原子力システム研究開発事業

平成21年度成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

世界の高速炉開発と将来展望

日本原子力研究開発機構 理事長特別補佐 佐賀山豊

1.高速炉開発の歴史

 図1に示すように、高速炉は約20年前まで、ウラン燃料の有効利用促進のため米国を中心に、フランス、ロシア、イギリス、ドイツ、日本で積極的な開発が進められてきた。
 しかし、1990年代前半に米国の実験炉FFTFとEBR-Ⅱの運転停止、1991年ドイツの原型炉SNR-300の建設中止、1994年英国の原型炉PFR運転中止、1998年にはフランス実証炉スーパーフェニックスの運転中止、日本でも、1995年に発生した原型炉「もんじゅ」の性能試験中の2次系ナトリウム漏えい事故に伴い、この1990年代に急速に失速した。一方2000年代に入り、地球環境保護と石油高騰を背景に原子力ルネッサンスと称される程に原子力の重要性が再認識され始めた。その中でも、高レベル廃棄物の取扱、核不拡散問題に加え、ウラン資源でも有効的な利用ができる高速炉サイクルプラントは再び注目され、その研究開発も世界的に実用化を目指した新たな取組みの時代に入ってきた。日本は、「もんじゅ」事故後の冬の時代でも、地道な高速炉研究開発の継続によりその技術力の維持・向上に努め、この環境下において、先進国の中では最も早く実用化のためのロードマップを立ち上げることができた。
 現在の高速炉の取組みでは、次に詳述するが、1990年以前にも開発を進めていた米国、フランス、ロシア、日本のいわゆる先進国と呼ばれる国に加え、新たにインド、中国、韓国のいわゆるアジア圏が高速炉開発の中心を担っていることが特徴的である。

図1 世界の高速炉開発の経緯
図1
2.世界の高速炉開発の現状

 図2 に、各国の高速炉の開発状況を示す。各国とも冷却材としてナトリウムを用いた高速炉を対象としている。

図2 世界の高速炉の開発計画
図2

 米国は、核不拡散を主目的とし、プルトニウム燃焼のための高速炉の実証炉開発と先進型分離技術を取り込んだ燃料サイクルの技術開発を目指し、ブッシュ前大統領が2006年1月にグローバル原子力パートナーシップ(GNEP計画)を提唱した。しかしながら、2009年新政権発足後この計画は凍結され、長期的R&Dに主体を置く政策に戻っている。
 フランスは、フェニックス、スーパーフェニックス等の高速炉の運転実績を持ち、世界をリードする技術を有している。一時期、軸足が高温ガス炉開発に向かっていたものの、GNEPを契機として、高速炉開発の世界的ニーズの高まりと共に、自国でも再び高速炉開発が加速されつつある。シラク大統領により2020年プロトタイプ炉の運転開始が、政府の公式見解として発表されている。
 ロシアは、実験炉・原型炉の豊富な運転経験を踏まえ、2012年の運転開始を目指し、88万KWeの実証炉(BN-800)を建設中である。さらに、180万KWeの商業炉(BN-1800)の計画も有している。
 インドは、国内にウラン資源と豊富なトリウム資源が存在する原子力資源大国であるため、長期的な目標としてトリウムの有効利用を図った独自の核燃料サイクルを目指している。高速炉開発を積極的に進めている国の一つであり、フランスの技術をベースに1985年より1.3万KWeの実験炉を運転中である。原型炉についても2011年の運転開始を目指し、現在独自技術により建設中である。FBRの設備容量としては、2050年頃に260GWe程度の計画をしている。
 中国は、2.5万KWeの実験炉(CEFR)の建設を1999年開始し、本年度中にも臨界を予定している。ロシアの技術協力の下に、原型炉(CPFR)も2020年頃の完成を目指す計画が発表されている。FBRの設備容量としては、2050年頃に200GWe程度の計画をしている。
 韓国も、後述するGIFの枠組みを活用し、高速炉の研究開発を進めている。
 このように、高速炉開発を推進している国が、エネルギー需要の伸びと比例していることも理解できる。

3.日本の開発状況
(1)基本方針

 原子力委員会により2005年10月に出された原子力政策大綱に高速炉開発の必要性が盛り込まれたのを契機に、2006年3月の総合科学技術会議でFBRサイクル技術は「国家基幹技術」の一つに位置付けられた。その後経産省の「原子力立国計画」や文部科学省の「原子力に関する研究開発の推進方策」により政策の具体化が図られ、2025年頃の実証炉運転開始、2050年までの商業炉実現を目標に、高速炉研究開発が進められている。

(2)FaCTプログラム

 日本では、この政府の基本方針に基づき、2050年までに実用化を目指した日本の高速炉開発プログラムFaCT(Fast Reactor Cycle Technology Development Project)を着実に推進している。このFaCTプロジェクトでは、従来の高速炉プラントに、さらなる信頼性や安全性の向上に加え、将来の大型軽水炉に匹敵するだけの経済性レベルを備えたプラントを目指している。そのため、従来の高速炉プラントにはない新たな提案として、13の革新技術を炉システム側に、また12の革新技術を燃料サイクルシステム側に採用する方向で開発を進めている。FaCTの開発スケジュールを図3に示す。2010年までにその革新技術の採用可否判断を行い、採用可能性のある革新技術について2015年までに成立性を見極める方向で技術開発を進め、並行して実証炉プラントの概念設計を開始する予定である。

図3 高速増殖炉サイクルの研究開発計画
図3
4.国際協力
(1)基本的な考え方

 前述の背景の下、世界的な協力が広がりつつある。
 実際高速炉の技術開発には、その開発費用負担が重く、核不拡散に対する世界的な影響の大きさを考慮すると、国際協力が必須であるとも思われる。日本では、文科省の国際協力の基本的な方針が次のように示されている。

 この基本方針に則り、日本は積極的な国際展開を図っている。図4に、現在実施している国際協力の一例を示す。具体的には、多国間協力としての、GIF(第四世代原子力システムに関する国際フォーラム) 、INPRO(革新的原子炉および燃料サイクルに関する国際プロジェクト)やTWG-FR(高速炉技術ワーキンググループ)のIAEA(国際原子力機関)があり、日本としては、この中核的役割を果たすとともに、日米仏の三カ国協力やフランスCEA(原子力庁)や米国DOE(エネルギー省)との連携を活用しつつ、世界標準概念の構築に向けて活動を行っている。

図4 GIFと日米仏3カ国間で協力する技術
図4
(2)GIF

 この中でもGIFは代表的な多国間協力であり、2000年1月に米国DOEの提唱で、将来の先進的な原子力システム概念の検討のために設立され、第4世代原子炉に関する研究開発を各国で分担し、共同開発・情報交換等の促進を目的としたものである。
 ここで第4世代原子力システムとは、持続可能性(燃料の効率的利用、廃棄物の最小化)、経済性(ライフサイクルコストの優位性)、安全性/信頼性(安全/信頼できる運転、敷地外緊急時対応の不要)、及び核拡散抵抗性と核物質防護の4つの目標を満足する原子力システムである。GIFでは、共同開発の対象としてナトリウム冷却高速炉を含む6概念が選定されている。ナトリウム冷却高速炉には、現在日本、米国、フランス、韓国、EU、中国が参加している。
 GIFの運営組織体制を、図5に示す。全体の運営方針を決定し、最高の意思決定機関である政策グループ (PG :Policy Gr)を中心として、その下部組織としての専門家グループ (EG:Expert Gr)があり、各システムの共通テーマについて協議を行っている。またこの他に、システム毎に設置されているシステム運営委員会(SSC:System Steering Committee)、産業界から参加している上級産業諮問パネル(SIAP:Senior Industry Advisory Panel)等により構成されている。
 今後は大きく発展をしていくアジア圏での協力を如何に進めていくかがポイントとなり、日本の高速炉開発のためにも、このGIFを有効に活用していくことが、ますます重要になってくると考えている。

図5
図5 GIFの運営組織
以上
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