原子力システム研究開発事業

HOME研究成果平成21年度成果報告会開催資料集>液体金属熱流動評価のための高速度3次元直接計測技術開発

平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

液体金属熱流動評価のための高速度3次元直接計測技術開発

(受託者)国立大学法人東京大学
(研究代表者)岡本孝司 大学院新領域創成科学研究科
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では液体金属冷却型高速増殖炉の炉心熱流動評価手法の信頼性向上と上部構造物における高サイクル疲労評価のための水流動高時間分解3次元計測技術を開発するとともに、これを応用した液体金属流動高時間分解3次元計測技術を開発し、水および液体金属の多次元温度-速度相関熱流動データベースの構築を目指す事を目的とする。
 液体金属冷却型高速増殖炉の炉心熱流動評価の高信頼性化は、次世代炉開発に重要な視点である。さらに、炉心上部構造物には、炉心からの高温と低温のナトリウムが混合せずに衝突することによって生ずる温度変動が高繰り返し応力として与えられ、材料の劣化を促進することが懸念されており(サーマルストライピング現象)、流速等が厳しい条件となる次世代炉では、より高周波数で詳細な評価が必要となっている。従来の研究では、実験による検証を経てシミュレーションを中心とした評価が行われてきた。しかし、この実験データは液体金属が不可視流体であることから、プロセスデータや熱電対などの局所温度変動などのバルク情報であった。サーマルストライピングや炉心流動は、温度と流動が畳重する場であり、過渡変動を含む詳細な3次元温度分布や流速分布情報が重要であるが、計測技術の限界から、これらは取得できていなかった。もし、これらの詳細な計測評価データを取得することが出来れば、サーマルストライピング現象の詳細な把握とともに、炉心熱流動評価の信頼性を飛躍的に高めることが可能となる。本事業においては、水流動と液体金属流動を対象とした計測技術を連携して開発し、上記の目的を達成する。
 なお、JRR-4が2年間停止中であるため、本事業は1年延長中である。

2.研究開発成果
2.1水流動高速度3次元直接計測技術開発

 液体金属冷却型高速増殖炉の炉心熱流動評価手法の信頼性向上と上部構造物における高サイクル疲労評価のための水流動高時間分解3次元計測技術を開発する。水などの透明流体の速度・温度計測では、従来、二次元PIV(Particle Image Velocimetry)法や蛍光染料を用いたLIF(Laser Induced Fluorescent)法が開発されてきた。しかし、 LIF法による温度計測は、測定系の不安定や、クエンチング現象などにより、高精度に測定することが容易ではない。
 本研究開発事業では、一度の励起で長時間発光する燐光を、高時間分解能で測定することにより、温度の関数である燐光寿命(減衰率)を測定し、温度を評価する。さらに燐光寿命に基づく温度計測とPIVの計測を組み合わせ、温度速度相関計測システムを開発する。定量速度場計測手法のPIVでは流れの中に、流れに追随するトレーサー粒子を混入させ、この移動量を分析することによって速度を算出する。そこで本研究開発事業では、この粒子に燐光染料を吸着させ、TSParticle (Temperature Sensitive Particle )を開発し、これを用いて温度速度相関計測システムを開発する。
 平成20 年度は平成19 年度までに開発してきた温度速度相関計測システムを用いてレイノルズ数約6000、リチャードソン数約0.05 の条件で実験を行う。そのためまず、温度差のない場合の流動状況をPIV により定量可視化する。これは数値シミュレーションや液体金属実験でもコントロール条件として温度差のない条件を水実験と比較検討することがしばしば行われている点を考慮して実施する。また、予備実験として、温度差・浮力が存在する系での流れの速度分布を測定し、温度差がない場合との局所的な速度の差を検討するとともに、リチャードソン数0.05 を達成するために必要な加熱条件の検討を行う。
 これらの検討項目を踏まえ、実験装置の改良を行うことで、レイノルズ数約6000、リチャードソン数約0.05 の条件を達成し、開発してきた温度速度同時計測法によって、温度・速度分布の測定を行い、データをまとめた。

2.1.1 水流動データベース構築準備

 実験体系は、7本ピンバンドルを模擬した試験装置である。メインセクション観察部は直径3mmのワイヤスペーサーを巻いた長さ100mm のメックスフロン製ロッド7本からなるバンドルである。実験では、流量を5L/min〜70L/m まで5L/min ごとに変化させ、加熱なしの条件と全てのヒーター(100Wx7)を用いて加熱した場合について速度場を測定した。画像は2500frame/sec(fps)、1024x1024pixel で撮影した。しかしながら、上流側ロッドに内蔵した計700W のヒーターによる加熱では、加熱による流れへの影響はあまり見られなかった。ワイヤスペーサによるミキシング効果が強いことが影響していると考えられるが、均一温度場での速度分布・乱れ分布のデータベースとなりうるデータをまとめた。
 予備実験結果を元に、ヒーターではなく、高温・低温流を直接混合させる実験を実施した。図1 にレイノルズ数6000、リチャードソン数0.05 の場合の温度分布、速度ベクトルを示した。温度分布についてはあまり有意な温度差がみられていない。速度分布をみると外壁側に向かって流れる点やワイヤをまたぐ流れなど、温度一様条件での流れとあまり変化が見られなかった。そこで次に、入口での水温を24℃/52℃(リチャードソン数0.13)と、より大きな温度差を付与して実験を行った。結果を図2に示した。この場合は明らかに温度分布が見られ、構造物に囲まれた図左側で比較的温度が高く、外壁側で低温となっていた。また、速度分布もこれまでと異なり、構造物間の間隙の高温流体が流れる領域で速度が大きく、ワイヤに沿うように全体的に左上に向かって流れていた。外壁側に流れる流れは弱まっていた。ワイヤをまたぐ流れ、ワイヤをまたいだ後にワイヤに沿って流れる流れなどの特徴は温度一様条件における流れと同様であった。渦度分布は他のケースと大差なくワイヤ部で大きくなっているが、平均速度に対する乱れの強さはこれまでと異なりワイヤ部のみで大きな値を示していた。全てのロッドを一様に加熱した実験や、温度一様場での実験では全く見ることのできなかった特徴となっていた。これらの流れは高温の流体が粘度、局所的なレイノルズ数、浮力などの影響により、構造物間の間隙で速くなり、ワイヤに沿って上昇したためである。また、入口温度差が少ない場合と比べ、初期温度差が大きかったために、ハニカム部での混合ののちもある程度以上の温度差を保ったものと考えられる。

図1
図1 レイノルズ数6000, リチャードソン数0.05の条件での温度・速度分布計測例
図2
図2 レイノルズ数6000, リチャードソン数0.13の条件での温度・速度分布計測例
2.2 液体金属流動高速度3次元直接計測技術開発

 本事業では、ダイナミック中性子トモグラフィ(DNCT; Dynamic Neutron Computer Tomography)と命名した新計測技術(特願2006-168348号)を用いて液体金属流動の速度・温度同時高速度3次元計測データを取得することを目指すことを目的とする。DNCT技術は中性子ラジオグラフィ(NR)を基盤技術とした新計測技術である。NR技術を用いると液体金属は透明度の高い像として、トレーサは不透過な像として記録される。

2.2.1 DNCTシステム開発
図3
図3 DNCTシステムの概略図

 図3に、DNCTシステムの概略図を示す。DNCTシステムは原子炉炉心側から、①中性子制御系、②試験体位置制御系、③撮像系から構成されるシステムである。
 平成18,19年度に掛けて、CTシステムのハードの構築、DNCTデータの処理および可視化を行う解析システムを開発してきた。実用上の課題として極めて大容量かつ解析時間を要する3次元データの時系列解析に関して、処理データ量の小容量化と解析の高速化が改善事項として残されていた。このため、平成20年度は、データ容量を圧縮する処理の研究開発、および解析時間の短縮化を目指した高並列高速解析アルゴリズムの研究開発を行い、DNCT解析システムに研究開発の成果を実装し、DNCT解析システムを完成することを目的として実施した。
 CT演算を負荷分散により高速化するため、CT演算断面毎にデータ通信が発生しない点に着目し、数百個の演算素子を内蔵するGPUを同時に並列計算させるGPGPUまたはGPUコンピューティングと呼ばれる最新手法をCT演算に適用する研究を行い、DNCTデータ解析システムにGPUコンピューティング用CT演算関数を開発・追加した。

 すなわち、従来法でPC(1CPU1スレッド)で処理する場合と比較して、平成20年度に1774倍の高速化(PCで1スレッドで計算すると73日かかる計算が1時間に短縮)を実現した。また、大型計算機と比較して1.92倍もの計算速度でCT演算が可能なデスクトップサイズのDNCTデータ解析システムを構築できた。本GPGPUによるDNCTデータ解析システムを液体金属流動試験結果に適用することにより、従来と比較して遙かに高速にデータ処理が完了し、事業期間内に必要なデータ処理が完了できる見通しが得られた。

図4
図4 GPGPU(MAX6GPU)によるCT演算時間測定結果(1CPU速度比)
2.2.2 DNCT技術実証

 平成18年度に開発したDNCTシステムと平成19年度に製作した液体金属流動装置を組み合わせて研究用原子炉JRR-4の中性子照射室で炉内試験を実施し、平成 18年度から平成20年度に開発したDNCT解析システムを用いて液体金属流動データベースの構築を目指したが、研究用原子炉JRR-4の中性子照射室での液体金属流動炉内試験は、原子炉の不具合が確認されたためその実施を平成21年度に変更した。平成20年度は、研究用原子炉JRR-3を用いてデータの精度を向上させる目的で、以下に記す要素技術改良試験を実施した。 なお、JRR-4の中性子照射室での液体金属流動炉内試験は、原子炉の反射体要素に不具合が確認され平成20年度の運転が停止されたため実施が困難となったためであり、その実施は平成21年度の復旧後に実施することに変更した。

図5
図5 試験体全体を3次元CT処理し可視化した結果

 中性子ラジオグラフィ用コンバータの発光輝度をより高めるための改良試験をJRR-3のTNRFで実施した。各種コンバータを同時に中性子で発光させて、輝度の比較をした。この要素技術開発試験から、Kur-mod-1というIDで製作したコンバータの輝度が最も高く、平成18・19年度に開発したID(Kata-1相当)と比較して、約1割輝度性能を向上できた。
 中性子が試験体などに照射される際、試験体材料内で散乱が発生する。このための、投影像にはぼけが発生する。なお、ぼけは、この散乱に起因するぼけ以外にも、ビームの並行度に起因するぼけや動体ぶれ、レンズなど光学系に起因するぼけなどがある。本事業では、散乱線によるぼけをCT時に補正するアルゴリズムを研究し、DNCTデータ処理システムRAIDEENに組み込み、その効果を検討した。JRR-3でのDNCT用試験体を模擬した要素技術開発用試験体を用いた試験と、散乱によるぼけ補正アルゴリズムとその検討を行った。ぼけの補正には、投影情報に対して、正規分布を仮定し、補正を行うアルゴリズムを考案した。この補正アルゴリズムを組み込んだ3次元CT処理を行い、トレーサ位置のCT値断面像と3次元のCT値分布を可視化した結果を、図5に示す。トレーサは手前側に貼り付けてあり、左図下方の赤丸や右図の手前側にあることが認識できる。

3.今後の展望

 JRR-4の2年間停止に伴い、スケジュールが遅れているが、JRR-4は平成21年11月に起動が予定されている。よって、JRR-4の中性子照射室で液体金属流動装置を用いた炉内試験を実施し、流動データベースの構築を目指した検討を進める。
 水流動システム開発と液体金属流動システム開発の成果をまとめ、総合評価を行う。

■ 戻る ■
Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室