原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

その場補修可能なナノ・マイクロ複合微粒子防食被覆法の開発

(受託者)国立大学法人京都大学
(研究代表者)笠田竜太 エネルギー理工学研究所 助教

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、鉛ビスマス冷却高速炉(LBE-FR; Lead-Bismuth Eutectic cooled Fast Reactor)の実用化において大きな課題である構造部材の液体金属腐食を防ぐために、「ナノ・マイクロ複合微粒子(NMCP; Nano- and Micro- Composite Particles)防食被覆法」を開発する。更に、NMCP防食被覆の「その場補修」を可能とする「ナノ粒子分散システム」に関する基礎的技術開発を行う。
 冷却材に液相の鉛ビスマス共晶合金(LBE)を採用するLBE-FRは、LBEの優れた核的特性に加えて、沸点が高いことや水や空気との反応性が極めて低いことによる優れた安全性が期待できることから、次世代原子力システムの候補の一つとして取り上げられている。LBE-FRを実現するためには、LBEに接触する炉心材料や構造材料の液体金属腐食や液体金属脆化を防ぐための材料開発及びシステム開発が極めて重要な研究課題である。これまでに、東工大グループ等によってSUS316Lに代表されるオーステナイト系ステンレス鋼とLBEとの共存性の検討が行われているが、主要合金元素であるニッケルがLBEに対して高い溶解度を持つため、そのままでは適用が困難であることが明らかになっており、新材料や防食技術の開発が期待されている[1]
 LBE-FRにおける材料腐食問題を克服する方策としてこれまでに検討されてきた技術を分類すると、A)高耐食性材料の開発、B)腐食環境条件を緩和するシステム開発、C)防食被覆の開発、の3通りに分かれるがそれぞれに課題も多く[2-6]、また被覆の補修まで考慮した技術開発は見当たらない。そこで本事業では、様々な構造材料への被覆を可能にするような低温プロセッシングが期待出来るゾルゲル法によって高耐食性Al2O3被覆の形成を目指したプロセス条件の探索を行うとともに、LBE中へのAl粒子添加による被覆のその場補修の可能性について検討すべく、①ナノ・マイクロ複合微粒子防食被覆法の開発、②鉛ビスマスに対する耐食性評価、③ナノ粒子分散システムによる防食被覆その場補修法の開発、を研究開発項目として設定した。

2.研究開発成果

 ①においては、被覆形成に適切なゾルゲル溶液の組成や混合条件等の探索を行った。併せて、ゾルゲル溶液にシーディング材として添加するAl2O3微粒子を遊星型ボールミルによって製造し、数10nmから数10μmの大きさの分布を持つ複合微粒子が得られた。これらのゾルゲル溶液とシーディング材の混合溶液を用いた改良型ゾルゲル法によって、Ni基合金(インコネル600)に対してNMCP被覆形成条件の探索を行った結果、通常のゾルゲル法(シーディング材無し)では1000℃以上の焼結温度が必要であるαAl2O3を、400〜450℃という極めて低温において形成させ、NMCP被覆を得ることに成功した。更に現在では、より微細なシーディング材を用いることによって、図1の走査型電子顕微鏡(SEM)像に示すようにより緻密なNMCP被覆を得ることに成功している。
 ②においては、平成18年度に開発した回転型腐食試験機を用いて、回転速度を500rpm(供回りを考えない場合、LBEの試験片に対する相対流速は数m/sに相当)として、500℃、100hまでのNMCP被覆に対するLBE腐食試験を行った。図2のSEM像と化学分析結果に示すように、平成19年度までに試作したNMCP被覆(図1右側に相当)において明らかな腐食は見られないものの、被覆中の粗大な粒子の表面付近に僅かながらLBEの浸漬が確認された。緻密性を改善した新しいNMCP被覆(図1左側に相当)の耐食性試験を実施している。

3.今後の展望

 ③において、被覆のその場補修を可能とするために、LBE中にAl粒子を効果的に分散させ、被覆に生じた亀裂を補修するように析出させることが可能であるかどうか条件探索を行っており、事業終了までにその可否を明らかにする予定である。

4.参考文献

[1] M. Kondo et al., J. Nucl. Sci & Tech., Vol. 43 (2006) 107.
[2] A. Kimura, R. Kasada, et al., Proc. of ICAPP'06, Reno, NV, USA, 2006.
[3] M. Takahashi et al., Proc. of ICAPP’04, Pittsburgh, PA, USA, 2004.
[4] Y. Kurata et al., J. Nucl. Mater. 335 (2004) 501.
[5] Ph. Deloffre et al., J. Nucl. Mater. 335 (2004) 180.
[6] G. Müller et al., J. Nucl. Mater. 335 (2004) 163.

図1: Fine micro-particle 図1: Larger Particle
図1 改良型ゾルゲル法によって形成したNMCP被覆のSEM写真(上段:表面、下段:断面)。左側は、右側よりも微細なシーディング材を用いて形成したNMCP被覆。

図2
図2 NMCP被覆に対するLBE腐食試験(500℃、100h)後の断面SEM写真(j)と化学分析結果(a-i)。

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