原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

第三世代耐照射性オーステナイト合金の研究開発

(受託者)株式会社神戸製鋼所
(研究代表者)能浦 毅 機械エンジニアリングカンパニー 技術部
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構

1.研究開発の背景とねらい

 高効率の発電、増殖、マイナーアクチノイド燃焼を目指す実用高速炉の燃料被覆管用として、炉心性能の確保と共にマイナーアクチノイド入り燃料集合体、使用済燃料の保管や湿式再処理の健全性が担保できる耐食性に優れた高クロム高ニッケル系第三世代耐照射性オーステナイト合金の開発を目的としている。第三世代耐照射性オーステナイト合金は、高Cr化による耐食性の改善と、Al、Ti、Si等の成分調整による耐照射性に優れたγ´やG相の金属間化合物の分散析出強化による高温クリープ強度の確保を図り、Moや炭素の排除とEHP仕様の高清浄度により延性・靱性に優れ高経年化事象を生じ難いニッケル基スーパーアロイの開発仕様としている。

2.研究開発成果
2.1 新耐食合金設計/環境適用性評価
2.1.1新合金設計
 当該年度に試作するモデル合金の組成は、市販規格のニッケル基合金であるPE16の基本組成に対し、結晶粒界に脆化相(モリブデン炭化物)を生じるモリブデンと炭素を除去するものとし、モリブデン除去による機械的強度低下を補い、かつ、照射誘起偏析による結晶粒界でのクロム濃度低下抑制のためにクロム量を増加することとした。一方で、高クロム合金ではオーステナイト相の安定性の低下による耐ボイドスエリング性が低下するとの既存知見より、モデル合金としてクロム濃度が25wt%と20wt%の二種類を評価することとした。また、当該合金のクリープ強度がγ`相等の金属間化合物の照射下での安定性に依存することから、これらの析出に関わるアルミニウム、チタン、シリコンの3つの金属元素を各々単独に添加した三種類の試験用合金についても試作評価することとした。なお、これらの合金については、粒界の脆化の抑制と加工性の向上のために、有害不純物を除去できる超高純度(Extre High Purity: EHP)溶製法を適用することとした。試作した合金の目標成分組成を表1に示す。
表1 各合金の試作目標成分組成
表1
2.1.2 環境適用性評価
(1)耐照射性評価試験
 当該年度は予備評価として、モデル合金、試験用合金、及び比較材(PE16相当材)に関して、イオン加速器等を用いた照射試験を実施し、耐スウエリング性や析出硬化相の安定性の評価により組成・熱履歴の影響を評価した。また、供用期間中の照射誘起材質変化の模擬評価として、モデル合金及び比較材の熱時効、及び動歪時効の長時間試験を開始し、時効後の合金の引張試験、シャルピー試験等から延性低下や破壊靱性の改善効果に関する評価データを取得した。

①イオン照射実験では、EHP化で耐ボイドスエリング性の低下が危惧されるモデル合金について、100dpa程度の非常に高い照射量においても十分な耐ボイドスエリング性を有していることが判明した。

②電子線照射では、600℃照射での耐ボイドスエリング性に問題がないこと、また、析出物が照射に対して安定であることが判明した。

③熱時効は600℃、700℃、800℃の3温度条件で1000時間まで時効処理後、室温での引張試験及びシャルピー衝撃試験を実施した。動歪時効は、700℃において、150MPaあるいは120MPaの応力を負荷した状態で、100時間、300時間、1000時間の時効処理後、室温でのシャルピー衝撃試験を実施した。これらの試験の結果、当該年度実施条件では2種類のモデル合金及びPE16相当材ともに脆性破壊を起こすような大きな材質変化は認められず、より長時間の試験が必要であることが示唆された。また、モデル合金ではクリープ強度の低下傾向が認められ、よりクリープ強度を高める必要があると考えられるが、当該年度モデル合金は十分な延性を有しており粒界脆化を生じ難いことが判明した。

図1
図1 熱時効を施したEHP(M)SAR試験片の張試験結果
図2
図2 熱時効を施したEHP(M)SAR試験片のシャルピー衝撃試験結果

(2)環境適用性評価試験
 当該年度は予備評価として、モデル合金及び比較材の放射線励起作用模擬の高温酸化(プラズマ高温酸化試験)、水中の腐食/環境誘起割れ(水中応力下クレビス腐食試験)、再処理溶解槽中での腐食を模擬した硝酸腐食(沸騰硝酸下腐食試験)の各評価試験を行い、合金設計の妥当性を評価した。

①プラズマ高温酸化試験は、酸素ガス雰囲気と酸素プラズマ雰囲気において、600℃、700℃、800℃の試験温度で、最大20時間の酸化試験を実施し、試験中の試験片重量の連続的な変化を測定した結果、酸化反応機構は酸素ガス酸化では酸化膜成長支配であり、酸素プラズマ酸化では揮発性の高いCrO3の逃散支配であることが判明した。
図3
図3 EHP(M)SAR試験片の高温酸化試験(600℃)
図4
図4 EHP(M)SAR試験片の高温酸化試験(800℃)
図5
図5 沸騰硝酸下腐食試験結果
②水中応力下クレビス腐食試験は、使用済み燃料保管プール中の水質を模擬した60℃の水中に蒲鉾型形状の冶具に試験材を拘束し1000時間の範囲で実施した。表面観察の結果から、比較材やモデル合金には、腐食や割れの発生は全く認められず、これらの材料が水中での耐食性に優れていることが示された。
③沸騰硝酸下腐食試験は、6価クロムを含む8N硝酸中で24時間煮沸を4回繰返し、1回ごとの重量変化からの腐食速度の評価と、表面観察を実施した。腐食速度は耐食元素のCr量の低い20wt%Crモデル合金が最も大きく、最も腐食速度の小さなPE16相当材の約1.7倍であった。しかし、最も重要となる粒界腐食に伴う結晶粒脱落(脱粒)の傾向は、PE16相当材だけに見られ、モリブデンと炭素の低減を図った2種類のモデル合金には、粒界腐食に伴う脱粒の傾向は見られなかった。
2.2 被覆管製造技術開発

 表1に示す6種類の合金を1)真空誘導溶解法(VIM)−電子ビーム溶解法(EBCHR)及び2)コールドクルーシブル誘導溶解法(CCIM)−電子ビーム溶解法(EBCHR)で試作した。

図6
図6 CCIMCaF装置におけるCa還元精錬試験の模式図
図7
図7 水冷銅ハース式電子ビーム溶解装置での溶解状況の模式図

 各EHP合金鋳塊を熱間鍛造+熱間圧延+溶体化処理した。PE16相当材、モデル合金および試験合金の何れも冷間加工性に優れており、被覆管への加工は問題ないと判断された。
 加工熱処理条件等の最適な熱履歴を選定するために、各試作合金の時効試験および示差熱分析を行った結果、600〜700℃において主要な強化相であるγ´相の析出が観察された。
 しかしながら、γ´相の固溶温度はPE16相当材とモデル合金(20wt%クロム)で720℃〜770℃、モデル合金(25wt%クロム)で780〜830℃であることから、最終熱処理温度は、これらの固溶温度よりも低い温度で実施する必要があることが判明した。

(3)実用性解析評価
 マイナーアクチノイド入り混合酸化物燃料被覆管への炉心性能については、燃料健全性評価指標等に関する調査を行い、現行の設計基準の課題を整理した。設計指標上の重要な課題として、短尺炉心の大きな温度勾配に伴うクリープ.疲労相互作用、液体金属ナトリウムとの両立性に伴う表面変質、ラッピングワイヤーの長期信頼性、及び許容される全塑性歪み等を抽出し、本事業中での模擬評価に必要な試験解析項目を選定した。
 燃料ふるまい解析や燃料集合体の特性評価等に用いる評価コードについては、以下を評価可能な解析コードとして、燃料燃焼解析コードSAS2H、放射線輸送コードMCNP5とANISN、材料照射解析コードSPECTER-ANL、伝熱および構造解析コードABAQUS等の既存のコードを選定した。
 ①被覆管内面側の評価対象:燃焼、ペレット変形、ギャップ内圧変化、被覆管内面腐食
 ②被覆管材料の評価:被覆管照射損傷、被覆管応力・変形、被覆管温度ゆらぎ
 ③被覆管冷却材側の評価:水中保管時の腐食、被覆管/冷却材熱伝達
 これらのコードを組合せた試計算を実施し、使用済み高速炉燃料水中保管時の被覆管表面の腐食環境評価を行った。その結果、PWR燃料に比べてFBR燃料の被覆管表面近傍の吸収線量は約3.5倍であり、腐食速度は1.6倍相当になると評価した。

3.今後の展望

 当該年度の評価試験の結果、当該年度製作のモデル合金の組成では、十分な高温クリープ強度の確保にはγ´相析出能をより高めることが必要であることが判明したため、次年度に製作する候補材ではそれを反映してアルミニウムとチタンの添加量を増加した合金とすることとした。また、アルミニウムやチタン添加によるγ´相については、熱力学的に安定な温度域が比較的低いことから、より高温でも安定なタングステンシリサイド相(G相)を導入した材料についても、並行して適用性を評価することとした。

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