原子力システム研究開発事業

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平成22年度成果報告会開催

原子力システム研究開発事業及び原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ 成果報告会資料集

放射光を用いたFBR炉心構造材料に関する研究

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)菖蒲敬久 日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門
(研究開発期間)平成21年度〜22年度

1.研究開発の背景とねらい

 エネルギー資源に乏しい日本において、高速増殖炉(FBR)サイクル技術を確立することにより、長期的なエネルギー安定供給を確保することは国の存立基盤をなす重要課題である。このFBRにおける技術開発課題の1つとして、「高燃焼度化に対応した炉心燃料の開発」が掲げられ、炉心燃料被覆管の最有力候補材料として酸化物分散強化型フェライト鋼(ODS鋼)が提案されている。ODS鋼は、高温・中性子照射環境下において高いクリープ強度特性および優れた耐照射特性をもつことから、炉心部における環境が最高温度約700℃、はじき出し損傷量が最大で250dpaの過酷な環境に対しても十分に耐えうることが期待されている。一方、これまでの研究の結果、ODS鋼の高いクリープ強度特性は、ナノメートルからマイクロメートルサイズの酸化物粒子による分散強化(析出強化)に起因し、酸化物粒子のサイズが小さく、数密度が多くなるほど強度特性は向上することがすることがTEM写真、SEM写真などから明らかになっている。ODS鋼は、合金粉末(Fe-Cr-W-Ti系)と酸化物粉末(Y2O3)を高エネルギーボールミル処理(Mechanical Alloy処理:MA処理)し、回収した粉末(MA粉末)に熱間固化と冷間加工を付与して製品に加工するが、注目する酸化物粒子はMA粉末のなかでは分解してフェライト鋼母相に半強制固溶した状態にあり、熱間固化過程における高温加熱時にナノサイズに析出すると考えられている。これを確認するために、熱間固化過程の温度と時間を制御して作成したODS鋼について、中性子小角散乱(SANS)実験や大型放射光施設(SPring-8)を用いた放射光小角散乱(SAXS)実験を行った結果、ある温度領域より数ナノメートルの結晶粒が現れること、SPring-8におけるX線回折(XRD)実験の結果から、その結晶粒がY-Ti-Oで構成される酸化物であることを確認した。よって、ODS鋼の製品性能は、熱間固化過程の温度と時間の履歴を最適化、言い換えれば、熱間固化過程の制御の良否で決まるといえる。
 そこで本研究では、ナノサイズ酸化物粒子の析出・変態機構を明らかにするため、材料製造過程である高温中におけるXRDおよびSAXS同時測定による評価技術を確立し、別途測定するX線吸収微細構造(XAFS)の結果と組み合わせて、各試料のナノ組織を定量的に評価する。その結果から相図を作成し、マトリックス効果や酸化物粒子の体積率およびサイズ分布を総合的に評価する。そして、ここで得られた知見を活用しつつ、数ナノメートル程度の超微細酸化物粒子を一定に分散させることによって安定された品質のODS鋼被覆管の量産化が可能になると期待している。

2.研究開発成果
2−1.XRDおよびSAXS高温その場同時測定システムの開発とODS鋼材料評価

 SPring-8内原子力機構専用ビームラインBL22XUに、リアルタイム2次元検出器であるPilatusの2台利用と原子力機構が所有するXRD、SAXS用高温炉を導入することにより、XRDおよびSAXS高温その場同時測定システムを構築した。またデータの質の向上のために、試料ホルダーの改造、電気炉内部にコリメータの設置などの工夫を加えるなど製造プロセスの最適条件導出に役立つデータ取得に必要な高温その場観察システムの最適化を行い、最速1分で高温中で生成される酸化物からの微量なシグナルを計測することに成功した。
 一方、熱処理条件の異なるODS鋼を別途作成し、これらの室温測定を実施することにより、熱処理で析出する酸化物粒子の種類、割合、サイズを明らかにした。この結果と上述のその場測定の結果はほぼ一致していることから、作成したシステムで、XRDでは高温中で発生する複合酸化物からのシグナルの観察、SAXSではQ=1付近のスペクトルの変化の観察から、本研究の目的であるODS鋼被覆管製造プロセスの最適温度条件を決定の見通しを得ることができた。

2−2.XAFS法による材料評価

 2−1.の相補的な測定として、SPring-8内原子力機構専用ビームラインBL14B1を用いて熱処理条件の異なるODS鋼のXRFS測定を実施し、生成される複合酸化物の種類を特定した。その結果、XAFS法で得られた酸化物と2−1.の高温その場観察で得られた酸化物の種類がほぼ一致していることから、2−1.で作成したシステムで高温中で析出するナノサイズ酸化物粒子の高温熱処理中の析出機構を明らかにできることを確認できた。

図1
図1 高温その場同時測定システム
図2
図2
3.今後の展望

 今回作成した測定システムを用いて、様々な温度時間条件における計測を繰り返し実施することにより、複合酸化物分散粒子の最適な生成条件の導出を図る。

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