原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

Na冷却高速炉のタービン発電システムに関する研究開発

(受託者)国立大学法人東京工業大学
(研究代表者)有冨正憲 原子炉工学研究所
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構

1.研究開発の背景とねらい

 Na冷却高速炉のタービン発電システムにおいては、超臨界CO2を作動流体とする。従来のNa冷却高速炉は作動流体としてNaと水を使うので、Naと水との激しい反応が安全性上の課題点となる。超臨界CO2とNaとの反応は温度500℃〜550℃の領域においてもNa と水との反応ほど激しくない。そこで、このシステムでは従来の水に替えて超臨界CO2を利用することで、安全性及び経済性に優れた超臨界CO2タービン発電システムとなる。これを実現するために、在来のCO2圧縮機の作動点からは離れた超臨界点近傍で作動するCO2圧縮機の開発が必要である。このため、超臨界CO2圧縮機を製作して、超臨界点近傍での性能試験を実施し、性能を評価する。また、翼列・運転制御解析を実施して、実機で使用する圧縮機の概念設計を実施する。更に、超臨界CO2雰囲気中での構造材料の耐食性を評価することを目的とする。

2.研究開発成果
2.1超臨界CO2圧縮機性能試験
図1
図1. 試験装置系統図
図1
図2 圧縮機断面図

 当試験は試験部である圧縮機及びその特性を評価する試験装置を製作し、CO2超臨界点近傍での圧縮機特性データを得てその性能を評価するものである。これまでの具体的な成果を記す。この試験装置圧縮機部でのCO2流体条件は最高圧力9.6MPa、最高温度150℃、最大流量6kg/sである。平成20年度までに図1に示す試験装置(図中には定格条件を示す)及び図2に示す遠心式圧縮機を製作し、図3に示す超臨界CO2圧縮機性能試験装置を東京工業大学に完成させ試験を開始した。引き続いて平成21年度に圧縮機性能試験を行っている。本試験装置は高圧ガス保安法の冷凍則にて規制され、東京都に設置届けをしてある。圧縮機は図2に示すように、遠心式で回転軸に永久磁石を埋め込み、その外側にステータを配置し、インバータにより回転数を制御するものである。インペラ(羽根車)を交換することにより圧縮機の設計点を変えることができる。試験に際しては、CO2をボンベからCO2タンクに液状態で供給し、CO2タンクに設置された電気ヒータにて加熱蒸発させて、試験装置内を所定の圧力にする。試験は圧縮機を作動させ、冷却器と温度調節加熱器にて温度調節をし、定常状態を維持しながら行なう。試験時の主要なパラメータは、圧力、温度、圧縮機回転数、試験装置流動抵抗等で、圧縮機の圧力比、動力、流量等を求める。圧縮機性能試験結果例を図4に示す。図中、横軸は無次元流量W*Tin1/2/Pin(W:流量、Tin:入口温度、Pin:入口圧力)で縦軸は圧力比(圧縮機出入口圧力比)と無次元回転数N/Tin1/2(N:回転数)である。圧縮機入口圧力、温度をほぼ一定にして、回転数を増加させていくと、出口圧力が上昇し、圧力比が増加する。圧縮機仕事は周速度即ち回転数の2乗に比例するので、回転数をリニアーに増加させた場合、圧力比は2次曲線を描くはずであり、試験結果はそのような特性を示している。得られたデータを基に圧縮機の性能評価を行なっている。

図3
図3 超臨界CO2圧縮機性能試験装置全景
図4
図4 圧縮機試験結果
(流量、圧力比、回転数)
2.2 超臨界CO2機器・システムに関する設計及び解析
図5
図5 静翼と動翼周辺の静圧分布
図6
図6 動翼周辺の相対速度分布
図7
図7 動翼のFLUENT計算/設計値と流量比
図8
図8 圧縮機各段の出口圧力

2.2.1翼列・運転制御解析
 この解析では主に軸流圧縮機翼周りの流体力学基礎特性を解析することにより流動性能を評価することと、システムの運転制御基礎特性を評価することである。これまでの具体的な成果を記す。
 圧縮機の翼列解析に関しては、Na冷却高速炉のタービン発電システムのサイクル熱効率を最大にする両圧縮機の運転条件をサイクル計算により決めた。その結果、タービン圧力比2.34の時サイクル効率は最大となり43.8%である。この時、主圧縮機では入口は圧力8.26MPa、温度35℃、出口は圧力20.57MPa、温度67.0℃である。一方、バイパス圧縮機では入口は圧力8.34MPa、温度78℃、出口は圧力20.49MPa、温度163℃となる。この結果を用いて両圧縮機の設計を行い、主圧縮機は14段、バイパス圧縮機は21段とした。圧縮機の翼列解析にはCFDコードとしてFLUENTを用いて2次元解析を行った。主圧縮機では理想気体近似と実在気体の両方について行なった。この計算では、実在気体では1段から8段までは計算が発散し収束解は得られなかったが、理想気体近似では14全段について計算できた。
 理想気体近似と実在気体とで両方で得られた計算結果を比較すると、圧力分布と速度分布においてはその差は小さいことがわかった。10段目の静翼と動翼周辺の静圧分布(実在気体)と動翼周辺の相対速度分布を図5と図6に示す。翼の圧力側は圧力が高く、流速は小さいことがわかる。
 バイパス圧縮機では各段の設計値(入口圧力と温度、出口圧力)を入力として、流量を求める計算と、初段の設計値の入口の圧力、温度を入力として、設計値とFLUENT計算値の流量とが合う圧縮機出口圧力を計算し、以降前段の出口部の計算値を次段の入口の入力値としてFLUENTの出口圧力が設計出口圧力に達するまでの計算を行った。前者の場合、1段から5段おきに計算した流量について、流量比(FLUENT計算値/設計値)を図7に示す。何れも流量比が1.1から1.2の範囲にあり、この結果では流量を同じにすれば、設計値の出口圧力をもっと高くできる可能性を示している。後者の場合、FLUENTでの計算では16段で設計値の圧縮機出口圧力に達し、その差は5段分である。FLUENT計算は2次元計算であり、3次元にした時の流動に伴う圧力損失が考慮されていない。流動に伴う損失は軸方向流れの速度分布の変化によるもの、翼の境界層成長に伴うもの、2次流れによるもの等が考えられ、これらの損失を考慮すると圧縮機段数で3段〜4段分位に相当する。その結果、設計値とFLUENTの結果ではその差は1から2段となり、両者は比較的良く合っており、現在の圧縮機設計が超臨界CO2圧縮機にも適用できそうなことが分かった。
 運転解析では、再生熱交換器を組み込んだ超臨界CO2のガスタービン発電システムの過渡運転制御解析計算プログラムに、バイパス回路を組込み運転制御を解析し、ガスタービン発電システムの運転制御基礎特性を評価する。現在、プログラムの基本式及びフローの作成を終了し、コード作成を行っている。

2.2.2実機ターボ機械設計
 実機ターボ機械設計では、実用プラントのガスタービン(タービン及び圧縮機)の概念設計 (サイジング、空力設計、機械設計及び構造強度設計)を実施し、性能を明らかにし、 構造断面図を作成する。実用プラント発電容量を1500MWeとし、中間熱交換器容量の関係で2ループを採用した。それ故、ガスタービンユニットの発電量は750MWeで、質量流量が9930kg/sと大容量となったため、タービンは回転数1500rpm、段数6の複流式を採用することになった。断熱効率は92%である。圧縮機は主圧縮機とバイパス圧縮機があるが、効率の高い軸流式と安定性に優れる遠心式の両形式について設計を実施している。設計の結果、主圧縮機には遠心式が、バイパス圧縮機には軸流式が適していることが明らかになった。現在、空力設計、強度設計、機械設計を実施中である。最後に、空力設計の結果を性能曲線図としてまとめ構造図を完成させる。

2.3 超臨界CO2中における耐食性に関する研究

 高速炉の構造材料として適用が検討されている2種の候補材料(高クロム鋼(12Cr鋼)および316FR)を対象に、高温超臨界CO2中における耐食性評価試験を実施した。試験は、20MPaの圧力条件の下、400℃、500℃、550℃および600℃の4温度条件で対象材料を浸漬した。所定時間経過後に、試験片の重量変化量を測定するとともに、光学および電子顕微鏡による金属組織観察を実施した。
 両鋼の超臨界CO2中における腐食挙動(重量変化)を図9に示す。12Cr鋼では、試験温度が高くなるほど高温酸化に伴う重量増加が大きくなり、また、各温度ともに浸漬時間の1/2乗に比例した重量増加が観察された。これらの挙動は、以下に示す温度と時間の関数として良好に記述できた。
 ΔW=Ko exp(-Q/RT) t1/2
 ここで、ΔW:重量増加量、Ko:定数、Q:見かけの活性化エネルギ、R:気体定数、T:絶対温度、t:時間
 一方、316FRの高温酸化に伴う重量増加は12Cr鋼の2%程度と極わずかであり、良好の耐食性を示すことがわかった。ただし、その酸化挙動は、温度が高いほど重量増加する傾向にあるものの12Cr鋼のように明確でなく、かつ時間依存性も観察されなかった。これは、酸化物の形成がノジュール状の段階(図10)にあるためと考えられる。

図9
図9 20MPa超臨界CO2中における腐食挙動(重量変化)
図10
図10 316FR腐食試験片断面の電子顕微鏡観察写真
3. 今後の展望

 圧縮機性能試験では性能試験を進め、平成21年度に製作する高速インペラでの性能試験を加えて、実機圧縮機の設計・解析結果を併せて運転性能基礎特性を明らかにする。実機ターボ機械設計では実機の超臨界CO2ターボ機械の概念設計を実施し、性能、寸法を求め、起動・停止手順につき検討する。翼列・運転制御解析ではFLUENTにての解析より、翼列の流動特性を明らかにし、構造特性評価も行なう。運転制御解析プログラムにバイパス回路を組み込み、超臨界CO2ガスタービンシステムの運転特性を求める。高速炉構造材料候補材の超臨界CO2中耐食性評価試験では、20MPa、400〜600℃の試験を継続して長時間データを取得するとともに、試験片の金属組織観察を実施し、高温・長時間の耐食性について評価する。

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