原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

抽出クロマトグラフィ法によるMA 回収技術の開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)駒義和 次世代原子力システム研究開発部門
再処理システムグループサブリーダー
(再委託先)国立大学法人東京工業大学

1.研究開発の背景とねらい

 高速増殖炉サイクル実用化研究開発において、再処理システムの革新技術の一つとして抽出クロマトグラフィ法の研究開発が推進されている。本事業では、工学規模(10kgHM/h の再処理プラントから発生する高レベル放射性廃液(HLLW)の処理を想定)における抽出クロマトグラフィ法によるマイナーアクチニド (MA) 回収技術について、分離回収プロセス、分離塔を中心とした装置及び関連する遠隔運転保守技術を開発し、その基本性能を確認することを目的として、下記の項目を実施している。

(1)アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
①プロセス開発
 5 種類の抽出剤(下記)を候補として、分離性能、安全性、使用後の処理方法に関する基礎的なデータを収集する。
・n-octyl(phenyl)-N,N-diisobutylcarbamoylmethylphosphine oxide (CMPO)
・N,N,N'N'-tetraoctyl-3-oxapentane-1,5-diamide (TODGA)
・2,6-bis(5,6-dialkyl-1,2,4-triazine-3-yl-pyridine (R-BTP、アルキル基(R-)としてiso-hexyl 基を有するもの)
・bis(2-ethylhexyl)hydrogen phosphate (HDEHP)
・tetrakis(alkylpyridylmethyl)ethylenediamine (TRPEN)
多孔性SiO2 粒子にポリマーを被覆した担体(SiO2-P)に抽出剤を担持した吸着材を用いる。さらに、各吸着材を用いたMA 回収フローシートを構築し、分離回収性能を評価する。これらを総合的に評価し、最適なMA 回収フローシートを選定する。
②要素機器開発
 工学規模相当の寸法を有する分離塔を中核とする要素試験装置を製作し、分離塔内における液体、固体、気体の流動性、温度制御性等の安全性評価、耐久性に関する試験を行う。要素試験装置は、分離塔、要素試験システム及び試験用計装システムから構成する。
(2)クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
①遠隔運転保守技術の開発
 吸着材交換等のメンテナンス方法について、遠隔操作性の観点から考慮すべき点及びその対策を検討し、試験によりその有効性を確認する。また、自動運転を考慮した制御システム、異常事象を検知及び抑制するための計装制御システムを検討する。
②工学規模機器開発
 工学規模での基本性能評価を行うための工学規模試験装置の設計・製作を行うとともに、本装置を用いて、安全性及び遠隔運転保守性に関わる基本性能の確認・評価試験を実施する。
平成18 年度からこれまでに得られている研究開発成果のうち、平成19 年度に得た成果を中心に概要を紹介する。

2.研究開発成果

2.1 アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発
(1)プロセス開発
(i)吸着材分離性能比較評価
 MA とランタニド (Ln) 回収を目的としたCMPO 吸着材、並びにMA/Ln 分離を目的としたR-BTP吸着材及びHDEHP 吸着材について、硝酸溶液中における代表的なFP 元素、TRU 元素等の吸着挙動や溶離挙動を調べた。
 CMPO 吸着材に対する各元素の吸着挙動については、HLLW 相当の供給液からMA、Pu、Ln、Mo、Zr 等が強い吸着性を示すこと、その吸着速度は速やかであり吸着量に対するカラム通液流量依存性は小さいこと等を確認した。また、溶離挙動については、溶離液として水あるいはジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)溶液を用いることにより吸着したMA 及びLn を速やかに溶離できること、Np, Pu の溶離にシュウ酸が効果的であること等を確認した(図1参照)。

図1
図1 CMPO 吸着材カラムによるカラム試験の結果
図2
図2 γ線照射線量に伴うR-BTP 吸着材の飽和吸着容量の変化

(ii)吸着材安全性評価
 MA-Ln 回収を目的としたCMPO 吸着材及びTODGA 吸着材、並びにMA/Ln 分離を目的としたR-BTP 吸着材及びHDEHP 吸着材について、耐硝酸性、耐放射線性、耐熱性を調べるため、吸着材を硝酸溶液と接触、または硝酸溶液と接触させながら高線量γ 線を照射し、抽出剤の溶出量及び劣化度(吸着性能の変化)を測定した。さらに、硝酸及び放射線により劣化した吸着材の熱分析を行い、吸着材の熱的安定性を調べた。
 R-BTP 吸着材の耐硝酸性については、硝酸濃度の増加に伴い顕著に劣化が進行する様子が認められた。2 mol/dm3 以上の硝酸溶液中において、10 日間の暴露によって約50%まで飽和吸着容量が低下し、60 日間の暴露によって殆ど吸着能が喪失した。耐γ 線については、硝酸と放射線の複合要因により劣化が加速され、2 mol/dm3 硝酸溶液中においては0.25MGy の照射線量によって吸着能がほぼ消失した(図2 参照)。
 以上のようにR-BTP 吸着材については高硝酸濃度における化学的安定性がCMPO やTODGA 吸着剤に比べて低いことが明らかとなった。
(iii)使用済吸着材処理方法検討
 CMPO 吸着材及びHDEHP 吸着材について、使用済吸着材の洗浄方法、洗浄後の抽出剤及びポリマーの分解方法、さらに、回収したSiO2-P 担体の再利用の可能性を評価した。また、溶出する抽出剤の回収方法を検討した。
 使用済吸着材からの抽出剤洗浄については、CMPO の洗浄にはアセトン及びジクロロメタンが優れており、50℃程度の高温において洗浄率が高い。また、HDEHP の洗浄にはアセトンが最も優れており、高温の方が洗浄しやすい。洗浄後の抽出剤及びポリマーの分解については、800℃までの温度にて分解が可能であることを確認した。また、CMPO 及びHDEHP を再び含浸した再生吸着材を調製し、いずれの再生吸着材も未使用のものと同等の吸着性能を有することを確認した。
 溶出した抽出剤の回収については、SiO2-P 及び活性炭を用いた回収試験を実施し、CMPO の回収に対してはSiO2-P が優れていることを確認した。一方、HDEHP の回収はSiO2-P 及び活性炭では困難であった。

(2)要素機器開発
(i)流動性把握試験
 要素試験装置を設計・製作し、分離塔内における固体(吸着材)、液体(プロセス溶液)、気体(放射線分解ガスを模擬したもの)の流動性を調べるための試験を行い、最適な運転条件を検討した。分離塔は、液体の流速と温度を測定するセンサーを挿入することができ、保温のためのジャケット、供給する溶液を均一に流すための分散版を備える(図3 参照)。分離塔には、吸着材をスラリーとして供給し充填層を形成し、また、排出する。
 固体の流動性に関して、スラリー濃度と流量を変えて充填層を形成する条件を確立した。本装置についてはスラリー濃度15w%以下、スラリー供給流量6 dm3/min にて吸着材を充填すると良好な充填層が得られた。また、塔下部より水を供給し、充填層を崩壊させることにより、ほぼ全量の吸着材を塔内より抜き出すことができることを確認した。5dm3/min 程度が好適であった。
 液体の流動性については、分離塔内の流速分布に対する流速、流れの方向、分散板の効果を調べた。液体供給方向が下から上の場合と、4cm/min の流速で上から下に通液した場合に、流速の径方向分布はほぼ一様となることが分かった(図4 参照)。また、流体計算コードFLUENT を用いた充填層内部の流動性解析においても、流速分布は塔内に亘って一様であった。

図3
図3 要素試験装置の分離塔(内径48cm)
図4
図4 分離塔内の平均流速(内径20cm 分離塔)

 気体の流動性に関しては、放射線分解ガスを模擬した窒素を分離塔に送り込み、運転時に気体が排出される状況を調べた。塔内への気体の供給量に係らず、充填層に存在する気体は分離塔から排出し難く、これは塔内における液体の流速の均一性に悪影響を及ぼす。
(ii) 安全性評価試験
 要素試験装置を用いて安全性に係わる温度特性(応答性)を評価する試験を実施した。供給液の加熱や分離塔ジャケットにより保温する方策に関して、分離塔内の温度変化を調べた。
 分離塔内部に放射性核種の崩壊熱に相当する局所的な発熱がある場合、流速が小さく、また、塔径が大きいほど部分的に温度が高くなる(除熱が不十分となる)傾向を示す。流速の増加に伴い分離塔(充填層)内の有効熱伝導率が上昇するため、流速が大きい条件下では局所的な発熱の影響は緩和される。また、分離塔ジャケットを使用することにより塔内の温度分布はより一定になる。

2.2 クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発
(1)遠隔運転保守技術の開発
(i)遠隔操作性検討・試験
 一般産業界や原子力発電所における吸着材充填・抜出方法について調査し、遠隔操作により吸着材交換を行う方法を検討した。選択した方法の妥当性を評価するため、試験装置を製作して試験を行った。
 文献調査及びメーカーへの聞き取り調査から吸着材の充填及び抜出に係る複数の方式を摘出し、分離塔の構造として「スラリーを上部から供給」、「供給するスラリーはポンプ搬送」、「吸着材の圧密化は水圧方式」を実験的に検討すべきとの結論を得た。
 これら要件を反映して吸着材交換性評価試験装置を製作し、吸着材充填及び抜出の試験を実施した。試験の結果、分離塔構造について上記の方策に基本的な問題が無いことを確認した。また、遠隔での吸着材交換において、吸着材供給配管の洗浄機能等を考慮すべきであることを明らかとした。
(ii) 計装・制御方法検討
 一般産業界や原子力発電所において採用されている吸着用及びクロマトグラフィ用の計装方法や制御方法について調査し、自動運転を考慮した制御システムを検討した。また、実用規模のシステムにおいて想定される異常事象を抽出し、これら異常事象を検知するための計測システム及び抑制方法を検討した。
 調査の結果、システムを自動運転するためには、分離塔へ供給するHLLW 及び分離回収を行う溶離液の供給の切り替えに関する自動化が重要であり、重要な制御項目は、供給時間、液量及び分離カラム出口のMA 成分濃度の3 項目に絞られた。これらの制御を行う上で必要となる機能を主要構成機器毎に摘出するとともに、機能を満足するための管理項目及び方法を抽出した。
 異常事象の抽出及び分類は、システム内の主要機器を対象として、安全上の問題が生じる火災・爆発への拡大、漏洩への拡大、臨界への拡大、閉塞への拡大の4 つの観点、さらには機器機能喪失の観点から、事象進展フローを用いて実施した。これらの事象について、その検知システムや進展抑制のためのシステムを検討し、分離塔における温度計及び圧力計の設置や冷却系統の導入、配管への閉塞解除機能の付加等、必要となる計装機器や抑制方法を明らかとした。

(2)工学規模機器開発
 工学規模クロマトグラフィ装置の基本性能評価を行うための試験装置を設計・製作するために調査を行い、その構造を検討した。工学試験装置の規模は10kgHM/h の再処理プラントにおけるHLLW の処理(約750L/d)を想定し、実機での運転形態を考慮した。また、遠隔運転に必要な計装・制御機構、吸着材の充填・抜き出し機構などを備えたものとし、溶液の供給槽や貯留槽を含めた装置システムとした。
 調査においては、プラント運用を行う上で構築が必要となるシステムの要素や、遠隔での運転が必要とされるシステムについて考慮すべき及び要求される事項について整理を行った。本調査結果に加え、前述の要素機器開発、計装制御方法検討、遠隔操作性検討の結果を踏まえて、分離塔、装置システム、及び吸着材の遠隔交換方法を検討した。分離塔に関しては、塔内の安全計装や冷却機構、吸着材の充填・抜出方法等を考慮し、その概念構造や運転方法を決定した。装置システムについては、流量及び時間管理による自動運転制御の採用が適当と考えられ、溶液切り替えのための機器構成や各種溶液の供給・回収システム等を明確化した。また、吸着材の遠隔交換方法に関しては、吸着材をスラリーで取り扱い、機器を一括して交換する方式が最も適切であると考えられた。以上の検討結果を基に、工学規模装置の概念を明らかとした。
 この検討結果を基に、本研究開発課題に与えられた達成目標を達成し、また、今後の研究開発を合理的かつ効率的に進めるため、工学規模試験装置は、安全と遠隔運転保守に関する機能を備えるよう製作し、これを用いて遠隔運転保守とカラム性能に関する試験を中心に実施することとした。

3.今後の展望

 アメリシウム及びキュリウム回収用抽出クロマトグラフィ塔の開発においては、各吸着材の分離性能評価、安全性評価、及び使用後の処理方法検討を完了し、これらのデータを基に各吸着材を用いたMA 回収用フローシートの構築とこれらの比較評価を進め、最適なフローシートを選定する。また、要素試験装置等を用いた安全性評価試験を継続し、分離塔内の温度制御性及び微粒子による影響を評価するとともに、MA-Ln 回収用吸着材及びMA/Ln 分離用吸着材の耐久性(吸着容量、溶出量等)確認試験を実施する。本試験を通して分離性能及び計装制御性についても評価する。
 クロマトグラフィ塔の遠隔運転保守技術の開発における遠隔運転保守技術の開発では、工学規模システムにおいて必要となる各種メンテナンスについて、遠隔操作時に考慮すべき点及び対策を検討する。これと並行して、工学規模試験装置の製作を行い、安全性及び遠隔運転保守性評価を中心とした工学規模試験を実施する。本試験結果並びに上述の要素試験装置を用いた分離性能及び計装制御性の評価結果等から、工学規模における分離回収プロセス、装置及び関連する遠隔運転保守技術の基本性能を総合的に確認・評価する。


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