原子力システム研究開発事業

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平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

ナノ構造伝熱面の創成技術ならびに伝熱特性に関する研究開発

(受託者)独立行政法人 日本原子力研究開発機構
(研究代表者)江里幸一郎 核融合研究開発部門

1.研究開発の背景とねらい

 Na冷却高速炉をはじめとする第4世代炉の実用化に当っては経済性の向上が必須であり、この観点から炉の更なるコンパクト化、高熱効率化が強く求められている。本事業で取り組むナノ構造伝熱面は、第4世代炉における炉心機器の除熱性能の向上に寄与することを目的とする。ナノ構造伝熱面は京都大学が開発したスラリー塗布法および九州大学と原子力機構が共同で開発した物理エッチング法で実現されており、京都大学における基礎伝熱実験によると、従来の伝熱促進技術と異なり、圧力損失の増大無しに伝熱性能を向上させる可能性がある。
 本研究開発は(1)ナノ構造伝熱面創成研究および(2)ナノ構造伝熱面伝熱特性研究を平成18年度より3ヵ年で実施した。H21年度はそれまでナノ構造伝熱面形成に使用していた酸化銅(CuO)の代わりに高温特性に優れる酸化チタン粒子(TiO2)ナノ粒子を使用し、ナノ構造伝熱面を試作するとともに、本ナノ構造伝熱面の伝熱特性、高温耐久性に関する実験を行い、ナノ構造伝熱面創成技術を開発する。

2.研究開発成果
図1
図1 酸化チタン(TiO2)ナノ粒子を用いた浸漬塗布ナノ構造伝熱面の表面構造のSEM画像

2.1 浸漬塗布法によるナノ構造伝熱面創成研究
 浸漬塗布法では溶媒中に分散させた金属酸化物ナノ粒子およびポリスチレンラテックス(PSL)粒子との混合粒子を浸漬塗布法により基板上に積層させ、焼成することで微小なスケールを有する多孔質を形成する。H21年度はCuO以外の金属酸化物ナノ粒子として、CuOより高温での安定性に優れていると考えられる酸化チタン(TiO2)粒子を用いて試作を行った。その結果、TiO2粒子を用いた場合、H19年度に実施したCuOと同様の引き抜き速度2mm/hr、溶媒温度60oC、ナノ粒子濃度0.2wt%の塗布条件でSUS316基板に塗布できることを確認した。また、電子顕微鏡による表面観察の結果、CuO粒子と同様に100nm程度の構造を有するナノ構造伝熱面が形成されていることを確認した(図1参照)。

図2
図2 SUS316基板上の平滑面と浸漬塗布法(CuOおよびTiO2)により形成したナノ構造伝熱面とでの伝熱特性の比較

2.2 ナノ構造伝熱面の伝熱特性評価研究
①ナノ構造伝熱面特性試験装置を用いた伝熱特性評価

 軽水を冷却媒体としたナノ構造伝熱面特性試験装置を使用し、CuOおよびTiO2ナノ粒子を用いて浸漬塗布法で製作したSUS316を基板としたナノ構造伝熱面の伝熱特性評価試験を実施した。本装置では平板体系での対流熱伝達に対するナノ構造伝熱面の伝熱促進効果の基礎データを取得し、ナノ粒子の違いによるナノ構造伝熱面伝熱促進効果の比較を行った。両者のナノ構造伝熱面の伝熱特性を評価した結果、TiO2粒子を用いたナノ構造伝熱面の伝熱促進効果はCuO粒子を用いたものより若干低い値を示したもの、SUS316平滑面と比較した両者の伝熱促進比は1.7程度であり、ナノ粒子材料の違いによる伝熱促進効果の相違はほとんど観察されず、同様の促進効果を示した(図2参照)。

②高温暴露試験
 計画中のNa冷却高速炉の炉心内酸素濃度に相当する10-5Pa程度の真空雰囲気下において、ナノ構造伝熱面試験片を燃料被覆管最高制限温度650℃付近まで加熱する高温暴露試験を実施した。用いた試験片はSUS316基板上に浸漬塗布法(CuOおよびTiO2粒子)、スラリー塗布法(CuOナノ粒子のみ)[1]で作成したナノ構造伝熱面であり、これらを真空度3×10-5Pa・雰囲気温度650oCの条件において100時間保持した。その結果、CuOナノ粒子を用いて形成した試験片(スラリー塗布法、浸漬塗布法(図3左図参照)ともに)はCuO特有の黒色が失われ、結晶粒が粗大化しナノ構造伝熱面が失われていることが判明した。X線光電子分光分析法(XPS)では、銅の化学状態が試験前後においてCu2+成分からCu0(金属)、Cu+成分に変化していることを明らかにした。これに対しTiO2粒子を用いた試験片では高温暴露前後で構造および化学状態がほぼ変わらないことを電子顕微鏡観察(図3右図参照)およびXPSによる化学状態分析で明らかにした。

図3
図3 高温暴露試験後の試験片の電子顕微鏡観察(×5000倍)
3.今後の展望

 三年間の本事業によりナノ構造伝熱面を適用することにより圧力損失の増加無し、すなわち、冷却材の駆動動力(ポンプ動力)の増加無し、機器の伝熱性能向上を図ることを示すことができた[1]。すなわちナノ構造伝熱面を燃料棒に適用できれば、燃料棒被覆管温度の低減および炉心構造のコンパクト化が可能となり、1次系熱交換器に適用すれば1次系のコンパクト化が可能となる。実用化に向けては、より長時間の高温耐久性試験や高温場と流れ場が共存する条件におけるナノ構造伝熱面の耐久性を調べる必要があるが、本研究開発により酸化チタンなど低酸素分圧で高温の環境下での安定性に優れるナノ粒子(他にはアルミナなどがある)を用いることによりナノ構造伝熱面を炉心機器へ適用する可能性があることを示すことができた。

4.参考文献

[1] 江里幸一郎、谷川尚、榎枝幹男、「「ナノ構造伝熱面の伝熱特性に関する研究」第46回日本伝熱シンポジウム講演論文集、(2009)

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