原子力システム研究開発事業

HOME研究成果平成21年度成果報告会開催目次>不確実性を考慮した原子力システム研究開発評価法に関する研究

成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

不確実性を考慮した原子力システム研究開発評価法に関する研究

(受託者) 独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)塩谷洋樹 次世代原子力システム研究開発部門 研究員

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、今後の次世代原子力システム(FBRサイクルシステムを想定)における研究開発と導入効果に影響を与える不確実性を明確化し、国際戦略を考慮した上でそれらの不確実性を考慮できる一連の評価手法を開発する。さらに、上記の評価手法を組合せて、次世代原子力システムの研究開発と導入効果に関する不確実性に対処する手法を提案する。

2.研究開発成果
図1
図1 不確実性の抽出と分類
表1 不確実性の分類と対応する評価手法
表1

(1)不確実性の整理
 次世代原子力システムを巡る多様な不確実性とその影響を図1の通り摘出した。次にそれらの不確実性を、原子力システムの経済性(静的システムと動的システムにさらに分類)、その他の原子力システム特性、エネルギー技術、社会環境、国際戦略に分類した。さらに、それぞれに対応する評価手法を表1の通り選定した。
 以下では、表1で大きく分類した不確実性と対応する評価手法に関する研究開発成果を順次記載する。

(2)原子力システムの不確実性
 研究開発段階に関しては、まず、FaCTプロジェクトの炉および燃料サイクルシステムで開発中の革新技術の研究開発リスクと経済性への影響を検討・設定した(図2参照)。次に現時点で経済性への影響が推定できる革新技術開発の成否に起因する発電原価への影響を試算した。試算結果の例を図3に示す(注:分布形状には大きな意味はない)。その結果、全て代替技術を採用せざるを得なかった場合には、最大3割程度発電原価が上昇するとの結果が得られた。
 なお、実用段階に達した原子力システムについて、FBRへの移行期等の動的な原子力供給チェーンの不確実性を評価する手法を公募業務外で作成している。

図2
図2 研究開発リスクの影響
図3
図3 発電原価への影響評価

図4
図4 改良したエネルギー経済モデル
図5
図5 電源構成の評価結果
図6
図6 FBR/軽水炉の経済競争力とFBR導入の関係
表2 国際共同開発における費用分担方法
表2
表2
図7 評価知識マネジメントデータベースの構造

(3)エネルギーと社会環境の不確実性
 エネルギーと社会環境の不確実性を評価するため、本研究では、世界の経済活動全般の評価に適した動学化した一般均衡モデルと詳細な資源エネルギーフローの分析に適したエネルギーシステムモデルを組合せ(図4参照)、エネルギー・社会環境分野の不確実性とFBRサイクル導入による電源構成や経済影響との関連性の評価を試みている(図5参照)。
 FBRサイクルとLWRサイクルの経済競争力、化石燃料資源価格、電力需要、および炭酸ガス排出量制約に関する不確実性に着目して感度解析を実施した。試算の結果からは、約1兆円と想定した研究開発費と比較し、極端な場合を除いて大きな効果が得られる見込みが得られた。
 特にFBRサイクルとLWRサイクルの経済競争力に関しては、FBRサイクルの開発について革新技術の採用が困難な場合においても代替技術を採用でき、かつ将来のLWRサイクルの発電原価が大きく低減しない場合には、FBRが導入される可能性も高いとの結果が得られた(図6参照)。

(4)国際戦略の不確実性
 国際戦略における不確実性を評価するため、次世代原子力システムの研究開発に要する費用と各国が得る便益に基づき、ゲーム理論の考え方を用いて分析する手法を検討した。ある開発課題を国際共同開発する場合に日本、仏、米の費用分担額を試算した例を表2に示す。開発費低減に日本が寄与し、開発リスク低減に仏が寄与する例では、日本と仏は、米よりも少ない分担で構わないと考えられる。日本としては、総節約額均等配分法等の費用分担額の少ない方法を提案するといった戦略が考えられる。

(5)研究開発マネジメント手法
 上記(2)〜(4)の個別の評価手法開発が進展したため、一連の評価手法を組合せて研究開発を効率的・効果的に進めるためのマネジメント手法を具体化でき、その改良を試みている。
 さらに、評価関連情報を管理・運用する基盤となる評価知識マネジメントデータベース(仮称:図7参照)のプロトタイプを作成し、評価に関する多様な情報の格納機能および発電原価評価等の戦略評価に必要な入力データの一部の生成機能を整備した。

3.今後の展望

 今後は、原子力事業と国際戦略の評価手法の開発とその他の手法の改良を実施し、本研究で必要な評価手法を一通り整備する。またFBRサイクルの研究開発と実用段階の不確実性、エネルギーと社会環境の不確実性や国際戦略の不確実性を考慮した総合評価を実施する。さらに、評価知識マネジメントデータベースを改良・実証する。
 上記を通じて、次世代原子力システムの研究開発の効率的・効果的な進捗に資する一連の評価システムとその活用方法を提示する予定である。

4.参考文献

[1]Thomas W Hertel et al., Global Trade Analysis: Modeling and applications, Cambridge University Press, 1997.

[2]大澤幸生、「知識マネジメント」、オーム社、2003.

[3]リタ・マグレイス、イアン・マクミラン著、大江建監訳、社内起業研究会訳、「アントレプレナーの戦略思考技術」、ダイヤモンド社、2002.


Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室