原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

中性子照射超伝導材料の高磁場、極低温下での物性に関する研究

(受託者)国立大学法人東北大学
(研究代表者)四竈樹男 金属材料研究所
(再委託先)独立行政法人自然科学研究機構核融合科学研究所
(研究開発期間)平成20年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 原子力システムの成熟化、高度化に伴い、多様な機能性材料が過酷な放射線環境下で使用されることが現実的な工学課題として検討されるようになってきている。核融合炉は多くの物理・工学課題を抱えてはいるが、エネルギ資源に乏しい日本においては大きな可能性を秘めた魅力的なエネルギ源であり、関連する技術開発を先導的に進めることはこの分野において、世界的なイニシアティブをとる上で極めて重要である。現在最も有望視される磁場閉じこめ型核融合システムの成立性を決定づけるものの一つに経済性に優れる超伝導マグネットシステムが挙げられる。ITER計画の進展、DEMO炉設計へ向けた具体的作業の開始などを契機として、超伝導マグネットシステムの使用条件の詳細が明らかになってきており、その中で核融合反応から発生する中性子による照射効果の重要性が強く認識されるようになってきている。
 中性子照射により超伝導マグネットの電気磁気特性は大きく変化することが古くから知られているが、強く放射化された試料の電気磁気特性を使用環境に相当する強磁場、極低温で評価した例は皆無に近い。これは、超伝導マグネットは超伝導材料、電流安定化材料、電気絶縁材料などの多様な素材の複合体から構成されるが、素材そのもの、及びマグネット製造の過程において導入される触媒的添加剤などが中性子により非常に強く放射化されること、その一方、強く放射化した材料、システムを取り扱えるホットラボにおいて、強磁場を発生できる実験システムが整備されていないこと、に起因している。
 超伝導マグネットは日本が世界最先端の技術を誇る分野であり、原子力分野での実用化は核融合システムのみならず、核分裂システムにおいても、システムの経済性向上、信頼性向上に大きな正のインパクトを与えることが期待される。本研究では、新たな研究分野への展開を図るための基盤設備として、強磁場、極低温試験設備をホットラボ内に設置する。そして、超伝導磁石を応用した原子炉構造検査システム開発、核融合炉用超伝導磁石開発などの基礎研究を実施するとともに、中性子照射した超伝導コイル材料などの極低温物性研究、極低温高磁場物性研究を行う。
 研究の概要としては、ホットラボの有効活用の一つとして、将来的にはJMTRに極低温照射場が整備されれば、極低温で照射し、極低温で照射後特性評価が行える一連の試験環境となり、極めて極限に近い非常に特殊な環境を組み合わせた世界で始めての研究施設となることを目指して、極低温、強磁場下での物性研究設備をホットラボに導入し、極低温材料、超伝導材料の物性研究、核融合や加速器用超伝導コイル応用などを目指した設計データベースの構築、超伝導材料を用いた原子炉内構造の健全性評価システムの開発研究などの新しい研究分野へのホットラボの新たな利用展開を図る。最終年度までに整備された設備を用いて、実用レベルまで原子炉照射された放射化超伝導材料の強磁場下での挙動に関するデータを取得し設備整備の有効性を実証することを目的とする。

2.研究開発成果
図1
図1 照射された超伝導材料の磁場中での臨界電流の測定例
図2
図2 作成した15.5T無冷媒超伝導マグネットの概観と発生磁場の確認

 東北大学金属材料研究所附属量子エネルギー材料科学国際研究センターは日本原子力研究開発機構大洗研究開発センター内に立地し、三基の大型研究原子炉に近接した大学関連の共同利用施設として40年に亘り機能してきている。比較的大規模にRI及び核燃料を取り扱える大学関連唯一の施設として,また、実用レベルの原子炉照射を行え、かつ連携した照射後試験を行える施設として、全国の大学関連研究者のホット研究の場を提供してきている。図1に本事業を実施する契機となった、研究成果の例を示す。一般的に中性子照射により、超伝導特性は劣化(臨界磁場、臨界電流の減少)することが予想されてきているが、ここに得られた世界初の結果では、劣化の生ずる前に磁場中での臨界電流が増大する場合があることが明らかとなった。この結果から、従来のような照射後の超伝導特性を電気抵抗の温度依存性のみから評価する手法は超伝導材料に対する中性子照射効果を理解するには極めて不十分であることが明らかとなった。この結果から、少なくとも15T以上の磁場において、200Aを超す臨界電流を測定できるシステムをホットラボに整備する必要が痛感され、本事業の実施となった。想定される磁場下での大電流測定が可能な、無冷媒超伝導マグネットの概要を図2に示す。

図3
図3 試作された温度可変インサートの概要
図4
図4 インサートに導入した電流とインサート内各部位の温度状況

 大洗センターでは通常超伝導関連の研究を行うに不可欠な液体ヘリウムの入手が困難なこと、比較的コストが高くなることなどから、共同利用のランニングコストを合理化するために無冷媒超伝導マグネットを整備したが、それを用いて大電流の臨界磁場、電流測定を行うためには、試験片温度を適切に制御し、大電流通電が可能な温度可変インサートの開発が不可欠である。開発に向けた温度可変インサートの試作品の概要を図3に示す。
 試作された温度可変インサートへ大電流を流した時の、インサート各部位の温度分布の測定結果を図4に示す。測定結果から、許容しうる温度上昇内で300Aまでの電流導入が可能なことを実施用した。この時、電流変化に対する温度変化の動特性を図5に示す。電流変化に対応した発熱分布変化を補償する形で、インサートが適切に機能し、一定温度を保持することが確認された。一方、500Aまでの電流を流し、且つ試料部位を4.2K以下に保持するには2台の冷凍機を作動させる必要があることが明らかとなった。(図4)
 全体の設備整備は本年末までにほぼ修了し、設備整備と併せて進めてきている超伝導材料原子炉照射もほぼ予定通り進捗している。本事業修了までに、原子炉照射した試料を用いた実験を実施し、本設備が予定通り稼働することを確認する一方、世界で初めての原子炉重照射された試料の高磁場中での超伝導特性評価を行う予定である。

3.今後の展望
図5
図5 電流変化に対する温度制御挙動。
300Aまで良好な制御挙動を確認した
図6
図6 本事業に関係する研究者ネットワークの現状

 本事業で放射線管理区域内に整備された超伝導マグネットは世界唯一の設備であり、今後、これを利用して国内外からの多くの共同利用研究者が大洗センターを訪れることが強く期待される。これらの研究を通じて、超伝導材料に対する中性子重照射効果に関する包括的な理解が得られると同時に、核融合炉開発に不可欠な工学的データベースが構築されるものと強く期待される。
 一方、本事業をより有効な研究手段とするためには、原子炉内極低温照射の実現が重要となる。現在までに、日本原子力研究所大洗研究開発センターとJMTR内の極低温照射設備実現に向けて方策を検討してきている。ある程度の資金的裏付けが必要な計画であり、一朝一夕に実現することは難しいが、今後とも関係研究コミュニティとの連携を深めつつ実現に向けて努力してゆきたい。また、本事業と平行して、原子力環境で使用される超伝導材料開発に向けた研究ネットワークを立ち上げつつある。ネットワークの現状を図6に示す。このネットワークを通じて、大洗センターの共同利用がより一層活性化することを強く期待している。

4.参考文献

1) T. Shikama, et al., "Installation of superconducting magnet system in Oarai Branch for irradiated superconducting wires with high energy neutrons", presented at Symposium on Fusion Technology (SOFT)-26, Porto, Portugal, Sept. 27-Oct. 1, 2010.

2) A. Nishimura et al., "Neutron and gamma ray irradiation effects on interlaminar shear strength of insulation materials with cyanate ester-epoxy blended resin", ibid.

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