原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

先進的原子炉燃料セラミックスにおける照射損傷量評価の高精度化の研究

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)石川法人 先端基礎研究センター

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、酸化物セラミックスの照射損傷挙動を三つの要素損傷プロセス((1)弾性衝突効果、(2)溶融飛跡形成、(3)ガス原子蓄積)ごとに照射損傷を評価し、既存の損傷予測モデルの検証を行う。高速増殖炉MOX燃料セラミックス内の照射損傷は、熱伝導度劣化とスウェリングを引き起こす可能性があり、重要な課題として位置づけられる。特に照射損傷とともに核分裂生成物の蓄積は、燃料ペレット温度に影響を与えるだけでなく、燃料-被覆管機械的相互作用にも影響を与える支配的因子である1)。本事業では、照射による燃料損傷評価を高精度で行うことができる技術を開発する。

2.研究開発成果

 本事業では、すでに弾性衝突効果のみを想定した既存の損傷予測法の不備を実験的に明らかにした。高エネルギー領域では、損傷予測の高精度化に必要な損傷形成プロセスとして、弾性衝突効果を支配するエネルギー伝達密度(核的阻止能)だけでなく、電子系に伝達されるエネルギー密度(電子的阻止能)が損傷形成を支配することを実験によって明らかにした。
 具体的には、高エネルギー粒子(120MeV Xe)照射の場合は、低エネルギー粒子(10MeV Ni)照射の場合と比較して、10 倍も大きい欠陥生成率を有することを明らかにした。これは、電子的阻止能による欠陥生成が、弾性的はじき出しによる欠陥生成よりも特に顕著に大きい欠陥生成率を示すことを意味している。
 H20 年度は、照射損傷の高温での回復挙動を詳細に調べることを目的とした。具体的には、原子力機構東海研究開発センタータンデム加速器においてCeO2 セラミックス薄膜試料に高エネルギー粒子(120MeV Xe)を室温で照射し、照射後試料のX 線回折パターン変化の温度依存性を室温から1000℃まで100℃刻みに取得した。その結果、照射後試料の回折ピークの強度は、約700℃までは測定温度にほとんど依存しないことがわかった。それに対して約800℃以上になると、温度依存性の振る舞いが照射量によって異なる。例えば、高照射量(2.7x1012ions/cm2、1.3x1013ions/cm2、1.3x1014 ions/cm2)の試料は、約800℃付近からピーク強度の増加が顕著に現れる。高照射量の試料のピーク強度が約800℃付近から増加し始めていることは、800℃付近から顕著に損傷が回復し始めることを反映している。平成19 年度の段階では、高エネルギー粒子照射による損傷の温度依存性について、400℃と800℃との間に損傷回復のしきい値温度が存在することまで突き止めた。800℃程度から顕著に損傷回復が起きている上記の結果と大きく関係する現象だと思われる。H20年度の新しい知見として、700℃まで損傷回復が少ないのに対して、800℃付近から損傷回復が始まることが分かった。
 回折ピークの半値幅(Full width at half maximum, FWHM)の温度依存性(図1)においても、同様に800℃付近から顕著な回復が観測された。X 線回折ピークの強度の解析の結果と同様に、半値幅の解析においても700℃までの比較的低温と800℃からの比較的高温とでは損傷回復挙動が異なることがすぐに分かる。特に高照射量試料(1.3x1013ions/cm2、1.3x1014 ions/cm2)において、700℃から800℃との間に顕著な損傷回復が起きていることが分かる。温度領域によって損傷回復挙動が異なる様子が分かりやすいように、図に灰色の点線で示している。半値幅の温度依存性の解析結果においても、700℃まで損傷回復が少ないのに対して、800℃付近から損傷回復が始まり、その付近に損傷回復のしきい値温度が存在することが分かった。

図1
図1 120MeV Xe を照射したCeO2 のX 線回折ピークの半値幅の測定温度依存性
3.今後の展望

 高エネルギー核分裂片は溶融飛跡形成という現象を通して深刻な損傷を引き起こすことが予想されるにもかかわらず、これまで定量的な評価法に関する報告例がほとんど無かった。本事業の結果により、既存の弾性衝突効果の枠組みで損傷評価を行う限り、その照射損傷を過小評価してしまうことを実験的に示すことが出来た。(1)弾性衝突効果、(2)溶融飛跡形成、(3)ガス原子蓄積によるそれぞれの損傷プロセスについて、それぞれの損傷の照射量依存性、温度依存性の特徴を整理した。この成果の意義は、既存の損傷評価法のように弾性衝突効果だけでなく、溶融飛跡形成を想定した損傷評価を行うことで、より高精度な損傷評価が可能になるということである。また、温度の効果は、700℃までは考慮する必要がほとんどないが、800℃以上になると考慮する必要性が生じることを明らかにした。
 今回の事業を今後どのような形で活かしていくべきかの見通しについて簡単にまとめる。本成果は、今後高燃焼度化する燃料の照射損傷について貴重なデータを与えるものであり、それ自体重要な成果と考えている。核燃料模擬物質(CeO2)を用いた本事業の成果を踏まえて、現在UO2 を照射ターゲットにして照射実験及び照射損傷予測モデルの検証研究を進行している。最終的な目標は、熱的および機械的な燃料―被覆管相互作用の高精度予測である。燃料のふるまい予測は、安全性の検証、安全性の向上の観点から重要な課題であり、予測コードの高精度化や信頼性の向上に必要な基礎基盤研究は継続されるべきと考えている。

4.参考文献

1) 基礎高速炉工学, 基礎高速炉工学編集委員会編, 日刊工業新聞社発行 (1993)p.47.

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