原子力システム研究開発事業

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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

MAリサイクルのための燃料挙動評価に関する共通基盤技術開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)荒井康夫 原子力基礎工学研究部門 研究主席
(再委託先)ニュークリア・デベロップメント株式会社、国立大学法人大阪大学

1.研究開発の背景とねらい

 ウラン資源の有効利用とともに、高レベル放射性廃棄物の最終処分への負荷の軽減に対応できる革新的原子力システムとして、高速炉サイクル技術の研究開発が進められている。文部科学省が平成18年に取りまとめた「高速増殖炉サイクルの研究開発方針について」では、現在の知見で実現性が最も高いと考えられる実用システム概念は、マイナーアクチノイド(MA: Np、Am、Cm)含有混合酸化物(MOX)燃料を用いたナトリウム冷却炉、先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造の組み合わせであるとした[1]。この概念は、現在は高レベル放射性廃棄物に区分されているMAを回収して、MOX燃料中に均質に混合して燃焼させるというものである。
 海外においても、同様な高速炉サイクル技術の研究開発が進められている。米国は、国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)構想の下で、廃棄物処分場の有効利用の観点から、再処理技術や新型燃焼炉の開発を提唱しており、この中で、MAはPuと共に回収し、高速炉で燃焼させることを目指している。また、フランスでも、放射性廃棄物等管理計画法(2006年の法律)に基づき、MAを高速炉などで燃焼することを目指した研究開発が実施されている。
 しかし、MAをリサイクルするためには、その性質がUとは大きく異なることから、現在の軽水炉サイクル技術からは外挿できない燃料技術が必要であり、MA含有燃料に特有な燃料挙動を理解し、制御することが不可欠である。ところが、これまで各国において種々の燃料形態のMA含有燃料が研究されているものの、燃料の工学的成立性については十分な評価が進んでいない。その理由の一つとして、MA含有に起因した特有な燃料挙動の本質の理解が遅れていることが挙げられる。新しい技術の開発においては、工学的な開発と並行した原理的理解が重要である。
 本事業では、MAリサイクルの実現性をより確実なものとするために、その開発を基盤的に支えるとともに、そこから派生する多様な知と革新が期待される燃料挙動評価に関する共通基盤技術開発を実施する。ここでは、燃料健全性評価上重要でありながらこれまで検討が不十分であったMA含有燃料中のHe挙動、及びMAとして重要でありながら特性の理解が進んでいないCm、Amを含有した酸化物の物性を解明するとともに、計算科学的手法を応用して、MA含有燃料の工学的成立性評価を合理的に支える基盤技術を開発する。

2.研究開発成果

(1)He挙動の解明とモデルの構築
 He挙動の解明とモデルの構築を目的として、UO2中のHe挙動基礎試験、238Pu/244Cm含有酸化物試料によるHe挙動試験、照射済みMOX燃料の照射後試験、及びHe挙動評価モデルの構築を本事業において実施している。
 UO2中のHe挙動基礎試験では、燃料ペレットからのHe放出過程の基礎となる燃料中の拡散挙動を解明する。具体的には、予め高温・高圧中でHeを吸蔵させた単結晶及び多結晶UO2からの放出挙動を、四重極型高温質量分析計で測定して、Heの粒内及び粒界拡散係数を評価する。これまでに、高純度単結晶UO2の育成、拡散係数評価の際に必要な試料の比表面積の測定を終了し、単結晶及び多結晶UO2へのHeの吸蔵を実施中である。
 238Pu/244Cm含有酸化物試料によるHe挙動試験では、半減期約88年の238Puを含有した(U0.30238Pu0.70)O2ペレット及び約18年の244Cmを含有した(Pu0.95244Cm0.05)O2ペレットを調製して、保管中の格子定数変化と寸法変化を測定している。両者とも格子定数変化は自己照射損傷によるフレンケル欠陥生成に基づくモデル式と良く一致し、図1に示したように平成19年度中に飽和値に達したことが確かめられている。一方、寸法変化にも格子定数変化との相関が見られていることから、フレンケル欠陥生成に伴う結晶格子の膨張による寄与が支配的であると考えられる。今後、238Pu含有酸化物についてはMOX中のHeの拡散係数評価を目的とした高温質量分析、244Cm含有酸化物については走査型電子顕微鏡による表面組織観察などを予定している。
 照射済みMOX燃料の照射後試験では、He挙動に着目した「常陽」MK-IIIドライバー燃料の照射後試験を行っている。これまでにMOX燃料ピン5本のパンクチャ試験により照射中にペレットから放出されたHeを定量した。今後、従来は希ガスや揮発性FPの挙動評価に用いられてきたホットセル内のFP放出挙動試験装置を用いた加熱試験により、照射後もペレット中に残存していたHeの定量を予定している。図2には、MOX燃料ピンのパンクチャ試験の結果を示すが、今回の試験では相対的にAm含有量の低いMK-IIドライバー燃料に比較して多くのHeが放出されていることが分かる。

図1
図1 (Pu0.95244Cm0.05)O2の格子定数変化
図2
図2 「常陽」MK-III燃料ピンのパンクチャ試験結果

 He挙動評価モデルの構築では、始めにMA-MOX燃料中のHe生成量を計算により評価した。照射中及び貯蔵中の燃料におけるHe生成量について、燃焼コードシステムSWATを用いて、α崩壊、(n,α)反応及び三体核分裂を考慮して詳細計算するとともに、燃料の初期組成、燃焼度、時間の関数として作成した簡易式によるHe生成量の評価結果と比較・検討した。典型的な高速炉燃料ピンセルモデルを用いてMAを0.9%含有した標準的MA-MOX燃料と、MAを10%含有したMA-MOX燃料を線出力30kW/mで200GWd/tまで燃焼し8年間冷却した場合の計算結果を図3に示す。作成した簡易式による計算結果とSWATによる詳細計算結果の差は概ね10%以内であった。現在、高速炉燃料ペレット体系におけるHeの気相から固相への浸透、固相内He生成、粒界及び粒内拡散、気相への放出などを計算するモデルの基本構造を開発中である。

図3
図3 MA-MOX燃料中のHe生成量の評価結果の比較

(2)Cm酸化物等の基礎特性の解明
 Cm酸化物等の基礎特性の解明を目的として、MA酸化物の物性データの取得、MA模擬酸化物の熱クリープデータの取得(ニュークリア・デベロップメント(株)への再委託)、及びMA含有燃料の特性評価(大阪大学への再委託)を本事業において実施している。
 MA酸化物の物性データの取得では、公表データの極めて少ないCm、Am含有酸化物を対象として、起電力法による酸素ポテンシャル、レーザーフラッシュ法による熱拡散率、投下法による比熱、高温X線回折法による熱膨張率の測定や熱伝導度の評価などを行っている。図4には1333Kにおける(Am0.5Pu0.5)O2-xの酸素ポテンシャルのO/M比依存性、図5には(Am0.5Pu0.5)O2及び(Am0.5Pu0.5)O1.75の熱拡散率の温度依存性を示す。(Am0.5Pu0.5)O2-xの酸素ポテンシャルはUO2やMOXに比較して高く、O/M比依存性の変化からx=0.22付近で蛍石型単相から複合相への相変化が起きていることが示唆される。また、熱拡散率の値もO/M比の影響を大きく受け、(Am0.5Pu0.5)O1.75の熱拡散率は(Am0.5Pu0.5)O2に比較して半分程度まで低下している。

図4
図4 (Am0.5Pu0.5)O2-xの酸素ポテンシャル
図5
図5 (Am0.5Pu0.5)O2-xの熱拡散率

 MA模擬酸化物の熱クリープデータの取得では、UO2に模擬MAとしてNdを添加した(U,Nd)O2を調製して、熱クリープ速度の組成依存性を評価している。通常用いられている圧縮クリープ測定に比較して試料量が少量で済むインデンテーション法を用いて測定した8mol%のNdを添加したMA模擬酸化物の熱クリープデータの取得では、UO2に模擬MAとしてNdを添加した(U,Nd)O2を調製して、熱クリープ速度の組成依存性を評価している。通常用いられている圧縮クリープ測定に比較して試料量が少量で済むインデンテーション法を用いて測定した8mol%のNdを添加した(U,Nd)O2の押込み変位データとクリープ速度の温度依存性を図6、図7にそれぞれ示す。Ndの添加に伴うクリープ速度の低下が見られており、固溶強化が起きていることが示唆される。さらに、インデンテーション法による測定を有限要素法でシミュレートして、測定試料のクリープ速度式を作成している。

図6
図6 8mol%Nd添加UO2の押込み変位データ
図7
図7 8mol%Nd添加UO2のクリープ速度の温度依存性

 MA含有燃料の特性評価では、マトリックスのMo中に燃料物質として粒径及び含有量を変えたCeO2を分散させた模擬サーメット燃料、及びマトリックスをMgOとした模擬サーサー燃料を調製し、ホットディスク法ならびにレーザーフラッシュ法で測定した熱伝導度の値と、個々の物質(Mo、MgO、CeO2)の熱伝導度を入力として有限要素法を用いて評価した熱伝導度の値の比較検討を行っている。いずれの方法で測定した熱伝導度の値も、個々の物質の熱伝導度の文献値から予想される範囲内にあるが、有限要素法による評価では粒界での熱伝達の効果が考慮されていないため、これまでのところ試料によってはやや高めの結果が得られている。

3.今後の展望

 He挙動の解明とモデルの構築では、UO2及びMOX中のHeの拡散係数測定、加熱前後の244Cm含有酸化物の表面組織観察、照射済みMOX燃料ペレットの加熱試験による残存Heの定量を行うとともに、燃料内でのHeの溶解、生成、拡散、放出などの素過程を組込んだモデルを開発する。さらに、開発したモデルと実験データを用いて、燃料ふるまいコードによるMA含有燃料中におけるHe挙動予測を行うことを計画している。
 Cm酸化物等の基礎特性の解明では、Cm含有酸化物を中心として酸素ポテンシャル、熱伝導度、熱膨張率などの測定や相状態の評価を行い、物性データの蓄積を図る。また、NdをMAの模擬物質とした(U,Nd)O2の熱クリープ測定では、試料の組成や密度の影響を体系的に評価する。これらの実験データと有限要素法などの計算科学的手法を組み合わせて、種々の組成や形態のMA含有燃料の特性評価を行うことを計画している。

4.参考文献

[1] 文部科学省研究開発局、高速増殖炉サイクルの研究開発方針について、2006年11月.


Japan Science and Technology Agency 原子力システム研究開発事業 原子力業務室