原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

ガス冷却高速炉用先進材料のナノメカニクス接合解析技術の開発

(受託者)国立大学法人北海道大学
(研究代表者)柴山環樹 エネルギー変換マテリアル研究センター 准教授
(再委託先)独立行政法人原子力研究開発機構、国立大学法人京都大学

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、高効率発電や水素製造等の多目的な利用に対応できる高温ガス冷却高速炉を実現するために重要な、ガス冷却高速炉用SiC/SiC複合先進材料の接合技術とその接合解析技術の開発を目的とし、実機を模擬した照射を行いながら先進材料内のクラック進展や破壊挙動をその場観察評価できるナノメカニクス接合解析技術を開発するとともに、SiC/SiC複合材料の接合試験片のナノメカニクス接合解析評価と高速実験炉「常陽」で中性子照射済みのβ−SiCの微細組織の評価を平成17年度から平成19年度まで実施した。以下にその研究開発の背景とねらいについて述べる。
 高速炉燃料サイクルの実用化のためにナトリウム冷却を基本とする原子力システムを中核に据え、ナトリウム冷却以外の高速炉システムについても、その成立性や可能性について概念設計や基礎研究開発活動が進められている。その中でも高温ガス冷却高速炉は、850℃から1300℃の範囲に渡るガス取り出し温度を実現できる可能性があり、その結果(1)画期的な高効率発電を実現できるガスタービンを利用できること、(2)水蒸気改質などの水素製造の熱源として利用できること、(3)高温ガス炉で計画された鉄の直接還元への適用可能性等、既存の化石燃料発電設備や化学プラント及び製鉄設備では実現することが困難な環境調和型の非常に高い社会適合性を有する工業基盤を構築できる可能性を有していると考えられている。しかしながら、既存の金属系高温材料では、炉心構造体はもちろんのこと、炉心機器構成材料への適用も実現困難である。そこで、「ガス冷却高速炉用先進材料」として最近開発された画期的な先進材料であるセラミックス系のSiC/SiC複合材料が期待されている。そこで、①実機を模擬した照射を行いながらSiC/SiC複合材料等のクラック進展や破壊挙動をその場観察評価できるナノメカニクス接合解析技術を開発し、これにより、②SiC/SiC複合材料等の先進材料の破壊挙動を理解し、③クラック進展を抑制する対策を施すことによって破壊強度を改善した更なる特性を有する先進材料を実現することを主たる本研究開発のねらいとした。

2.研究開発成果

 本事業実施に当たって主委託先である国立大学法人北海道大学の他に、本事業の目的達成のために2つの項目を設け、それぞれ関連の研究分野に実績のある国立大学法人京都大学と独立行政法人日本原子力研究開発機構を再委託先として契約を行い、平成17年度から平成19年度まで精力的に各機関と緊密に連携しながら研究開発を実施した。以下にその概要を述べる。
 ガス冷却高速炉用先進材料の接合特性を評価するために、先進セラミックス複合材料であるSiC/SiCとW等の接合材料に要求される特性に基づき、ナノメカニクス接合解析装置の開発目標を設定し設計を行い、装置作製とその評価を行った。図1は、本事業で開発したメカニクス接合解析試験装置と集束イオンビーム装置(FIB)で加工したナノインデンターのSEM写真を示す。このナノインデンターを用いて、電子顕微鏡内で図2に示すように接合界面でせん断変形させ、クラックの発生やその進展をその場観察した。この結果を基に、クラック進展の抑制方法を検討した。

図1
図1. 本事業で開発したメカニクス接合解析試験装置(左)とナノインデンターのSEM写真(右)

図2
図2. SiC/W接合界面のクラック経路
図3
図3. 実機サイズのNITE SiC/SiC複合材料管/W製の端栓接合体のカットモデル

 図2に示すように、本事業で開発したナノメカニクス接合解析試験装置により、初めてSiC/W接合界面のクラック進展経路が明らかになった。この結果を基にクラック抑制方法を検討し、新たに堅牢な接合界面を設計することによってせん断強度を改善した材料の研究開発を進めた。図3は、最終年度に作製を試みた実機サイズの接合体である。外径10mmのNITE SiC/SiC複合材料の管とW製の端栓を接合したピン型燃料のプレナム部模擬構造である。本事業で実施したナノメカニクス接合解析試験の結果から、反応層の形成を抑制すると共に反応層内に形成した析出物を微細化することによって接合強度を向上させる接合条件を見出した。この様な強靭で健全な接合が実現できれば、プレナム部を短くする設計が可能となり、ガス冷却高速炉の炉心コンパクト化に期待されている。本研究に類似する研究は国内外において皆無であり、SiC/W接合界面のクラック進展のその場観察は、世界的に初めてである。
 以上、当初計画した事業項目を全て実施し、所期の目標を達成した。

3.今後の展望

 本事業で研究開発したナノメカニクス接合解析技術はガス冷却高速炉を実現する上で極めて重要である。また、この接合解析技術はガスタービンシステム、航空宇宙の機能材料の接合、半導体デバイス、生体器官等の力学的特性を計測するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)への応用等スピンオフも期待さており、本事業のナノメカニクス接合解析技術は他の技術分野との融合効果や波及効果が期待出来る。

4.参考文献

ナノメカニクス接合解析技術の開発とガス冷却高速炉用SiC/W接合部材の開発、柴山環樹、矢野康英、岸本弘立、香山晃、まてりあ、47巻12号(2008)掲載決定


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