原子力システム研究開発事業
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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

過渡時の自然循環による除熱特性解析手法の開発

(受託者)三菱FBRシステムズ株式会社
(研究代表者)渡辺 収 炉心・安全設計部熱流動グループ長
(再委託先) 財団法人電力中央研究所、独立行政法人日本原子力研究開発機構

1.研究開発の背景とねらい

 「もんじゅ」等、これまでのナトリウム冷却炉では、原子炉停止時の炉心崩壊熱除去は強制循環によって行われ、自然循環は強制循環不作動時のバックアップという位置づけであった。「常陽」による自然循環試験やFBR実証炉向けに行われた各種試験研究の結果、自然循環のみによって崩壊熱除去を十分に行えるシステムが可能であること、これにより動力によらない信頼性の高いシステムを構成することが可能であることが明らかになってきた。これらを踏まえて、高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズIIでは、強制循環に頼らない「完全自然循環式崩壊熱除去系」を採用し、高い信頼性と経済性を兼ね備えた大型ナトリウム冷却炉(大型炉)の実現を目指している。
 本事業では、システム水試験及びナトリウム試験を実施することによって、自然循環崩壊熱除去に関する熱流動課題を摘出し、解決を図る。これに基づいて大型炉の自然循環除熱挙動を予測評価できる解析評価技術を開発する。本研究では、従来の1次元評価手法の改良に加え、原子炉容器及び1次系各部で発生する温度成層化や偏流現象を評価できる3次元の評価手法を開発する。また、安全審査で重要となる炉心高温点(ホットスポット)の評価手法を開発する。

2.研究開発成果

2.1 試験条件及び評価手法の設定
a.試験条件の設定
(1) 試験条件設定のための解析
 試験条件を設定するために、既存の1次元自然循環評価手法を用いて、大型炉を対象として、安全性(炉心・燃料の健全性及び原子炉冷却材バウンダリの健全性)確保の観点及び構造健全性(熱過渡)確保の観点から重要と考えられる事象を摘出し、それらの事象について解析した。その結果、完全自然循環式崩壊熱除去系を採用した場合でも十分な炉心冷却が可能であり、熱過渡についても緩和される傾向にあることが分かった。
 システム水試験で模擬すべき大型炉の過渡条件を検討し、以下のとおりまとめた。
 ・対称事象:手動トリップ、外部電源喪失
 ・1次系(2ループ)の運転が非対称となる事象:1次ポンプ1台軸固着
 ・1次系ループの冷却が非対称となる事象:2次系あるいは崩壊熱除去系の異常等
 これに基づいて、システム水試験に対する機能要求をまとめた。
 また、大型炉の過渡条件を検討し、ナトリウム試験で模擬すべき対象は外部電源喪失とした。
(2) システム水試験条件の設定
 自然循環試験を実施するに当たり、対象とする大型炉の特徴を踏まえて、主要な熱流動課題を整理した。また、各々の課題に対しては、過去に行われた自然循環試験結果等に基づいて、対策に関する具体的な検討手順を策定した。
 水試験では、ナトリウムを水で置き換えて、実現象と相似な伝熱流動状態を実現する。このために、実機状態を再現するための相似則を導出し、その模擬可能範囲や限界を明らかにした。これらに基づいて、システム全体に対する模擬試験の考え方を整理した。
 システム水試験装置の基本的な仕様及び試験条件を以下のとおりまとめた。
 ・試験の模擬方法:実機の1/10縮尺(Bo数相似条件)、実機の各部圧力損失分布と一致(Eu数相似条件)。
 ・試験装置の基本仕様:定格時における出力120kW、水の温度上昇度9.3℃。
 ・試験項目
:外部電源喪失、2次ナトリウム漏えい、崩壊熱除去系の2次ナトリウム漏えい、その他課題解決のための試験。
 以上に基づき、システム水試験での各模擬事象について、定常から過渡試験に至る運転方法を明確にした。次に、これまでに実施されてきた自然循環崩壊熱除去解析結果に基づき、模擬事象毎に、過渡変化の特徴、試験模擬方法、主要評価項目及び試験上の課題を整理した。
(3) ナトリウム試験条件の設定
 大型炉の1次系共用型炉心冷却系(PRACS)の設計に基づいて、既設のナトリウム試験装置に設置するPRACSの試験条件を設定し、PRACSを含む試験部の構造を検討した。また、自然循環に関するナトリウム試験の試験計画を策定した。
b.評価手法の設定
(1) 1次元自然循環評価手法
 大型炉の自然循環を含む種々の過渡事象を評価する観点から、現状の1次元自然循環評価手法が必要であることを明確にした。大型炉の評価に当たり、改良が必要な部位として、プレナム部(炉上部及び下部、中間熱交換器(IHX)上下)、大口径配管、熱交換部及び炉心ホッテストピンを摘出し、これらの部位について改良方針を設定するとともに、改良方法を具体化した。
(2) 3次元自然循環評価手法
 原子炉容器を含む1次冷却系を全て3次元でモデル化する評価手法を開発するため、既存の3次元熱流動解析コードの候補として、5つの解析コード(STAR-CD、FLUENT、u-FLOW、APUS、CFD++)を選定し、それらの機能を比較するとともに、性能確認を目的とした同一モデルでの比較解析を行った。これに基づいて、大型炉の自然循環評価に適用する3次元熱流動解析コードとして、STAR-CDを選定した。また、大型炉の1/4セクタを対象とした3次元モデルを作成し、試解析を行った。その結果、8〜16CPU程度の並列計算機を用いることにより、フルセクタ2ループモデルでの解析が実現可能な見通しを得た。図1に最終目標とする解析モデル概念を示す。
(3) 炉心高温点評価手法
 炉心健全性評価の観点で工学的安全係数を考慮した燃料被覆材最高温度を評価する炉心高温点評価手法について、国内外の既往の研究成果に基づいて、炉心高温点評価に対する影響因子を網羅的に抽出し、自然循環時に発生する熱流動現象との関係を明らかにした。
 これらに基づいて、炉心高温点評価手法の開発手順を以下のとおり設定した。
 ・浮力による炉心温度平坦化現象の評価の取り込み。
 ・影響因子(ピーキング/ホットスポットファクタ含む)の過渡現象への適用に関する考え方の整理。
 ・既存体系への適用・定量評価、大型炉への適用。
2.2 システム水試験
a.試験装置の設計
 試験条件設定のための解析等に基づいて、大型炉の原子炉及び1次系を模擬した縮小モデル試験装置の基本設計及び製作設計を行った。本試験装置は、大型炉の1/10スケールで、大型炉と同様に1次冷却系を2ループとし、原子炉容器、IHX及びこれらを結ぶ1次冷却系配管から構成される。また、IHXの2次側に冷却水を供給する2次冷却系、原子炉容器の上部プレナム内に設置した直接炉心冷却系(DRACS)熱交換器及びIHXに内蔵するPRACS熱交換器から成る崩壊熱除去系、並びに崩壊熱除去系に冷却水を供給する補助冷却系から構成される。
b.試験装置の製作
 上記a.の設計結果に基づき、システム水試験装置の製作及び据付作業を完了した。図2にシステム水試験装置の全体概要を示す。
c.試験の実施
 システム水試験装置の主要機器に対して、その基本性能を確認するための試運転を実施した。また、システム水試験装置の運転性能を確認するために、外部電源喪失の予備的な模擬試験を実施した。
d.試験結果の評価
 試運転結果に基づいて、主要機器単体の性能を評価した。また、外部電源喪失の予備的な模擬試験結果に基づいて、システム全体の挙動を評価した。
2.3 ナトリウム試験
a.試験装置の設計
 既設のナトリウム試験装置に設置する試験部の仕様と試験条件に基づいて、PRACSの過渡挙動の把握を目的とする試験部の製作設計を終了した。
b.試験装置の製作
 上記a.の設計結果に基づき、試験部を製作した。
2.4 解析評価技術の開発
a.評価手法の開発
(1) 1次元自然循環評価手法
 2.1節b.(1)に基づき、1次元自然循環評価手法の改良部分(原子炉容器、ポンプ組込型IHX、ホットレグ配管、コールドレグ配管)に関するモデルの仕様を検討し、各々の1次元モデルを改良した。また、改良された1次元モデルの解析機能を確認した。
(2) 3次元自然循環評価手法
 2.1節b.(2)に基づき、大型炉を対象として3次元部分モデル(原子炉容器、ポンプ組込型IHX、ホットレグ配管、コールドレグ配管)の仕様を検討し、各々の3次元モデルを作成した。また、作成された3次元モデルの解析機能を確認した。図3にメッシュ分割図を示す。
(3) 炉心高温点評価手法
 2.1節b.(3)に基づき、評価に必要なホットスポットファクターについて、具体的な構成因子の検討を行うとともに、その影響を定量化するための解析検討を行い、炉心高温点評価手法のベースを構築した。また、大型炉への適用に向けた課題について検討した。さらに、既存の炉心部熱流動解析コードを、大型炉心の評価に必要な大規模計算に適用できるよう整備した。
b.自然循環評価手法の検証
(1) 3次元自然循環評価手法
 3次元自然循環評価手法の検証準備作業として、システム水試験装置の1次系を対象とした3次元部分モデルを作成した。また、作成された3次元モデルの解析機能を確認した。

3.今後の展望

 4か年計画の2か年の研究成果により、自然循環式崩壊熱除去系概念の成立見通しが得られた。今後は、システム水試験により1次系自然循環特性、ナトリウム試験により崩壊熱除去系全体の自然循環特性を検討する。また、1次系全体を3次元で扱う自然循環評価手法を開発するとともに、大型炉の炉心高温点評価手法を構築する。これらに基づく大型炉の自然循環の予測評価結果より、完全自然循環式崩壊熱除去系の確立が期待される。
Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室