく薄い層が形成されており,主要合金元素のLBE中への溶解も抑制されることが判った。

②腐食試験
 550℃及び650℃において、停留LBE中長時間腐食試験(5000時間)した結果、Alを添加した基本化学組成(16Cr-4Al-2W)の候補材をはじめとし、Zrが添加されたスーパーODS鋼は、良好な耐食性を示すことが明らかになった(図4)。腐食試験(試験温度550℃及び650℃、LBE中溶存酸素濃度10-8 wt%、浸漬時間1000時間及び3000時間)結果と放物線則に基づいた酸化皮膜成長予測式から700℃/20年後の酸化皮膜厚さを外挿法により求めた結果、約25μmと十分に小さいことを確認した。

(4)スーパーODS鋼候補材料のイオン・中性子・電子線照射下挙動評価

①イオン・中性子照射影響評価
 スーパーODS鋼候補材に対して650℃、60dpa(ピーク箇所で150dpa)のイオン照射を行い、微細組織の照射下安定性を調査した結果、ODS鋼はいずれも高温高照射量の環境において、微細結晶粒および酸化物粒子ともに安定であることを確認した。中性子照射(300℃/0.21dpa、400℃/0.75dpa、600℃/0.75dpa)後の引張挙動変化を調査した結果、300℃および400℃照射により顕著な照射硬化が生じたが、全伸びにはほとんど変化が無く、600℃照射に至っては、強度および伸びのいずれにも変化がほとんど認められず、ODS鋼の良好な耐照射性を確認した。

②電子線照射下挙動評価
 MA粉末を用いて、電子線照射下での酸化物粒子や転位組織の安定性を評価した結果、500℃においては、約5dpaまで照射下でのボイド形成は見られなかったが、転位ループの形成が認められた。酸化物粒子が微小でかつ高密度の場合には、転位ループの成長が抑制された。

(5)燃料との共存性評価
図5
図5:スーパーODS鋼とU-Zr金属燃料の高温反応試験結果

①共存性試験
 酸化物燃料模擬核分裂生成物(FP)に対する耐食性およびU-Zr金属燃料との反応性を評価した結果、スーパーODS鋼のCr濃度を14wt%以上、Al濃度を約3.5wt%とすることにより、U-Zr金属燃料との反応開始温度を850℃超まで上昇させることに成功した(図5)。さらに、この基本組成材がSUS316と同等の耐模擬FP腐食性を有することを明らかにした。

②高温酸化試験
 スーパーODS鋼候補材の高温酸化挙動に及ぼすCrおよびAlの影響を調査し、スーパーODS鋼候補材の大気中高温酸化は試験開始後の10時間以内の極く初期に進行し、その後は飽和傾向を示すことやCr濃度を13%から17%に増加すると酸化量が1/3に抑制されること、ならびにAl添加はCrほど顕著ではないが、同様に高温酸化抑制に効果的であることを確認した。

(6) 実用化に向けたスーパーODS鋼の加工プロセス技術開発
図6
図6:スーパーODS鋼被覆管

①製管試験
 スーパーODS鋼に対する冷間圧延後の軟化熱処理温度を適切に選択することで、4回の冷間圧延による被覆管の製造に成功するとともに(図6)、4回冷間圧延後に1150℃以上の最終熱処理を施すことで等方的な再結晶組織の得られることを確認した。

②再結晶試験
 スーパーODS鋼被覆管の700℃引張強度は、長手方向より燃料要素として重要な周方向に対して優れており、その高温強度は素管と同等以上である。製造被覆管の2次再結晶集合組織は優れた周方向高温強度をもたらすことが見出された。

(7)革新的原子力システムへの適用性評価

 最終目的である高温高強度、耐照射性能および耐食性の全てにおいて優れた被覆管材料の素材開発およびその管材の製造に成功し、管材の特性評価を行う段階に到達した。開発した「スーパーODS鋼」は、SCW冷却やLBE冷却等の次世代原子炉システムへの適用が可能である。

3.今後の展望

 管材の評価結果は途中ではあるが、概して良好な特性を示しており、H21年度末までに管材の性能評価試験を終了し、次世代原子力システムにおける被覆管材料の要件を満たす革新的被覆管材料「スーパーODS鋼」として、15.5Cr-2W-4Al-0.3Zr-0.35Y2O3鋼を提案できる見通しである。その後は、開発された「スーパーODS鋼」の性能向上限界を見極め、現在提案されている次世代原子力システム(SFRを含む)の設計仕様と照合し、システム・材料統合評価に基づき、各種の次世代原子力システムの高効率化および高燃焼度化の可能性を示す。実用化に向けた実証試験の実施や検査技術開発への展開が望まれる。

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