原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

先進燃料被覆管材料の水素化および照射効果の解明に関する研究

(受託者)国立大学法人東北大学
(研究代表者)阿部弘亨 金属材料研究所
(再委託先)国立大学法人東京大学、国立大学法人大阪大学、
独立行政法人日本原子力研究開発機構、ニュークリア・デベロップメント株式会社
(研究開発期間)平成21年度〜23年度

1.研究開発の背景とねらい

 原子炉燃料は熱源機能だけでなく放射性物質の閉じ込めという原子力安全を確保する上で本質的に重要な機能を有している。燃料の高度化は、「その機能を確保しつつ増大する負荷に対応できる燃料を開発するとともに、安全基準の合理性の向上を図ることで国民の信頼を高めていくものであり、原子力発電への社会的ニーズに応えていくために、産官学がとるべき対応策」として位置づけられ、原子炉出力向上と廃棄物発生量低減による経済性向上、すなわち燃料の高燃焼度化が求められている。燃料高度化に当たっては、高負荷に対応可能な被覆管材料の開発に加えて安全基準の合理性と信頼性の向上が必要であり、これらの開発と規制の両者に資する科学的な説明性と合理性を確保するために基礎的研究による機構論の構築が不可欠である。
 そこで本研究では、PWR用次世代燃料被覆管材として現在検討が進められている表1に示す組成のZr-Nb系合金を研究対象とし、その腐食、水素化、照射損傷といった劣化事象を機構論的に明確にし、実機への適用性と合理的規制の双方に資する知見を得るという目標を立てた。機構解明に当たり事象の素過程を定性的、定量的に明らかにするため、ナノからマクロまでを実験と理論の双方からカバーする研究グループを構成した。各要素研究のマルチスケールインテグレーションに対して研究当事者だけでなく、開発と規制の双方の観点からの意見の反映が可能となる体制とし、Zr-Nb合金燃料被覆管の基礎的理解を進め、実機適用性を検討することとした。
 本研究では以下の各タスクの研究を実施した。
 A.腐食挙動解析(腐食速度評価および酸化膜性状分析、強度評価など)
 B.水素化物解析(性状決定、形成挙動、物性測定、強度評価など)
 C.照射挙動解析(照射損傷の蓄積と硬化、水素化物形成への影響、照射成長など)
 D.上記項目を統合した機構モデル化と工学的評価
今年度は、腐食研究から吸蔵水素量を評価し、照射挙動と合わせて水素化を評価した(A、B)。また、照射硬化と、水素化物と析出物の照射挙動に着目した評価、および欠陥評価を行った(B、C)。総合評価として研究の位置づけや方向性を確認した(D)。

2.研究開発成果

(1) 腐食挙動解析
 Zr-Nb合金を各タスクに配布するとともに、最大500時間程度までの腐食試験を実施し、図1に示すように腐食量が腐食時間の1/3乗に比例して増大し、ジルカロイとほぼ同等であるという結果を得た。超微小硬度計により腐食試験材の機械強度を測定し、またSEM/EBSPを用いて腐食試験材の表面組織観察と性状分析を行い、図2に示すように水素化物の性状が既往研究と同様であることを確認した。


(2) 水素化挙動解析
 水素化試験装置を用いてZr-Nb合金を水素化させ、吸収水素量を測定し、図3に示すようにZr-1.6Nb-0.1Crの水素吸収速度が最大となり、360℃以下ではZr-2.5Nbの水素吸収速度が最小、また、Zr-1.8Nbと低Snジルカロイ-4が同程度の傾向であることを確認した。腐食試験材に対し腐食に伴う母材への吸収水素量を測定し、腐食量と水素化量の関係を測定した。水素化材の機械強度を測定し、図4の結果を得た。SEM/EBSPを用いて表面組織を観察し、別途作製する水素化ジルコニウムと比較し、当該材料中の水素化物の性状を分析し、腐食試験と同様の結果を得た。集束イオンビーム加工装置を用いて試料を加工し、アトムプローブ装置を用いて水素化物と母相との関係を分析し、水素分布に関して図5の結果を得た。加速器結合型電子顕微鏡を用いて水素注入その場観察実験を実施し、水素化物の形成過程を調査した。試料作製のためのアブレーションチャンバーを作製した。
 第一原理計算によりZr母相中のZr水素化物の安定性およびZr母相に対するNb原子の影響を調べ、Zr-Nb合金中の固溶Nb原子の近傍ではバルクhcp Zr結晶中とほぼ同じ水素拡散挙動を示すことを確認し、純Zrにおける水素化物形成過程と同様、母相の積層欠陥等と水素との相互作用が起点となる可能性が大きいことが明らかになった。また、Zr-H系の原子間ポテンシャル作成のための調査を行った。


(3) 照射挙動解析
 タンデトロン型イオン加速器を用いてZr-Nb合金に対しZrイオン照射を行い、図6に示すように照射初期における機械強度の上昇とその後の飽和傾向を確認した。また電子顕微鏡を用いて微細組織を観察し、照射下でのミクロ組織の安定性に関する結果を得た。集束イオンビーム加工装置を用いて試料を加工し、アトムプローブ装置を用いて照射下でのナノ組織変化に関する情報を取得した。
 第一原理計算によりZr母相およびNb析出物の結晶構造を図7のように決定し、空孔生成エネルギーを計算した。低温安定相のhcp Zrとbcc NbにおいてXinらの計算値とよく一致する結果が得られた。


(4) 実機適用性および基準合理化の検討
 上記の成果を総合し、腐食と水素化の相関関係を得、水素化試験による実機環境模擬の妥当性を検討した。水素化物析出挙動と照射組織発達の各タスクの成果を取りまとめ、ナノ・ミクロ構造とマクロ特性の相関を明らかにした。本事業構成員および外部委員からなる成果検討委員会を開催してこれらの成果を検討するとともに、本事業成果を実機環境劣化評価へ適用するにあたっての問題点や課題を抽出し、次年度以降の試験条件等の策定を行った。

3.今後の展望

 平成21年度は当初計画通りの研究進捗を得、平成22年度以降も引き続き当初計画に基づいた業務を実施している。

表1 本研究で用いる材料の組成
表1
図1

図1.腐食増量の腐食時間依存性。加速腐食が始まる前の初期腐食段階では合金間に大差ないことが分かった。

図2

図2.EBSDによる水素化物観察と晶癖面決定。
水素化物が貫粒型に成長していること、水素化物の性状はジルカロイの既往研究と同じであることを確認した


図3

図3.水素吸収速度のアレニウスプロット。金属表面からの水素吸収特性はジルカロイと同等であった。

図4

図4.ナノ硬度の水素吸収量依存性。Crを含有するJ2材では硬度の立ち上がりが早いことが確認された。


図5

図5.アトムプローブを用いて測定した水素化材の3次元アトムマップ(試料はJ-3、水素吸収量は500 ppm)。析出物を含まない母相においては水素が原子レベルで均一に分散していることを確認した。

図6

図6.4MeV Ni3+および1MeV O+イオン照射によるナノ硬度の照射量依存性。照射温度573K。いずれの照射条件も照射初期の硬化とその後の飽和傾向を確認した。Niイオン照射の方が硬度上昇が高く、はじき出しカスケードの効果が観察されたと考えられる


図7

図7.原子体積(原子一個あたりの体積)と全エネルギーの関係。(a) Zr, (b) Nb。それぞれの物質に対してfcc, bcc, hcp構造を仮定し、いくつかの原子体積のときの全エネルギーを第一原理から計算し、Zrはhcp構造が、Nbはbcc構造が安定であることを確認した。

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