原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

軽水冷却スーパー高速炉に関する研究開発

(受託者)国立大学法人東京大学
(研究代表者)岡芳明 工学系研究科原子力専攻
(再委託先)国立大学法人九州大学、独立行政法人日本原子力研究開発機構、東京電力株式会社

1.研究開発の背景とねらい

 低炭素社会の実現のため原子力の役割を果たす必要がある。そのために使用済み燃料を資源として有効利用することは環境、資源、エネル ギー安全保障の点で重要である。その最大の課題は、軽水炉に勝る経済性を持つ高速炉を開発することである。
 本事業では超臨界水を冷却に用いることで貫流型による原子炉システムの簡素化・コンパクト化と発電効率向上を実現しうる革新的原子力システムとして軽水冷却スーパー高速炉(以下スーパー高速炉という。) の概念を開発し、その概念としての成立性を示すとともに、伝熱流動と材料に関する主要課題の実験をおこない、開発の基盤となる基礎的なデータベースを構築することが目標である。

2.研究開発成果
2.1 サブテーマ1:プラント概念の構築
図1
図1 スーパー高速炉格納容器(検討例)

 軽水冷却の高速炉では燃料棒間隙の狭い稠密燃料集合体を用いる必要があるが、貫流型炉では炉心流量が軽水炉よりはるかに少なくポンプも強力なので、圧力損失やポンプ動力の増加が設計上の制約にはならず高速炉心との適合性がよい。貫流型の特徴を生かしたコンパクトで合理的な炉概念を創出することを目標に、燃料・炉心・高温構造設計と制御・安全性検討を実施している。スーパー高速炉の格納容器概念図(検討例)を図1に示す。

2.1.1 燃料・炉心検討
図1
図1 改良炉心設計の流れ
表1 炉心特性
表1

2.1.1.1 燃料・炉心・高温構造設計
 燃料棒の一次案および基本炉心を設計し、これを基に局所ボイド反応度係数を含む設計目標と設計基準を満たした改良炉心②を設計した(平成18、19 年度)。さらに、炉心構成や流量配分、プルトニウム富化度分布を改良することで、改良炉心②で達成した高出力密度を保ちつつ、事故時の燃料被覆管温度基準と異常過渡時の燃料中心温度基準を満たす改良炉心③を設計した(表1)。図1に示すように炉心設計、安全解析、燃料解析を繰り返して改良を進めている。この炉心の被覆管表面温度、線出力密度、燃焼度のピーク値がそれぞれ最大となる燃料棒について通常運転時および異常な過渡変化時の燃料解析を実施し、現状の炉心設計や安全設計の下で各種制約条件を満たしていることを確認した。現在は他の実施項目の知見を踏まえて燃料・炉心設計をさらに改良しつつ、その性能の総合的な評価を進めている。スーパー高速炉は燃料棒間隔が約1mmと小さいので汎用流体解析ソフトを用いて種々の形状と発熱の有無が被覆管表面温度分布にあたえる影響を評価し、そのデータベースを構築している。燃料棒7 本からなる小規模バンドル体系で被覆管表面温度を解析し、サブチャンネルの加熱周囲長とサブチャンネル面積との比を指標として温度分布が平坦化できることがわかった 。スーパー高速炉は冷却水の温度が高く、また炉心出入り口温度差が大きいため高温構造の観点からの構造健全性の検討が必要である。平成19 年度までの高温構造設計評価で課題のあった原子炉出口ノズル部に非弾性解析を適用し、熱応力ラチェット、クリープラチェット及び弾塑性クリープを評価した結果、構造健全性を確保できることが分かった。現在は高温構造設計試案を完成させるとともに、プラントの簡素化・コンパクト化の検討を進めている。多様な中性子スペクトル場を有するスーパー高速炉の特徴を生かした環境負荷低減性能を評価するため、核変換性能の解析を進めている。これまでにスーパー高速炉による代表的なマイナーアクチノイド(MA)、超ウラン元素(TRU)および長寿命核分裂生成物(LLFP)の変換性能を定量的に評価した。これらの評価は、後述の核変換性能解析法の整備並びにバックエンドリスク評価と密接に連携して進めている。現在は、MA の変換量を最大限に高める設計改良とともに核変換特性の総合評価を実施している。

2.1.1.2 核変換性能解析法整備
 核変換性能評価に必要な燃焼計算コードを整備し、スーパー高速炉解析用の炉定数ライブラリを作成した。バックエンドリスク評価で重要となる代表的な長寿命核種について燃焼燃料組成の誤差を評価し、スーパー高速炉の使用済み燃料組成に対する誤差とその要因を明らかにした。核変換性能の誤差評価法は炉物理分野の最先端の成果である。

2.1.1.3 バックエンドリスク評価
 スーパー高速炉のバックエンドリスクを核変換性能解析と一体的に研究し、その低減効果を含めて評価している。人間健康影響リスク指標(被ばく線量率)と環境影響リスク指標(放射能毒性)を設定し、重要核種の地下環境中での振舞い予測のための実験データを取得した。マイナーアクチノイド及び超ウラン元素を核変換した炉心の使用済燃料データを用いてバックエンドリスク指標を計算し、核変換によるスーパー高速炉のバックエンドリスク低減を評価した。アクチノイドに起因するバックエンドリスクの低減効果を明らかにした。LLFP を核変換した炉心の使用済燃料データを用いてバックエンドリスク低減量の評価を行っている。

2.1.1.4 3次元2 流体モデルによる熱流動計算コード整備
 超臨界から亜臨界圧まで扱える3 次元2 流体モデルによる熱流動計算コードACE-3D を整備し、起動・停止、事故時等を含む熱流動解析を可能にした。サブテーマ2の伝熱流動実験データで本コードの計算精度を検証した結果、乱流モデルには検討の必要があるものの、被覆管内の熱伝導を考慮することにより、ACE-3D コードを用いて燃料棒群体系内熱伝達を予測できることを確認した。燃料集合体を簡略模擬した体系で解析し、予測性能の総合的な評価を進めている。

2.1.1.5 原子炉特性に関する考察
 原子炉ユーザーの立場からスーパー高速炉の原子炉特性を考察し設計改良に役立てている。燃料、炉心、安全性の望ましい特性を考察し、プラント特性について検討している。

2.1.2 制御・安全性検討
図3
図3 冷却材喪失事故時の被覆管温度解析例(最高線出力密度の影響)

 スーパー高速炉の制御系および安全系を設計し、それぞれの特性を明らかにするとともに、得られた知見を燃料・炉心設計にフィードバックする。
 プラント動特性解析コードを用いて主蒸気温度の偏差を主冷却流量(主給水流量)にフィードバックする従来の制御方式に、出力/流量比偏差、出力偏差、出力変化率のフィードバック項をそれぞれ加えた3 種類の改良制御系を設計した。出力/流量比を一定に保つ効果により、改良制御系は出力変更時の主蒸気温度変動を低減できることを確認した。安全確保の基本方針および安全系について検討し、想定される各種異常過渡・事故事象を解析した。いずれの事象も最高被覆管温度や最高使用圧力などの安全性判断基準を満たしていることを確認した。冷却材喪失事故発生時に燃料被覆管温度が安全基準を満たすために必要な流量配分と最高線出力密度の条件を明らかにし、炉心設計にフィードバックした(図3)。粒子法の凝縮特性解析への適用可能性について検討するため、グリッド計算機を用いて模擬流体(フレオン)および水の気泡の凝縮特性を解析し、圧力挙動や気泡形状などを評価した。超臨界蒸気の大きい気泡の凝縮解析を進めている。

2.2 サブテーマ2:炉心伝熱流動等に関する研究開発

 目標:スーパー高速炉の設計に適用しうる伝熱・流動相関式などのデータベースを実験的に構築する。系統的で多様な実験が容易な模擬流体(フレオン)を用いた試験をおこない、超臨界圧流体の基礎伝熱特性、燃料棒群特性、亜臨界圧限界熱流束特性および放出・凝縮特性の各種の基盤伝熱流動データを取得する。模擬流体を用いた試験結果から実際の超臨界圧水の特性を推定する妥当性を確認するため、超臨界圧水を用いた基礎伝熱特性試験、燃料棒群特性試験をおこなう。

2.2.1 模擬流体を用いた炉心伝熱流動等に関する研究開発

2.2.1.1 基礎伝熱特性試験
 実機の狭い燃料棒間隔流路に相当する小内径の円管を用い、上昇流と下降流における定常および流量・圧力減少過渡の試験をおこなった。これにより、熱伝達の基礎特性を明らかにするとともに、燃料棒群特性試験の計画策定に必要な基礎データを取得した。

図4
図4 限界クオリティの測定値と新整理式による計算値との比較

2.2.1.2 燃料棒群特性試験
 グリッドスペーサを有する実機相当の燃料棒集合体をヒーターピン7 本で模擬した燃料棒群特性試験を進めている。単純形状のグリッドスペーサを有するバンドル試験体Ⅰ、スペーサ出口端に羽根を設けた試験体Ⅱ、そのスペーサ間隔を変えた試験体Ⅲについて、定常及び流量・圧力減少過渡時の試験を実施し、熱伝達および圧力損失の相関式を導出した。バンドル試験体Ⅱでは、上昇流の方が下降流より高い熱伝達率を示す。スペーサの形状を更に変えたバンドル試験体Ⅳを用いて試験を進めている。

2.2.1.3 亜臨界圧限界熱流束試験
 スーパー高速炉の起動は亜臨界圧で行う。貫流型は必ず沸騰遷移を通過する。適切な出力・流量比設定で被覆管温度を定格運転時以下に抑えて起動できる。しかしその限界熱流束は起動時の出力・流量範囲を規定する要因で、スぺーサー効果によって上昇し、範囲の拡大が期待できる。円管、バンドル試験体Ⅰ及びⅡで臨界圧近傍域の限界熱流束状態発生のデータを取得し,その発生条件の整理式を作成した(図4)。

2.2.1.4 放出・凝縮特性試験
 冷却材喪失事故時の臨界流や自動減圧弁作動時の超臨界蒸気の液中での凝縮特性の基礎データを得るために、超臨界を含む高温高圧の模擬流体蒸気の気中への放出試験ならびにサブクール液中への放出凝縮試験を実施した。超臨界流体の気中放出過程における流量減少変化は,臨界流を含め,全般に,圧縮性流体力学の考え方で評価できることを明らかにした。また、放出蒸気凝縮過程における圧力振動の振幅は,一般に,プール液のサブクール度の増加とともに増大し,あるサブクール度で最大となった後,減少する傾向を示すことがわかった。

2.2.2 超臨界圧水を用いた炉心伝熱流動等に関する研究開発
図5
図5 超臨界圧水伝熱試験ループ

2.2.2.1 基礎伝熱特性試験
 燃料棒を模擬した単ピン試験体を用いて超臨界圧水の定常時における熱伝達係数評価のための基礎データを取得した。

2.2.2.2 燃料棒群特性試験
 模擬燃料棒ヒータ7 本バンドルの燃料棒群特性試験部を製作し(図5)、超臨界圧水の条件で上昇流と下降流の定常熱伝達・圧力損失の実験をおこなっている。熱伝達率と圧力損失のデータベースを構築する。

2.3 サブテーマ3:高耐久性燃料被覆管材料等の開発

 目標:スーパー高速炉炉心環境に対応したオーステナイト系炉心材料を開発し、その特性を解明する。大きな温度差にさらされる部位の熱応力軽減のための高耐熱性断熱材料を開発し、性能を評価する。超臨界水中におけるステンレス系材料の溶出特性を評価するために、炉心材料溶出挙動評価手法を開発し、溶出特性の基礎データを取得する。

2.3.1 炉心材料開発

2.3.1.1 炉心材料開発
 オーステナイトステンレス鋼はナトリウム冷却高速増殖炉用など経験のある高速炉の被覆管である。その改良被覆管材料として開発されたPNC1520 をベースとして、基本特性を維持しつつスーパー高速炉の炉心材料に特に求められる高温強度と耐食性の向上を目指している。
 標準組成のPNC1520、チタン添加型およびジルコニウム添加型の試作材を製作し、高温クリープ特性試験、高温高圧水中(290℃、8MPa)および超臨界圧水中(600℃、25MPa)での腐食挙動試験、中性子照射材腐食挙動試験などを実施した。ジルコニウム添加型材の高温クリープ特性は標準組成PNC1520 と同等であることがわかった。高温高圧水中及び超臨界圧水中浸漬試験では、いずれの試作材も腐食量が1000 時間以降飽和する傾向が認められること、ジルコニウム添加型PNC1520 が他の試作材に比べ良好な耐食性を有していることが示唆された。平成20 年度に製管した被覆管の高温クリープ強度と腐食強度の評価を進めている。

2.3.1.2 複合環境照射試験
 照射と腐食の複合環境における被覆管材料挙動の解明を進めている。600℃までの超臨界水腐食試験の結果から、チタン添加型試作材に比べジルコニウム添加型試作材の方が耐食性が良いことを確認した。高温イオン照射試験(500℃、50 dpa)並びに複合環境試験では、いずれの試作材も照射硬化に顕著な違いは認められなかった。現在、製管した被覆管の複合環境試験を進めている。

2.3.2 高耐熱性断熱材料の開発
図6
図6 緻密焼結体の圧縮強度

2.3.2.1 高耐熱性断熱材料の開発
 温度分布の大きいスーパー高速炉では、構造材の熱応力軽減のための高耐熱性断熱材料の開発が必須である。高温安定性と中性子吸収特性などにより、ジルコニア(ZrO2)にイットリア(Y2O3)を固溶させたイットリア安定化ジルコニア(YSZ:Yttria-StabilizedZirconia)を開発し性能評価を進めている。3mol%-Y2O3-97%ZrO2(3YSZ)と8mol%-Y2O3-92%ZrO2(8YSZ)のそれぞれの粉末に造孔材粉末をいれて気孔率を変化させた焼結体を作製し、微細組織観察、熱伝導率測定、熱サイクルに対する機械強度を測定した。造孔材添加量や焼結温度の最適化によって、焼結密度がジルコニアの25%程度、熱伝導率がジルコニアの20 分の1 程度の高性能な断熱材料が得られた。また、熱伝導率の小さい多孔質焼結体においては、結度晶温が同じであれば圧縮強度は3YSZ のほうが8YSZ より大きいことがわかった(図6)。超臨界圧水に対する腐食挙動を検討している。

2.3.2.2 高耐熱性断熱材料の照射挙動評価
 高速実験炉「常陽」で中性子を照射したYSZ の熱定数を測定し、非照射材との比較により中性子照射の影響を評価した。その結果、照射の影響で促進されるイットリア相分離による熱拡散率上昇と、照射に伴う照射欠陥の形成による熱拡散率低下により、熱定数に温度依存性が生じることが明らかになった。

2.3.3 溶出特性評価手法の開発
図7
図7 溶出量の水環境の影響

 超臨界圧水中におけるステンレス系放射化材料の溶出挙動評価試験装置を開発し、スーパー高速炉環境での炉心材料の溶出特性を評価している。超臨界水条件での温度特性試験では、400℃以上で材料の酸化腐食、溶解度低下、水の物性変化などが重畳することにより擬臨界温度以下の条件に比べ、溶出が著しく低下することがわかた。水の化学的雰囲気を変えた環境特性試験では、400℃以上の高温側で溶出量が著しく低下するものの、酸素濃度を増加して迅速に酸化皮膜を形成させても溶出が促進するという興味深いデータを得た(図7)。現在は温度や溶存酸素濃度などの試験条件を複合的に変えて溶出特性を評価している。

3.まとめ

 平成17〜21 年度の事業項目を実施し、当初の目標を計画通り達成しつつある。サブテーマ1「プラント概念の構築」では、燃料、炉心、高温構造、安全性などの一体化した設計解析によって、貫流型・超臨界圧水冷却の高温のスーパー高速炉の概念と特徴が定量的に明らかになる。サブテーマ2「炉心伝熱流動等に関する研究開発」では、7本バンドルの試験などを行い、基本的な伝熱流動特性を解明し、基盤となる伝熱流動データベースをまとめている。サブテーマ3「高耐久性燃料被覆管材料等の開発」では、PNC1520 の改良材の開発・評価、照射と腐食を重畳した試験を行い、被覆管候補材料の特性を明らかにしている。断熱材料のイットリア安定化ジルコニアを開発し、その強度や超臨界圧水への腐食挙動など、その性能を総合的にまとめている。炉心材料の冷却水への溶出特性については、温度や溶存酸素濃度などの水環境の複合的影響を評価し溶出特性の概要を解明している。なお本研究開発の成果は、各年度の成果報告書のみならず、2009 年10月1 日現在で158 件の外部発表としてまとめられている。成果は今後の研究開発の基盤とするのみならず、世界のSCWR 研究開発を牽引するものとして第四世代原子炉国際フォーラム(GIF)など国際的な活動でも活用する予定である。なお中国ではSCWR 実験炉を2016 年に建設開始する計画が中国広東核電集団より発表されている。

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