原子力システム研究開発事業

HOME研究成果平成21年度成果報告会開催目次>FBR燃料再処理のためのタンパク質機能付加SAMの創生

成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

FBR燃料再処理のためのタンパク質機能付加SAMの創生

(受託者) 独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者) 坂本文徳 先端基礎研究センター 研究副主幹

1.研究開発の背景とねらい
図1
図1 SAMによるウラン回収の概念図

 本事業では、FBR使用済燃料溶解液中からアクチノイドを効率的に吸着する生体物質の一つであるタンパク質を付加させた自己組織化単分子層(SAM)を創生することである(図1参照)。そして、当該SAMを利用することにより、アクチノイドの分離・回収を効率的に行える技術の開発に資することである。
 核燃料サイクルの実用化研究開発における燃料再処理の工程では、先進湿式再処理法が有望なシステムの一つとして研究され、晶析、MA分離回収、U-Pu-Np共回収等の技術を組み合わせたプロセスが試験されている。また、公衆及び作業者の放射線防護及び環境保全の観点から、現在のPUREX法の代替法として、幾つかの基礎研究が提案、実施されている。例えば、配位子やキレート樹脂、抽出剤の開発が行われている。しかし、それらの技術にはなんらかの解決するべき問題点があり、実用化にはまだかなりの時間とブレークスルーが必要であると考えられる。配位子やキレート樹脂の代わりに微生物を用いる代替法が研究されているが、生物そのものを利用することによる制限も大きい。これらの現状を踏まえ、先進湿式再処理システムに生物そのものではなく、生物から抽出した生体物質を利用した新たな技術を提案した。

2.研究開発成果

2.1 吸着タンパク質特定試験
①寒天培地を用いたウラン吸着試験
 ウラン存在下でも成長が顕著な酵母を100以下まで絞り込む1次スクリーニングを行い、ウラン耐性酵母98株を選別した。選別したウラン耐性酵母は、ウラン濃集度の高い酵母(83株)とウラン濃集度の低い酵母(15株)に分別した。
②ウラン吸着試験
 1.①で選別した98株から、酵母の成長割合、酵母へのウランの濃集割合、ウラン分布の比較によりウラン耐性酵母6株を選別した。
③タンパク質抽出特定試験
 ウラン耐性株に特異的に発現するタンパク質を10種類特定し、そのうち6種類を同定した。同定したタンパク質は、YCR012W、YGR192C、YHR008C、YJL052W、YLR109W及びYMR116Cであった。さらに、これら6種類のタンパク質を液体クロマトグラフィーにより大量に抽出・精製した。

2.2 タンパク質機能付加SAM創生試験
①結合性官能基保持化合物を修飾したSAM作製
 金薄膜上に4種類の結合性官能基(4-ピリジンチオール、10-カルボキシル-1-デカンチオール、11-アミノ-1-ウンデカンチオール及び11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール)を、浸漬時間を変えて(4-ピリジンチオール:2、5、10 min、1 h;10-カルボキシル-1-デカンチオール及び11-ヒドロキシ-1-ウンデカンチオール:10 min、1、10、15、20、25 h)修飾したSAMを作製した。作製したSAM−金薄膜を電極としたサイクリックボルタモグラムには官能基が金薄膜から解離する電流が検知された。したがって、金薄膜上にSAMの形成を確認できた。
②タンパク質機能付加SAM作製
 2.1③で大量に抽出・精製したタンパク質を、上記4種類の結合性官能基で形成したSAMと反応させた後、UV/VIS表面・界面測定装置によるUV/VIS吸光スペクトル及び電位−電流曲線を測定した。YCR012W、YJL052W、YLR109W及びYMR116Cは10-カルボキシル-1-デカンチオール上に吸着し、電位―電流応答が得られた。これにより、これら4種類のタンパク質を付加したSAMの作製に成功した。
③アクチノイド濃集試験
 2.2②で作製したタンパク質機能付加SAMへのウランの吸着状況をUV/VIS吸光スペクトル及び電位−電流曲線で観測した。その結果、電位−電流曲線からタンパク質にウランが吸着していると考えられるピークを検出した。吸着したウランの表面密度を計算するとYCR012W、YJL052W、YLR109W及びYMR116Cのそれぞれに対して3.63×10−11、1.25×10−9、3.01×10−11及び 3.16×10−11 mol/cm2となった。この結果、これらのタンパク質機能付加SAMの中でもっとも濃集割合が高いのがYJL052Wで、もっとも濃集割合が低いのがYLR109Wであることを特定した。
 ウラン/ネプツニウムの分離係数を求めるため、ウランあるいはネプツニウムを含むアクチノイド溶液を調製し、その溶液にウラン濃集割合の一番高いYJL052Wあるいは一番低いYLR109Wタンパク質を添加した。溶液中のウラン及びネプツニウムの濃度変化から分配係数を算出し、その比からウラン/ネプツニウムの分離係数を求めた。その結果、ウランの濃集割合が最も大きかったYJL052Wの分離係数は約1000であり、最も小さかったYLR109Wの分離係数は約300であった。
 約520 kGyのγ線を照射したSAMと未照射のSAMを比較した結果、電位―電流曲線に優位な差は現れず、この線量のγ線ではウラン濃集に対する放射線の影響はないことを確認した。また、同様に約240 kGy のヘリウムイオン(α線)を照射したSAMと未照射のSAMを比較した結果、この線量のα線ではウラン濃集に対する放射線の影響はないことを確認した。これらの結果は、照射した放射線量では、タンパク質付加SAMに構造上の変化は現れなかったことを示している。したがって、γ線及びヘリウムイオンすなわちα線では本試験で行った線量までは、ウラン濃集に対す影響はないと考えられる。実際の再処理過程での照射線量は、100 kGyから1000 kGyと考えられている。これらの線量と本試験で実施した照射線量を比較すると、タンパク質を付加したSAMは充分な耐放射線性を有していると考えられる。

3.今後の展望

 本事業で得られた成果を簡潔にまとめると以下の通りとなる。1)ウランを含む寒天培地と液体培地での培養によりウラン耐性酵母8株を選定した、2)ウラン存在下で特異的に発現するタンパク質を10種類特定し、そのうち6種類を同定した、3)6種類のタンパク質と4種類の結合性官能基を付加したSAM作製を試験し、4種類のタンパク質付加SAMの作製に成功した、4)その中でYJL052W付加SAMが高いウラン濃集性を示すこと、ネプツニウムとの分離能が高いことを明らかにした、5)520 kGyのγ線、240 kGyのα線を照射してもタンパク質付加SAMは変化しないことを明らかにした。
 これらの結果を踏まえ、今後、本技術に基づき革新的な再処理システムを開発するためには、以下の項目に留意する必要がある。
 1. 本事業ではタンパク質機能付加SAMを用いて、アクチノイドの分離・回収能を評価する試験が主であった。核燃料再処理システムの各プロセス条件(硝酸濃度、共存アクチノイド、FPイオン、操作温度、放射線量など)を考慮し、その条件に合わせた最適条件を決定するなどの試験が必要である。
 2.本事業では、ウランとネプツニウムに焦点を絞って研究を進めた。一方、再処理での対象核種はアクチノイドばかりでなく核分裂生成物(FP)も多くある。本開発技術により、ウラン/ネプツニウム以外のアクチノイド及びFPについて分離・回収能を検討する必要がある。
 3. 耐放射線性は、再処理溶液の性状により大きく変わってくる可能性がある。実際の再処理溶液を利用した耐放射線性の評価を行う必要がある。


Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室