原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

TRU燃焼のための合金燃料設計と製造の基盤技術の開発

(受託者)国立大学法人名古屋大学
(研究代表者)有田裕二 エコトピア科学研究所
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、財団法人電力中央研究所

1.研究開発の背景とねらい
図1
図1 中長期的な燃料サイクルとTRUの流れ(模式図)

 本事業では、射出成型法を応用した実用技術に基づいた、TRU燃料を製造できる技術基盤を確立するため、TRU合金燃料の設計に不可欠なTRU合金の相安定性や熱物性のデータベースの構築、高いTRU燃焼効率を可能とする合金燃料組成の評価、TRU合金燃料の製造に不可欠なTRUを含有する多相溶湯の混合性等の基礎物性評価を実施する。最終的には、それらの成果を利用して、射出成型法を応用した実用技術に基づいてTRU燃料を製造できる技術基盤を確立することを目的としている。あわせて、図1に示すような軽水炉−高速炉移行期における燃料サイクルでの、適切なTRU燃焼シナリオについても基礎検討を行った。

2.研究開発成果
2.1 TRU合金燃料設計のための相安定性/熱物性データベースの構築
図2
図2 U-Pu-Zr三元系状態図評価結果

 相安定性の観察・評価及び熱物性データ取得に供するための各種TRU合金試料の作製を、酸化物試薬還元により実施した。その結果、Pu酸化物単体においては電解還元では十分還元されず、リチウム還元法が有効であることがわかった。
 20種類以上の合金試料のSEM観察及びEDS分析を実施し、熱物性データベースの構築のために必要な存在相の組成に関するデータを取得するとともに、熱分析を実施しU-Zrを母相とするTRU高濃度含有合金の相変態温度や融解温度を評価した。例えばNp系では、U-Zr状態図とNp-Zr状態図の間で対応する各相間の相変態温度や融解温度を、U:Npの比率に基づいて評価できること、評価精度向上には実測値の精度が不十分なNp-Zr状態図のデータの充実が必要であることを示した。一方、Amに関しては、燃料中に形成される各相に対し、Amの存在がAmの溶解度限以内であれば、Npと同様に評価できることを示した。溶解度限を超える場合には、Pu-Amの二元素を主成分とする別相を母相とは別に形成するため、固相変態温度や融解温度も母相とは別に評価することが妥当である。また、別相の相安定性はPu-Am二元系状態図から評価できる。
 以上のデータを基にU-Pu-Zr-Np-Am-Fe六元系データベースを整備し、準安定相の出現等に関し各元素の組み合わせにおいて矛盾が発生しないようデータベースの精度を向上させた。図2にU-Pu-Zr系の評価結果を示すが、実験で得られた相の組成をよく再現できた。さらに、構築した熱力学データベースを用いて、低濃度MA含有合金で最も重要となるζ相周辺に関する実測値と解析値を詳細に検証し、融解温度の低い別相の形成が、Np濃度約4wt%を超えると生じることが示されたが、、MA濃度5wt%まではU-Pu-Zr合金母相とほぼ同等の特性が維持される。高濃度MA含有合金についても、MA濃度30wt%までの相安定性が評価できる様に整備し、存在相に矛盾がないことを確認した。

2.2 TRU合金燃料製造のための多相溶湯の基礎物性評価と応用
図3
図3 U-Pu系での蒸気圧評価と実測値の比較

2.2.1 多相溶湯の基礎物性の評価
 組成の異なるU−模擬TRU−Zr三元合金の溶湯について、急冷試料の断面顕微鏡組織を観察し、各相の分布等から組成変化による液相の混合性の変化について評価した。U-10Zr合金にSm(Am模擬)加えた模擬試料においては、Sm相はU-Zr相と大きく分離し、U-Zr相中にSmはほとんど混ざらないことが確認され、固溶しなかったSmの蒸気圧や蒸発速度は組成に応じて減少するという結果であった。その他、溶湯作成時に使用する黒鉛るつぼの保護材についても検討を行い、酸化イットリウムが保護材として妥当であることも示した。
 一方、TRU実試料を用いた多相溶湯の基礎物性の評価では、U-Pu合金やPu-Am合金の平衡蒸気圧測定を実施し、金属PuやAmの蒸気圧と比較することで合金中のPuやAmの活量を評価した。その結果、U-Pu合金中のPu活量については、温度が上昇するとともにRaoult則に近づく傾向は示しているものの負側にずれることが分かった(理想性から負の偏倚を示した)。一方、Pu-Am合金については、理想溶体に近いふるまいを示したが、一部、不純物酸素の影響と考えられる蒸気圧低下の現象が見られた。図3に示すように、前節で整備した熱力学データベースから評価した蒸気圧と実測値はよく一致しデータベースの精度が高いことが示された。


2.2.2 多相溶湯の基礎特性の評価と応用
 TRU合金組成の特徴である構成元素間の高い密度差や相互の固溶性を凝固合金の組織観察等で実施した結果、加熱溶融時の温度設定や高周波周波数よりも構成元素の相互の固溶性が多相溶湯の製造を通して凝固合金の均質な組織形成に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。また、相互の固溶性の無い元素を含む組成の場合、その両者と固溶する第3元素の存在によって、均質な分散組織を形成できることが明らかとなった。高蒸気圧元素が含まれる場合、加熱時の原料配置が溶湯製造時の蒸発挙動に影響するため、蒸発損失の無い均質合金組織の形成には原料金属をU-Pu-Zr、Pu-Amのように予備調製することが有効であるとの結果を得た。さらに、高蒸気圧元素の蒸発挙動は雰囲気ガスの圧力や熱伝導特性によっても異なり、圧力が高いほど、また熱伝導を最適化することによって蒸発損失を抑制できる可能性を明らかにした。
 模擬試験によって蒸発物質の挙動を調査した結果、蒸発量は高蒸気圧元素の含有量に相関して増加する傾向があること、蒸発物質は雰囲気中で凝縮粒子となり溶湯製造装置内の低温部に優先的に付着すること、凝縮粒子の付着力はあまり高くないことが明らかになった。この蒸発挙動に基づき、溶湯製造時の蒸発拡散抑制と蒸発物質の回収に対する方法を検討し、設計、機能評価を行った。その結果を基に、高い蒸発抑制機能を有する鋳造装置の原型モデルの設計が完了した。
 一連の実験結果に基づき、高蒸気圧元素を含むTRU合金について、均質な組織を形成し、合金製造時の蒸発損失を低減する製造プロセスとそのための製造装置の原型を明らかにし、TRU合金燃料の射出鋳造による製造方法に見通しをつけることができた。また、本試験研究を通じて、核燃料や放射性同位元素を含む合金製造に対して、その特徴を効果的に模擬する代替元素を使用することにより、被ばくリスクが無く、また経済的に安価で試験評価できることを示した。

2.3 TRU合金燃料の設計と炉心性能の評価

 U-Pu-Zrを母相とする合金燃料に、低濃度でTRUを均質に含有させる場合、炉心性能の観点からは、Pu以外のTRU(以下MA)濃度の上限は高々5%であることを示した。これ以上のMA濃度では、MAの添加により冷却材ボイド反応度等の炉心安全性パラメータは単調に悪化し、現行の炉心設計ではMA 5%程度が上限となることを示した。また、乾式再処理のリサイクル燃料では不純物として希土類元素が若干同伴すると推定されており、その濃度が5%未満であればU-Pu-Zr合金をマトリックスとする炉心の設計に大きく影響を与えないことを確認した。一方、非均質体系では、炉心性能の観点からは30%程度までMAを添加できる可能性があることを示した。
 炉心に関しては、富化度2領域均質炉心と径方向非均質炉心を対象に、300 MWe級炉心によるU-TRU-Zr燃料の燃焼特性解析を行った。解析結果を、従来の1,500 MWe級炉心の解析結果と比較検討し、TRU変換率の観点からは均質炉心に2-5wt%の低濃度でTRUを添加した燃料において、燃焼性能が最も効率的(MA変換効率が43%程度)になることが分かった。これ以上の高濃度でTRUを添加した燃料を非均質に炉心に装荷した場合にも、出力ピーキングが過大となることはないが、燃料中心溶融までの温度余裕が約150 K低減するため、安全性の尤度を犠牲にすることが分かった。
 U-Pu-Zrを母相とする合金燃料に、低濃度でTRUを均質に含有させる場合、燃料挙動の観点から、Pu以外のTRU(以下MA)濃度の上限は高々5%であり、これ以上のMA濃度では、Am等を主成分とする母相と化学的性質の異なる析出相による諸物性への影響が無視できなくなる。一方、非均質体系では、燃料挙動の観点からは25%程度までMAを添加できる可能性があるが、燃料の諸物性がU-Pu-Zrと大きく異なるため、燃料の再設計が必要となる。固相線温度については、TRU割合の増加と共に母相の固相線温度は漸減し、析出相ではそれよりさらに16〜66 K低くなると評価した。熱伝導率については、小規模出力(30 MWe)でTRU割合30 wt%の高濃度TRU含有金属燃料では、TRU濃度0 %に比べ、熱伝導率が約60 %に低下することが推察された。
 従来知見及び本事業で取得された知見に基づき、効率的なTRU燃焼方法の総合評価の結果、低濃度MA含有燃料であっても、我が国で導入する全ての高速炉で均質に燃焼すれば、実用的な期間内(30〜70年程度)にMA核変換が完了できる(図4)。また、高濃度MA含有燃料を用いると、MAの取扱い範囲を核燃料サイクルの一部に限定できる。

図4
図4 我が国の高速炉導入シナリオに基づいた軽水炉起源のMA蓄積量評価
3.今後の展望

 本事業により、国内の設備を用いて小規模の燃料サンプルを製造し、照射試験に展開する基礎が構築でき、高蒸気圧元素を含むTRU合金燃料組成に対しても、蒸発損失無く、射出鋳造法による燃料製造が可能となる技術的見通しが得られた。核燃料資源の有効利用とともに、高レベル放射性廃棄物の低減の効果を有するため、我が国における持続可能な原子力発電システムにおける枢要技術として将来性の高い基盤技術であるMAを含有するTRU合金燃料について、今後は照射用燃料を小規模で製造し、照射試験を実施するとともにより詳細な製造条件を構築していくことが必要となる。
 一方、本事業で行った手法(解析研究と実験研究の併用による基礎データベースの拡充)は、MA含有核燃料の特性評価や製造プロセス開発において有効であることが示された。同様な手法を用いて酸化物燃料や不溶解性残渣に関するデータベースの開発が欧州、米国、カナダ等で進められており、本事業で基礎を構築した金属燃料のデータベースはこれらと伍するものである。今後、評価形式を統一化した上でのデータベースの一元化、あるいは国際標準データベースの構築等に展開できると思われる。また、金属データベースについては、国際会議等において、インドや中国などの研究者からも関心が示されており、国際協力も含めた継続的な研究の実施が必要である。

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