原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

き裂サイジングに向けた先進電磁超音波探傷に関する研究

(受託者)国立大学法人大阪大学
(研究代表者)大塚裕介 大学院工学研究科

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、プラントの安全性及び経済性向上に不可欠である高速炉機器の運転時信頼性確保のため、高温環境下における実用化高速炉保全技術のベースとなる高周波対応電磁超音波素子の技術開発を行う。そのための技術課題は、電磁超音波素子の高周波化、高出力化、き裂検出性、サイジング精度向上などである。これらの技術課題を解決するために、プラズマプロセスによる薄膜生成とレーザー加工による「薄膜型電磁超音波素子の開発」によって、薄膜型電磁超音波素子の検査周波数限界を5MHz程度までにブレイクスルーさせる。また、薄膜型電磁超音波素子を用いた「高周波探傷による高精度き裂検出」によって、高精度のき裂検出に向けた性能向上を目標としている。

2.研究開発成果
2.1 薄膜型電磁超音波素子の開発
図1
図1 シリコン基板に成膜した多層薄膜の断面
図2
図2 窒化アルミ薄膜の表面観察像

 シリコン基板に薄膜型電磁超音波素子の耐電圧を確保できる厚さ数μm以上の窒化アルミ薄膜を成膜するために、入力パワーやガス圧等のパラメータを検討した。シリコン基板に窒化アルミ薄膜を成膜できた成膜条件で、銅基板に窒化アルミを成膜し大気中で保管したところ剥離が生じた。同様にシリコン基板に銅薄膜を成膜した場合でも剥離が生じた。これは大きな内部応力が発生したことに起因するものであると考えられる。そこで、薄膜の密着性を高めるため、成膜開始直後に基板へ高周波電圧を印加して成膜を行い、適当な時間が経過した後、高周波電圧のみ停止するという手順で成膜した結果、薄膜剥離を抑制できた。
 次に通電面積を増加させ電磁超音波素子の超音波送受信強度の向上を念頭におき、シリコン基板上に銅薄膜、窒化アルミ薄膜、銅薄膜の3層からなる多層膜を成膜した。1層目と3層目の銅薄膜の厚さは約2μmの厚さであり、2層目となる窒化アルミ薄膜の厚さは成膜時間を変えて、0.4〜4μmとした(図1)。2層目まで成膜したすべての成膜条件において、窒化アルミの電気伝導度を調べ、高い絶縁性が確認された。しかしながら、3層目の銅薄膜を窒化アルミ薄膜上に成膜したところ、1層目と3層目の銅薄膜間で導通していた。そこで、密着性や表面状態、導通の原因について調べるため、多層膜の表面状態を走査型電子顕微鏡による観察では、成膜によって発生した大きな内部応力によって、基板との界面近傍で、き裂が生じているものもあった。1層目と2層目の断面では、窒化アルミは銅薄膜表面の凹凸や粒塊の間に入り込んでおり銅薄膜からの剥離は観察されなかった。2層目と3層目の断面では、窒化アルミ薄膜上に成膜した銅薄膜は窒化アルミ薄膜に積みあがっている状態で密着度は低く、その境界面は剥離しやすい状態であった。また、2層目の窒化アルミ薄膜は結晶が成長方向へ柱状に伸びており、結晶粒との間に生じる隙間や、表面に結晶粒と同程度の大きさの孔が存在しており(図2)、その深さは窒化アルミの膜厚に相当するものも観察された。このような隙間や孔に3層目の銅薄膜が堆積したことが、1層目と3層目の銅薄膜間の導通の要因になったと考えられる。窒化アルミの表面状態はガス混合比に依存することが知られており、窒素混合率を高めると結晶粒が小さくなり表面が平滑化される傾向にある。また、成膜によって生じる内部応力は薄膜剥離につながる要因のひとつであり、内部応力を抑制は重要な課題である。そこで、窒素混合比を徐々に高めながら、アルゴンと窒素の混合比を1:1として成膜したところ、薄膜の内部応力は緩和し、窒化アルミ薄膜表面は、混合比3:1のときに比べて平滑化された。

2.2 超音波き裂検出性能評価

 電磁超音波素子を構成する薄膜の電気特性、熱特性について評価した。厚さの異なる窒化アルミ薄膜の耐電圧と抵抗率を、50℃から250℃の範囲で調べた。その結果、耐電圧は窒化アルミ薄膜の膜厚とともに増加し、約8μmの膜厚では950V以上の耐電圧が得られた。抵抗率はいずれの膜厚に対しても温度にほとんど依存しないことが示された(図3)。印加電圧が大きくなるとリーク電流が生じるために抵抗率は減少するが、窒化アルミ薄膜は抵抗値換算で1GΩ以上の値が得られた。その結果、検査対象温度でも窒化アルミ薄膜は十分な絶縁性を示すこと、および、窒化アルミ薄膜による導電層間の耐電圧を確保できることが示されたことから、薄膜の多層構造による超音波出力強度向上の見通しがついた。有限要素解析により、通電時に発生する熱応力の評価を行った。熱応力に関しては、導電膜、絶縁膜の厚さ、および印加電圧をパラメータとして変化させた。温度差が最も生じる部分である導電層と絶縁層との境界面において、熱応力の値が最大となった。また、通電によって発熱する導電膜の温度に着目すると、熱伝導の影響が小さいため熱応力は温度と比例関係にあることが示された(図4)。

図3
図3 印加電圧と抵抗値の関係
図4
図4 温度と熱応力の関係
3.今後の展望

 薄膜型電磁超音波素子の原型が出来上がりつつある。今後は、薄膜構造の多層化を行うことで電磁超音波素子の高出力化に挑戦し、高周波探傷によるき裂検出性能評価を行う計画である。

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