原子力システム研究開発事業
HOME研究成果成果報告会開催目次>ミクロ炉物理に基づく反応度係数の高精度測定手法と解析手法の開発
成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

ミクロ炉物理に基づく反応度係数の高精度測定手法と解析手法の開発

(受託者)株式会社東芝
(研究代表者)吉岡研一 電力・社会システム技術開発センター 主務
(再委託先)独立行政法人日本原子力研究開発機構、国立大学法人大阪大学

1.研究開発の背景とねらい

 燃料の高燃焼度化、高濃度ガドリニア入り燃料の使用や、さらには導入が検討されている濃縮度が5%を超える超高燃焼度燃料等により燃料集合体の非均質性が増大し、これまで問題とされなかった燃料棒内の中性子束分布やスペクトル分布などの炉物理特性を把握するために「ミクロ炉物理」と称する研究が注目されている[1]。本事業では、革新型原子炉の一つである低減速軽水炉炉心の非均質性に注目している。低減速軽水炉はボイド係数が正になりやすく、これを負にするためにストリーミングチャンネルの導入が検討されているが[2]、ストリーミングチャンネル−バンドル間のウォーターギャップが非均質性を高める原因となっており、反応度係数の評価を困難にしている。ここでは、非均質性を燃料棒内の反応率空間分布に起因する「燃料棒内非均質性」と、バンドル内の反応率空間分布に起因する「バンドル内非均質性」に分け、非均質性を考慮して反応度係数を従来よりも高精度に測定できる手法を開発すると共に、ミクロ炉物理的メカニズムに基づき反応度係数解析手法の精度向上を図ることを目的とする。

2.研究開発成果

(1)測定手法の開発
 測定手法の開発は東芝臨界実験装置(TOSHIBA Nuclear Critical Assembly: NCA、以下NCAと記述)において行っている。測定手法の開発では、バンドル内非均質性については非均質な炉心を臨界実験装置の枠内で実現すること、燃料棒内非均質性については精度良く燃料棒内の中性子束分布を測定することが技術開発の課題となっている。
 バンドル内非均質性を実現した炉心の例を図1に示す。図はNCA炉心内に低減速軽水炉体系を模擬したものであり、テスト領域(図中白点線内)と、炉心を臨界にするために、周囲に正方格子で配置したドライバ領域(図中白点線外)からなる。上記ウォーターギャップによる非均質性を模擬するために、炉心中央部にウォーターホールを設けている。燃料棒周方向に銅箔を巻き付け、照射後その放射能を測定することにより燃料棒周方向の中性子束分布を測定した。銅箔は低エネルギーの中性子を吸収して放射化するため、銅箔放射化率分布は熱中性子束分布と良い相関がある。測定結果は、周囲に燃料のある燃料棒(位置B)に比べて、ウォーターホールに隣接する部分の燃料棒(位置A)は顕著な周方向の分布が現れることを示している。この結果は、低減速軽水炉内で現れる高い非均質性を測定で示したものであり、本技術開発の成果の一つである。また、ボイド反応度係数を測定するために、原子炉運転時の水・蒸気混合状態の水密度を模擬した炉心を構成している。図2にはポリスチレンによるボイド模擬を示している。図2左はポリスチレンの発泡度を調整することにより運転時高温状態60%ボイドを模擬したものである。図2右は現在開発中のホウ素入りポリスチレンである。低エネルギー中性子部分をホウ素により吸収し、高エネルギー中性子の割合を増加させ、低減速スペクトル状態を模擬することを目指している。
 燃料棒内非均質性測定については、金属箔の放射化による中性子束分布測定が詳細な領域の中性子束空間分布測定に有効であるが、箔設置時の位置ずれや照射後切断時の加工誤差により測定誤差が大きくなりやすい。そこで、予め設定したパターンどおりにエッチング加工を箔に施しておく手法を開発した。図3はエッチング加工を施した銅箔と燃料棒内銅箔放射化率分布の測定結果の一例を示す。銅箔を完全に分離せず、わずかにつなぎ目を残しておくことにより燃料棒内への内蔵、移動および炉内への設置時の振動に対しても、位置ずれを防ぐことができる。また、照射後はつなぎ目部分のみを切断すれば、加工誤差を抑えることができる。このエッチング箔により燃料棒内放射化率分布を精度良く測定することができた。
(2)解析手法の開発
 解析手法については、以下の2項目について開発を進めている。
・実効断面積作成は、エネルギー分割法を改良することにより短時間で高精度の解が得られるマルチバンド法を、従来の1次元から隣接燃料の効果を詳細に取扱える2次元体系へ高度化した。
・体系計算では、拡散理論に基づく計算手法あるいは格子内の燃料、減速材を1つのセルとして均質化した計算ではなく、セル内の幾何形状を忠実に取り扱い、さらにペレット内を微小領域に分割して解析可能な2次元キャラクタリスティクス(MOC)法を使用した。
 上記の2つの手法を組み合わせることで、解析手法の高度化を図る。図4に体系詳細化と238U吸収反応の解析結果の例を示す。グラフはモンテカルロコードMVP[3]による参照解、P0、P1、P3はキャラクタリスティクス法による輸送計算時の中性子散乱の非等方性を考慮するための次数を表しており、次数が高いほど取り扱いが詳細となる。この例では燃料を10分割、減速材を4分割している。結果は参照解と良く一致している。この例では、散乱の非等方性による効果は小さいと考えられるが、今後、非均質性をより高めた体系で検討する必要がある。

3.今後の展望

 測定手法の開発では、開発手法を用いて、非均質体系でのボイド率変化時の測定値からボイド反応度係数を導出する。実験解析を通して、非均質性の高い体系での解析手法の精度について検証を行う。本技術開発の成果を炉心設計にフィードバックし、将来炉設計技術の高度化につなげていきたい。

4.参考文献

[1]竹田、「ミクロ炉物理学」、日本原子力学会誌、Vol.41, No.11, pp.1157-1161 (1999).
[2]Y. Sakashita, et al., ”Core Characteristics of Breeding BWR for BARS (BWR with Advanced Recycle System),” ICONE’07, Tokyo, April19-23(1999).
[3] Y. Nagaya, et al., ”MVP/GMVP II : General Purpose Monte Carlo Codes for Neutron and Photon Transport Calculations based on Continuous Energy and Multigroup Methods,” JAERI 1348 (2005).


Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室