研究分野

令和5年度 国家課題対応型研究開発推進事業 原子力システム研究開発事業 選定課題

基盤チーム型:計1課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 アクチノイドマネジメントを備えた燃料サイクルの研究 〜持続的な原子力利用に向けて〜 山村 朝雄
[京都大学]
東京科学大学、日本原子力研究開発機構、三菱重工業株式会社 クリーンエネルギーによる経済社会構造の変革を目指す「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、多様かつ継続的な原子力利用が求められている。しかるに、燃料サイクルの諸量解析より、プルサーマル利用におけるPu核分裂性核種組成の低下で3回以内に継続利用できないばかりか、マイナーアクチノイド(MA)量が数倍となり処分面積の大幅増大が見込まれること、高速炉によるPu組成改善やMA分離変換は22世紀と見込まれ、その間の暫定保管と、MA変換発電炉が必要であり、持続的な原子力利用には研究が必要である。この課題に対応し、核分裂性Pu組成の品質管理(I)、MA処分負荷(II)、核変換技術(III)から成る「アクチノイドマネジメント」を提唱した。MAを伴う困難な社会実装に対して、独創的・革新的な実験・開発手法、シミュレーション、マテリアルズ・インフォマティクスの利用とともに、技術成熟度評価(TRL)に基づく評価とステージゲートの設置を行う。

ボトルネック課題解決型:計1課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 二相流CFDに基づく機構論的DNB予測手法の開発 大川 富雄
[電気通信大学]
九州大学、日本原子力研究開発機構、株式会社大和システムエンジニア 既存炉で培った技術をベースにしつつ安全性を格段に向上させた次世代PWRは、我が国が電力の安定供給とカーボンニュートラルの早期実現を達成する上で必要不可欠のシステムである。次世代PWRとして、大型炉、小型モジュール炉(SMR)、船舶搭載炉、海上浮揚式炉等が提案されているが、いずれにおいても、安全性を確保するための熱水力上の最重要課題は、沸騰遷移(DNB)による燃料棒温度の急上昇を確実に防止することである。しかしながら、現状のDNB予測は、実験データに基づく経験式を用いて行われているため、実験と異なる体系における予測精度の低下が、次世代PWRの安全評価上の大きな課題である。したがって、次世代PWRで重要となる炉心流路内構造物や揺動運動の影響も含めてDNBを正確に評価するためには、経験則を脱却して、複雑形状流路や過渡状態でも予測精度が低下しない「機構的DNB予測手法」を開発する必要がある。
ここで、近年の理論解析により、DNBの発生における最重要プロセスは「大局的気泡合体による大気泡の形成」であり、大気泡の形成条件を高精度で予測できれば、DNB熱流束を機構論的かつ保守的に評価できることが明らかとなった。そこで本研究では、詳細実験により大気泡形成過程を解明するとともに機構論的モデリングを行い、実機条件にも適用可能な大気泡形成条件予測モデルを開発する。次に、本モデルを標準的な熱流動現象解析技術である「二相流CFD」に組み込み、複雑条件でも予測精度が低下しないDNB予測手法を開発する。本技術により、機構論的かつ標準的なDNB予測を実現し、次世代PWR安全評価の精度及び信頼性の向上に資する。

新発想型(一般):計5課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 超高温体の急冷機能を付与したハニカム冷却技術による新型原子炉のIVR開発 森 昌司
[九州大学]
電気通信大学 世界に存在する200以上の既設炉のリプレースや原子力新規導入国などにより、新たな原子力の需要が高まりつつある。この世界的な需要に対し、原子力の国際展開を進めることは、世界のエネルギー安定供給と地球温暖化問題への貢献だけでなく我が国の経済成長の観点からも重要である。この開発の中で過酷事故時における炉心溶融デブリ炉内保持(IVR)技術(原子炉容器を水中に丸ごと水没させ冷却する手法)の開発は深層防護を強化する観点からも極めて重要である。申請者らは、2014‐2016年度原子力イニシアティブ(事後評価:S)などにおいて、ハニカム多孔質体を用いた革新的な冷却手法を提案し、限界熱流束を大幅に向上させることに成功した。本IVR技術を実機に適用する際に重要なもう一つの技術は、高温体の急冷技術の開発である。すなわち水注入のタイミングを逸し圧力容器が高温になった場合でも速やかに沸騰冷却可能な状況に遷移される技術の開発である。以上の背景下、申請者らはハニカム多孔質体とナノ流体を組み合わせると高温体を急速冷却できることを新たに見出した。
そこで本申請課題の最終的な達成目標を、『高熱流束除熱と超高温体の急速冷却を両立可能な革新的ハニカム冷却技術を開発する』こととする。
2 ナノサイズグラフェンの花開く、革新的中性子反射材の開発 勅使河原 誠
[日本原子力研究開発機構]
理化学研究所、株式会社インキュベーション・アライアンス、兵庫県立工業技術センター、茨城大学 中性子をブローブとした科学を加速度的に促進させるため、中性子の干渉性散乱を最大限に活用する中性子反射材を開発し、これまで散逸して失われていた中性子を有効活用することにより、2桁以上もの中性子の高強度化を目指す。例えば、建設計画が検討されている新たな試験用研究炉(熱出力10MW程度)の線源出力でもギガワット(GW)出力に相当する中性子強度を高強度化する革新的な技術開発を行う。
3 高エネルギー中性子核データ高度化のための複合核崩壊過程の研究 西尾 勝久
[日本原子力研究開発機構]
- プルトニウム増殖型の原子炉、マイナーアクチノイド(MA)を燃焼させてエネルギーを取り出す革新炉、さらには長寿命MAを減容させる加速器駆動炉など、次世代炉を核設計するために重要な核データである中性子入射断面積のうち、中性子ビームを用いた実験手法では困難で、主要なMA(237Np,241,243Am,244Cm)として実験データが存在しない非弾性散乱断面積を、イオンビームを用いた代理反応によって取得するための技術開発を行う。代理反応で非弾性散乱断面積を導出するのは本研究が初めてであることに加え、高エネルギー中性子領域でデータが不十分な核分裂断面積、中性子捕獲断面積、さらには(n,2n)断面積を1つの実験セットアップで同時に導出できる先駆的な手法である。本研究は、それまで断面積の種類ごとに独立した測定と評価を行ってきた核データを、一貫した理解のもと、統合的に取得できる点で画期的であり、少ないリソースと短い期間で、信頼ある核データを取得することを実現する。
4 核燃料の超高温その場観察技術の開発 有田 裕二
[福井大学]
東北大学、東京科学大学、日本原子力研究開発機構 事故耐性燃料や小型原子炉のために様々な燃料開発が進められている。これらの開発には、高温安全性試験は、避けて通れない課題である。しかし原子炉を使った照射試験は時間と費用がかかるため、早期の実現を図るには並行して炉外試験で対応する必要がある。高温安全性試験での課題は、2000Kを越える高温での測定手法が確立していないことである。本提案では新たに開発したU字型W試料ホルダーを使用してUO2の融点(3140K)を越える高温まで加熱する手法を開発する。これにSPring-8からの高エネルギーX線を照射しXAFS試験、X線関節試験を実施しUO2が溶融する過程での被覆管成分との反応を直接観察する。これまでの実験では、一旦冷却した試料の状態の観測でしか情報を得ることが出来なかった高温での反応の情報が直接その場観測により得られる。安全性能の不確定性を下げることが出来るため経済性に優れた合理的な核燃料の設計が可能となる。
5 照射劣化しない多元系固溶体の軽合金の探索 村上 健太
[東京大学]
長岡技術科学大学 原子炉容器や炉内構造物を軽量化できれば、耐震設計が容易になり、プラントのレイアウトや立地の自由度が増加する。しかし、寸法安定性や照射脆化への懸念から、軽金属は原子炉材料には向かないとされてきた。
本研究は、多数の元素を同量程度ずつ混合するという材料設計戦略(いわゆる高エントロピー合金)のもと、中性子照射場で利用可能な新しい軽合金の組成を探索することを目的としている。
蒸着技術を使って多様な“合金”薄片試料を少量ずつ多種類制作し、それを走査電子顕微鏡と計装押込み試験を組み合わせて高速で分析する。103オーダの化学組成⇔結晶構造⇔機械的特性に関するデータを実験的に生成し、これを計算状態図法や機械学習と組み合わせる。有望な組成レンジの試料をイオン照射試験に供して、照射劣化の程度をナノスケールで評価する。また、照射材を使い、高エントロピー合金の学理に不可欠な短距離秩序の発現性についても考察する。

新発想型(若手):計1課題

No. 提案課題名 研究代表者
[所属機関]
参画機関 概要
1 データ駆動型音響診断を基盤とした炉内異常の早期検知による安全性強化技術の研究開発 植木 祥高
[東京理科大学]
日本原子力研究開発機構 ナトリウム冷却高速炉における深刻な損傷に至る異常の早期検知手法の提案に基づく、安全性強化の実現を目指した基盤研究である。炉心の局所閉塞による沸騰発生から事象推移などの検知・把握手段として、現象の発生から推移に至る物理現象に係る一次情報をほぼ時間遅れ無く取得・把握が可能で且つ発生点から離れた位置から計測可能な「音響手法」を用いる。これに加えて、計測信号に重畳する(発生点と検知点を繋ぐ強非線形複雑場による)外乱要因から異常や変化を識別する手法として発生現象と音響発生メカニズムの相関関係の解明から得られる知識ベース(物理機構に基づく音響特徴量)を取り込んだ「機械学習手法(データ駆動型音響診断技術)」を統合させる独創性に富む技術の適用によって異常やその兆候の物理現象を直接的且つ早期に検知を可能とするものであり他に例はない。これにより現行技術である発生現象の間接的変化を時間遅れを以て検知するという課題を解決するとともに,異常の早期検知の実現によるより一層安全性を強化した炉システム概念の構築に寄与するものである。
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