原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

高速炉実機未臨界状態で行う反応度フィードバック精密測定技術の開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)岡嶋成晃 原子力基礎工学研究部門
(再委託先)国立大学法人名古屋大学、公立大学法人会津大学

1.研究開発の背景とねらい

 高速炉の安全性については、運転実績の蓄積経験の長い軽水炉と同等であることが社会的な要請である。これまで実機の核設計や設置等に関する許認可対応において、炉心核特性を評価する臨界実験が行われてきた。しかし、革新的高速炉開発では「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」の成果で見られるように、炉心が大型化するために臨界実験の実施が困難になる傾向がある。その上、近年の設計解析技術の進展を考慮すると、「大規模解析+部分模擬試験」の組合せによる設計・許認可対応が不可避である。そこで、高速炉の安全性に関しては、初号機の建設前に大規模モックアップ実験を行わず、設計段階で示される安全評価結果と実際の初号機プラントの実測性能に基づいて安全を担保する“A performance-based approach”の考え方が、GEN-IVの検討において提唱された。この考え方は、今後の革新炉開発では有効な方法であると考えられており、開発段階の高速炉においては、炉型や制御方式・冷却材の選択によらず「初号機」において実施することが要求される。
 この“A performance-based approach”の考え方に基づくと、初号機の本格運転開始前に実施する起動前炉物理試験において、将来、運転で実現される炉心状態を含む広い想定状況に対する各種炉心反応度特性を測定することが必要である。現在、実機では、例えばペリオド法と置換法の組み合わせによる制御棒反応度価値測定や、ポンプ入熱により系統温度を上下させての等温温度係数測定などの臨界法による炉物理試験が実施されている。この臨界法では、炉心の余剰反応度の範囲内で実現可能な炉心状態に対してのみ特性データを取得する。そのため、制御棒干渉効果などを含む複雑な現象を測定することになり、その解釈・要因分析が難しい場合もある。この炉物理試験を未臨界状態で実施できれば、制御棒パターンを自由に選択できることから干渉効果を排除することができ、燃焼が進んだ状態等の中性子束分布の模擬が可能となり、様々な反応度係数評価項目が測定可能となり、かつ安全に試験を遂行することができる。しかし、これまでの実機における起動前炉物理試験において、制御棒の炉停止余裕や落下法による制御棒単体の反応度価値測定を除くと、未臨界状態で実施した例がない。
 そこで、本研究開発では、高速炉システムを対象に、実機での原子炉起動前炉物理試験を「未臨界状態で実施できる反応度変化測定技術」として、中性子源増倍法を基本に炉雑音計測法と複合し、かつ解析による斬新な補正方法を統合した中性子源増倍法(「シンセシス中性子源増倍法」と呼ぶ)を開発し、高速炉臨界実験装置(以下「FCA」という)を用いて実証するとともに、その技術に基づく実機の計測システムを提案する。その主要な技術開発項目は以下のとおりである。
 (1) 大容量時系列データ高速処理システムの開発
 (2) 中性子検出器応答評価モデルの確立
 (3) 臨界実験装置(FCA)を用いた試験
 (4) 未臨界反応度計測システムの実機への適用
 本技術開発が達成した後には、安全評価に重要な反応度フィードバック要因や安全性確保に重要な炉物理諸特性に対して、未臨界から臨界状態までの広範囲において高精度測定が可能となり、革新型高速炉の開発コスト及び時間の削減に大きく貢献すること、炉物理の分野における“A performance-based approach”の道を拓くことが期待できる。

2.研究開発成果

(1) 大容量時系列データ高速処理システムの開発
 シンセシス中性子源増倍法を構成する炉雑音計測法で用いる測定システムは、近年、中性子検出パルスの発生時刻の時系列データを取得する方式のものが使用されることが多くなっている。しかし、そのシステムは熱中性子炉未臨界状態において使用することを想定して設計開発されたものであるため、本研究のように高速炉体系において使用するには、性能が不十分である。そこで、平成19年度に高速アンプやディスクリ回路等の内部電気信号処理部の全面的な見直しを行って、既存の時系列データ測定システムに比べて大幅に高速化・大容量化を図った新しい大容量時系列データ高速処理システムを開発した。そのシステム性能を、既存の時系列データ測定システム例と併せて、表1に示す。開発した大容量時系列データ高速処理システムでは、高速炉未臨界状態における炉雑音データを取得する上で十分な時間分解能である20n秒を達成した。また、独立な4入力チャンネルを装備することで、空間依存性等の検証に有効な複数検出器同時測定も可能とした。さらに、新規に設計開発した専用データバスを介し、測定中に、随時、取得データを大容量コンパクトフラッシュディスクに転送することで、最大処理能力の向上と大容量化を達成した。

表1 開発した大容量時系列データ高速処理システムの性能
表1
図1
図1 中性子検出器配置例

(2) 中性子検出器応答評価モデルの確立
 高速炉実機において、反応度フィードバックを未臨界状態にて精密測定するためには、未臨界状態における炉の反応度、反応度変化と中性子検出器応答の関係を調べ、中性子検出器の応答評価モデルを確立することが必要である。その結果から逆に、中性子検出器の応答に基づき、炉の反応度、反応度変化を推定することができる。そこで中性子束分布に重点を置いて、未臨界状態における反応度、反応度変化と中性子検出器応答の関係を調べ、中性子検出器の応答評価モデルの確立に必要な検討条件を決定するために数値シミュレーションによる検討を行うとともに、不確かさ要因分析による応答評価モデルへ及ぼす影響を評価している。さらに、中性子検出器の最適配置について検討している。

① 中性子検出器の応答評価モデルの検討
 平成19年度に実施した検討結果に基づいて、炉出力300MWe級と750MWe級の2基の実機想定炉心について、3次元7群拡散計算により炉の未臨界度に応じた中性子検出器位置での中性子束を計算した。代表例として、300MWe級炉心の想定検出器位置を図1に示す。
 シンセシス法では、修正中性子源増倍法の基準となる未臨界度を、絶対値の測定が可能な炉雑音法を用いて浅い未臨界状態で測定し、深い未臨界状態における未臨界度をMSM(Modified Source Multi- plication method)により測定する。このため計算ケースとしては深い未臨界状態と浅い未臨界状態の2ケースを設定した。さらに、浅い未臨界状態では、制御棒挿入深度を調整して、炉心全体の反応度が広い範囲で変化するように3ケース(未臨界度:0.5$、1$、2$)の状態を設定した。
 計算の結果、浅い未臨界度状態では、炉心・ブランケット領域の近傍上部に検出器を配置する場合、補正係数の検出器位置依存性が小さくなることから、その測定精度が相対的に向上する可能性があることなど、中性子検出器の設置位置と応答変化の設置位置毎の特徴を把握できた。

② 不確かさ要因分析による応答評価モデルへ及ぼす影響評価
 炉心燃料の燃焼に伴う組成変化が、中性子検出器応答評価モデルへ及ぼす影響について調べるために、燃焼進行により燃料マクロ断面積が変化した場合と中性子源強度・発生エネルギーが変化した場合の中性子検出器応答に関する感度係数をそれぞれ計算した。
 その結果、燃焼に伴う燃料組成変化が検出器応答変化及び反応度変化に大きな影響を与えるマクロ断面積は中性子生成断面積(νΣƒ)と中性子吸収断面積(Σa)であること、燃料自体からの中性子発生に関しては、発生強度の不確かさの方が、発生エネルギースペクトルの不確かさよりも大きく影響することなどが分かった。この結果から、燃焼に伴う燃料組成変化が補正係数へ及ぼす影響を低減するには、実機炉心の運転にともなう燃焼反応度変化の実績の反映が重要であり、その方策として、νΣƒとΣaの補正により調整する手法を導入することが実用性にも優れ有効と判断できた。

表2 各検出器位置におけるkdet(keff=0.9582)
表2

③ 中性子検出器の最適配置に関する検討
 未臨界の体系では、測定から得られる未臨界度は検出器の位置や感度によって変化するため、体系を代表する値として定義される実効増倍率keffを求めるには、検出器位置依存性を評価する必要がある。そこで、中性子検出の効果を考慮した検出中性子増倍率[1]kdetを用いて、kdetがkeffと同じ値を与える検出器位置(これを最適検出器位置と呼ぶ)について、数値計算によって調べた。
 300MWe級の実機想定炉心において、全制御棒を挿入した未臨界体系(keff=9582.0)に、全エネルギー群に対して一様に感度をもつ検出器を各領域に配置した。各検出器位置において、検出器インポータンス分布およびdetkを、計算コードENDOSNにより求め位置依存性を評価した。得られたdetkを表2に示す。表2から、検出器番号2(上部遮蔽体領域に設置)においてdetkとeffkの差が最も小さいことより、300MWe級の炉心では、ここが、kdetからkeffを推定する上で最適な位置であることが分かった。

(3) FCAを用いた試験
 シンセシス法の実機への適用性を実証するために、FCAを用いた試験として、① 実験計画の立案、② パルス中性子源の整備、③ 反応率分布測定装置の製作、④ FCAを用いた実験と解析を実施している。

① 実験計画の立案
 平成19年度に、想定実機炉心の炉心組成をもとに5ケースの候補体系を選択するとともに、測定すべき項目を抽出し、その測定方法と各項目の大凡の所要期間を検討し、実験計画を立案した。

② パルス中性子源の整備
 平成19年度に中性子発生管のイオン源に高圧電源を供給するためのパルス電源を製作し、平成20年度には、トリチウムターゲットを封入するための中性子発生管中性子発生管を製作して、トリチウム封入の準備を整えた。平成21年度にトリチウムを封入して、整備を完了する。整備したパルス中性子源は、FCA試験においてパルス中性子法による未臨界度測定で使用する。

③ 反応率分布測定装置の製作
 平成19年度に装置の基本設計、詳細設計を行い、平成20年度は、詳細設計結果に基づいて反応率分布測定装置を製作した。なお、装置製作にあたっては、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に基づく許認可手続きを実施し、平成21年3月13日に装置使用の合格証を得た。同装置は、平成21年度からのFCA試験において、未臨界状態での中性子束分布に関する情報を得るための反応率分布測定に使用する。

図3
図2 実験体系概略図(RZモデル)

④ FCAを用いた実験と解析
 実験計画の結果をもとに、5ケースの候補炉心の中から、FCAにおいて構築可能で、実験実施に必要な種々の条件を満足する試験体系として、炉出力300MWe級の実機想定炉心の外側炉心の組成を模擬した燃料セル(Pu富化度:18.2%)を炉心中央に配置した体系(試験領域 半径×高さ:約31cm×91cm)を選定した。試験領域の径方向外側には、臨界調整のためにU燃料を用いたドライバー領域を配置する。本実験体系の概略を図2に示す。

 本実験体系は、平成21年度6月からFCAにおいて構築が開始され、臨界近接を経て、7月30日に臨界体系に至った。その後、本測定手法の未臨界状態での反応度測定精度の評価に資するため、反応率分布測定、反応度較正の精度、未臨界度と反応度変化の関係、補正係数の誤差要因の検討、中性子検出器配置に関するデータ等を取得する予定である。

図3
図3 自己パワースペクトル密度の例
(1検出器の場合)
図4
図4 相互パワースペクトル密度の例
(2検出器の場合)

(4)未臨界反応度計測システムの実機への適用
 高速炉実機において、未臨界状態での反応度計測システムを構築・提案するためには、その実機への適用性について、検討・確認することが必要である。そこで、未臨界反応度計測システム概念構築のために、炉雑音法と修正中性子源増倍法を組み合わせたシンセシス法について、計測システムの基本アルゴリズムの検討と実機炉心での試験を想定した数値実験を実施した。
 数値実験では、修正中性子源増倍法の基準となる未臨界度を炉雑音法により測定することを前提として、炉雑音法による未臨界度計測アルゴリズムに必要な性能を検討した。具体的には、中性子検出器応答の時系列模擬信号データを作成し、そのデータを基に、周波数解析法等の未臨界度推定のための計測データ処理方法について検討した。
 次に、その計測アルゴリズムを基に、確率論的手法を用いて実機炉心の浅い未臨界状態での炉雑音試験を想定した数値実験を実施した。また、平成19年度に実施した「もんじゅ」での既往試験で得られた未臨界状態での検出器応答変化と炉内反応度変化の関係の調査結果から、浅い未臨界状態から深い未臨界状態までの範囲における代表的な5つの制御棒挿入状態を選択し、実機炉心での修正中性子源増倍法による試験を想定した3次元7群拡散計算による数値実験を実施した。
 シミュレーション結果の一例として、炉雑音法で得るパワースペクトル密度を1検出器と2検出器に適用した場合のフィッティングによる即発中性子減衰定数(α値)推定結果の比較を図3及び4に示す。これらの結果より、炉雑音法を適用する場合の計測精度は検出器効率に大きく影響されること、計測に利用する周波数帯域を従来より低周波の振幅情報まで含めた折点周波数法によって精度を向上できることなどが判った。また、炉雑音法の適用では、炉心からの中性子が直接観測可能な場所に検出器を設置し、複数の検出器からの信号を同期処理する2検出器(複数)法の適用が有効であることを明らかにした。修正中性子源増倍法の適用では、炉心からの中性子が直接観測可能で、制御棒や燃料引抜による局所的な影響を直接受けにくい炉心の周辺に検出器を複数配置することが有効と判った。

3.今後の展望

 今後、未臨界状態での反応度測定技術の実機への適用するために、これまで検討してきた結果に関する実験的検証をFCAにおいて実施するとともに、その解析を実施する。また、中性子検出器応答評価モデルの確立では、検出器応答に対する不確かさ要因分析結果に基づき、不確かさ要因が検出効率に及ぼす影響について数値計算により定量的に評価する。また、未臨界反応度計測システムの実機への適用では、これまでに検討した未臨界反応度計測システムの基本構成をもとに、実機炉心においてシンセシス中性子源増倍法による試験を想定した数値実験を行い、未臨界反応度計測システムの適用性を検討する。これら一連の結果を総合して、未臨界反応度計測システムを実機へ適用するために、未臨界状態から臨界に至る測定範囲及び未臨界度と反応度測定精度との関係を定量的に把握する。また、本システムを大型炉心に適用した場合の適用性の検討を行い、今後、一層すすめるべき項目・解決すべき課題の定量化目標を明確化する予定である。
 一連の技術開発が達成できれば、従来実現されていなかった、未臨界から臨界状態までの広範囲において、様々な炉心状態の反応度変化を高精度で実測するための測定技術が確立する。また、本技術開発の達成によって、核燃料サイクル施設での臨界安全管理分野及び加速器駆動未臨界炉のモニター分野の発展に貢献することが期待できる。

4.参考文献

[1] 遠藤知弘、「空間および中性子エネルギーを考慮した三次中性子相関法による未臨界度測定法の研究」、名古屋大学博士論文(2007).

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