原子力システム研究開発事業
HOME研究成果成果報告会開催目次>FBR燃料再処理のためのタンパク質機能付加SAMの創生
成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

FBR燃料再処理のためのタンパク質機能付加SAMの創生

(受託者) 独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者) 坂本文徳 先端基礎研究センター 研究副主幹

1.研究開発の背景とねらい

 本事業では、アクチノイドを効率的に吸着するタンパク質を付加させた自己組織化単分子層(SAM)を創生することにより、高速増殖炉(FBR)の使用済燃料溶解液中からアクチノイドの分離・回収を効率的に行える先進湿式再処理法の各プロセスに利用可能な代替・補完技術を開発し、FBR燃料再処理の確立に資することを目的としている。
 6価ウランが微生物により還元されることは1990年代から知られていたが、その機構は明らかにされていなかった。2002年のネーチャーに掲載された日本人研究者の論文では1)、微生物の細胞膜表面に存在するウランを吸着・還元するタンパク質が水溶性ウランを吸着し、ウランが6価から4価に還元され、最終的にU(IV)O2として沈殿することを示した。我々は、アクチノイドを吸着・還元させるタンパク質を同定し、分離・回収することにより、微生物の細胞表面で起こっている現象を合成細胞膜で行うアクチノイドの分離・回収システム(タンパク質を付加させたSAM)を作製することを考えた(下図参照)。

2.研究開発成果

2.1 吸着タンパク質特定試験
 恒温振とう培養機を用いて液体培地で1遺伝子欠損酵母株を培養する試験の結果、液体培地の吸光度と放射能ならびにラジオイメージング分析装置と走査型電子顕微鏡を用いたウラン分布の比較から、平成17年度に選別した98株からウラン耐性株を6株選別した(表1)。
 選別した6株のうち最もウラン耐性が高い株を用いて、ウラン含有培地中で培養した株から発現タンパク質を分離した。このタンパク質と野生株に発現したタンパク質と比較し、ウランに特異的に発現するタンパク質を特定した。これらのタンパク質を抽出し、酒類総合研究所所有の質量分析計により3種類を同定した(表2)。
 また、このうちの1種類のタンパク質(グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ)を高速液体クロマトグラフにより大量に抽出・精製した。
2.2 タンパク質機能付加SAM創生試験
 2.1で大量抽出したグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼを、4種類の異なる有機単分子層で形成したSAMと反応させた後、電位−電流曲線を測定した。3種類の有機単分子層で形成したSAMでは明瞭な電位−電流曲線は得られなかったが、1種類の有機単分子層で形成したSAMにおいて電位−電流曲線が得られたことから、当該タンパク質を付加したSAMの作製に成功した。
 グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼタンパク質溶液にウラン溶液を一定量ずつ添加し、吸光スペクトルを測定する錯生成試験を実施した。その結果、当該タンパク質溶液はウラン添加により吸光スペクトルのピーク強度が増加したこと及びさらなるウランの添加により沈殿を生成したことで、ウランとの錯体を形成することを確認した。沈殿を生成するまでのタンパク質の吸光スペクトルのピーク強度の変化からウランとタンパク質の錯形成定数を測定した。
 2.1で作製したグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼのタンパク質機能付加SAMをウラン溶液に入れ、電位を変化させて電流を測定した。さらに、タンパク質とウランの酸化還元挙動を調べ、その電荷量から電極表面へのウラン濃集量を求めた。その結果、タンパク質機能付加SAMへのウラン濃集割合は1.25×10-9 mol/cm2 であった。なお、タンパク質を付加しないSAMでは、ウランの濃集が観察されなかった。
 以上の結果、タンパク質機能付加SAMがタンパク質を付加しないSAM よりもウランを濃集することが分かり、タンパク質機能付加SAMの有効性が明らかとなった。

3.今後の展望

3.1 吸着タンパク質特定試験
 平成18年度ウラン吸着試験で選別したウラン耐性株を用いて、平成18年度に確立した手法によりウラン耐性株に特異的に発現するタンパク質を特定する。そして、特定したタンパク質を付加したSAMを作製する。この作製したSAMの電気化学測定装置による電位−電流曲線を測定して、タンパク質の酸化還元電位を得る。また、SAMに吸着したウランについては、UV/VIS表面・界面測定装置によるUV/VIS吸光スペクトル及び電位−電流曲線から、タンパク質に対する吸着状況を観測する。

3.2 アクチノイド濃集試験
 3.1で作製したSAMによるウラン濃集割合を求める。その中でウラン濃集割合の一番高いSAMを特定する。同様に、ネプツニウムの濃集割合を測定するため、模擬的なアクチノイド溶液を用いて、ウラン/ネプツニウムの分離係数を求める。また、このSAMにγ線を照射し、未照射サンプルと比較することで、SAMの耐放射線性を評価する。ヘリウムイオンを照射し、α線に対する耐放射線性も評価する。

4.参考文献

1)Suzuki, Y., Kelly, S.D., Kemner, K.M., Banfield, J.F., “Radionuclide contamination: Nanometre-size products of uranium bioreduction”, Nature, 419(6903), 134(2002).
Japan Science and Technology Agency
原子力システム研究開発事業 原子力業務室